クエストの結末
「っと、みんなストップ。いたぞ。ターゲットのオークだ」
オーク六体が一箇所に集まっている。
ゴブリンが小鬼だとしたら、オークは巨大な二足歩行の猪か。
二メートルを超えるゴルドンさんより大きいから、二メートル三十センチくらいか。
それなりに知性があるのか、人間の使うような鉄製の剣やメイスなどの武器を持っている。
食らえばタダでは済まないだろう。レンカ達も防具を着けているとは言え、衝撃はすごいはずだ。
「レンカ、やれるか?」
「はい。でも、お願いがあります。先生」
「ん?」
「依頼を始める前に一体だけ倒し方のお手本を見せて貰えませんか? 依頼は五体だけですし、シエラちゃんも良いですか?」
シエラはもう戦闘準備が出来ていて、既に巨大なハンマーを構えていた。
もうやる気満々で今にも飛び出しそうだった。
そのせいか、レンカに止められたシエラは一瞬すごい渋い顔をした。
でも、すぐに何かを思いつくと、あっさりとレンカの提案を受け入れた。
「良いぜ。言われてみればあたいも宗一の旦那の戦い方を学びたくなった。ついでに、依頼は五体ピッタリだ。レンカ、あたいとどっちが多く倒せるか勝負しねぇか?」
あぁ、そういうことか。
シエラのヤツ、引き分けが無い勝負に持ち込もうとしているのか。
仕方無い。かわいい弟子のためにもやるか。
「んじゃ、行ってくる。俺が一体倒したら、後はお前達二人でやるんだぞ?」
レンカとシエラが無言で頷き、ゴルドンさんは飛び出すのを必死に我慢しているのか、マッスルポーズでプルプルしていた。
さてと、武器はゴブリンの斧なんだよなぁ。
ついでに新しい武器でも新調するか。さて、メイスに槍に剣、ん? 何か随分と装飾が派手な剣があるな。あれを頂こう。
一番奥のオークに狙いをつけた俺は斧を手に構えて、一気に木の陰から飛び出した。
オーク達のど真ん中に躍り出て、一斉に注目が俺に向く。
先制は頂いた!
ターゲットにしたオークの足を斧で切りつけると、オークは片膝をついた。
ゴブリンの斧は刃が鈍いのか、オークの皮膚が硬いのか、切るというよりも叩きつける鈍器のような攻撃になった。
でも、血で汚れないのはラッキーかもな。
その膝を足場に剣を持った腕に向かって跳躍し、手首に斧をもう一度叩きつける。
すると、オークはあっさり剣を手放した。
「いただきっ!」
空中に放り出された剣をキャッチしつつ、オークの集団から距離をとる。
やっぱり勇者つったら剣だよな!
でも、随分と敵さんはご立腹みたいだ。一斉に大きな雄叫びをあげている。
でも、俺に注目が向いている間はレンカ達が無事だから良いことか。
「さて、んじゃ、いっちょ、格好良いところ見せますか」
こちらにドシドシと地を揺らしながら五体の無傷なオークが向かってくる。
まずはメイスが俺に向かって振り下ろされた。
そのメイスを横に身体をずらしてかわし、ジャンプで乗っかる。
「ふごっ!?」
オークの驚いた声を無視し、メイスの上を走って、オークの肩にまで駆け上がる。
やっぱり二メートル以上あると、景色が違って見える。
でかいと思ったオークを見下ろせるんだからさ!
俺は今乗っているオークの肩を足場に、奥にいるオーク達の頭を次々に踏みつけながら、奥に隠れたターゲットに飛びかかった。
「これで沈めっ!」
そして、オークの肩と首の間に剣を振り下ろし、オークの身体を血に染めて、地面に沈めた。
これで俺の出番は終わりだ。これ以上やったら、レンカ達が反則のペナルティを食らってしまう。
だから、残りの五体は――。
「レンカァァァ!」
「ちゃんと覚えました!」
木の陰からレンカが猛スピードで飛び出し、俺の横を駆け抜けていく。
レンカのやつ、すれ違う時に笑っていやがった。
良いぞ。その自信がお前を強くしてくれる。
「ちょっ!? レンカ! フライング! って言いたい所だけど、そのぐらいのハンデくれてやらぁ!」
そして、出遅れたシエラがハンマーを構えて突っ走る。
シエラの方も楽しそうに笑っていた。
本当に良いライバルが出来てくれたもんだ。
「良い笑顔ですな。あの二人」
「はい。師匠として、ちょっと鼻が高いです」
「宗一殿とレンカ嬢のおかげで、我が輩のところのシエラも良い心の筋肉がついております。いやぁ、筋肉が疼きますなぁ!」
心の筋肉って便利な言葉だなぁ!
俺のちょっとした感動が台無しだ!
ゴルドンの筋肉語りはとりあえず聞き流すとして、レンカは本当にのびのびと戦っている。
オークに近づき、攻撃を誘発すると、くるりと一回転しながら鮮やかに振り下ろされた攻撃を回避する。
そして、すかさず敵の手首を切りつけ、腕の腱を切る。
攻撃を封じた次の瞬間には、敵の後ろに回り込んで足の腱を切り裂く。
足の腱を切られ崩れたオークの肩にレンカが飛び乗ると、オークの首を切り抜けて次の得物へと向かう。
流れるような急所への連続攻撃。
先ほどの俺の戦いを覚えたと言っただけあって、本当に俺と似たような戦い方をしていた。
「宗一殿のように鮮やかな戦い振り。何としなやかで美しい筋肉か」
ゴルドン、最後の筋肉が無ければ素直にその褒め言葉を受け取れるよ。
「シエラの方は、さすがゴルドンさんの弟子って感じの戦い方だな」
シエラも負けてはいない。
レンカが鮮やかな戦い振りだとしたら、シエラは豪快な戦い振りだった。
真正面からオークの攻撃と打ち合い、敵の武器を弾き飛ばす。
そうやって力による衝撃だけで敵をひるませると、無慈悲に鉄の塊を腹や頭に叩き込んで、オークの身体を潰していく。
「お、最後の一体か」
今の所、レンカとシエラの撃破数は二体二の引き分け。
次の一体で勝敗が決まる。
「あたいの勝ち!」
「私の勝ちです!」
シエラのハンマーがオークの腹部を潰し、レンカの刀がオークの首を跳ねる。
死ぬときに二つの痛みを同時に味わったであろうオークが気の毒になるほど、タイミングは同時だった。
「おいレンカ! 今のはあたいの方が早かったぞ!」
「いいえ、私の方が早かったです!」
って、言い合いを始めた。
レンカも意外と負けず嫌いだよな。
「先生どっちですか!?」
「ゴルドンの旦那! どうだった!?」
やっぱり、こっちに振るよなぁ。
「同時。引き分けだ」
「あう……」
レンカが勝ったと言っても良いけど、嘘はつけないしな。
でも、そのせいで何かすっごいガッカリされた。
ゴルドンも引き分けだと言うと、シエラもすごいガッカリしていた。
「うー……、まだまだ先生の背中は遠いです。先生だったらもっと早く倒せていました」
「くっ……あたいも筋肉が足りないのか。ゴルドンの旦那なら、武器ごと敵をへし折ってたぜ……」
この勝負と俺の背中は関係無いだろうに、やる気なのはありがたいことだけどさ。
「とりあえず、討伐報告用にアイテムを回収しとけよ」
「あ、そうでした。魔物の血石を拾ってきます」
魔物の血石、どうやら魔物の命の結晶とかで、魔物の生命力や魔力が凝縮した宝石みたいなものだ。
魔物によって様々な濃さの魔力や、属性が異なるので、集めた血石でどんな魔物を倒したかが分かり、武器や魔法具の材料となる。
やはり強い魔物ほど質が良くなるようで、ドラゴンの血石はかなり強力な魔法を放つ道具になるそうだ。
レンカの試験のためにもドラゴンを倒して、ドラゴンの血石を手に入れたいところだったが、結論から言えば俺達はドラゴンの血石を手に入れられなかった。
ドラゴンに勝てなかった訳ではない。
ドラゴンと戦えなかったんだ。
竜の巣と呼ばれる鉱物の豊富な山に行ったら、そこらへんに巨大な竜の死体が転がっていた。
切られたり突き刺されて絶命したのではなく、焦げたり砕けたり明らかに普通ではない死に方をしている。
「なんだこれ……。レンカ、これはやっぱり魔法か?」
「魔法だと思います。でも、竜をこんなに倒せる人って、相当な大魔法使いですよ。そんなに沢山いるとは思えません」
「魔法使いか……なーんか嫌な予感がするんだよなぁ。考えすぎかなぁ……」
「先生? 何か心当たりがあるんですか?」
「つい最近見た勇者と大賢者の魔法バトルを思い出してた。あの二人の弟子だったら、これぐらいやるのかなーって思って」
レンカの言葉を信じるのなら、よっぽど強い魔法使いしかこんな芸当は出来ない。
そして、そんな魔法使いを俺は二人しか知らなかった。
だから、考えすぎだと思ったんだけどな。
「いんや、宗一の旦那、それ正解みたいっす」
ハンマーを気だるそうに肩に担いだシエラが前を指さす。
その先を見てみると、確かに見覚えのある人影がいた。
「宗一君とゴルドンさんじゃないですか! 奇遇ですね。皆さんもドラゴン狩りですか?」
金髪勇者のアルフレッドがいた。そして、その隣にはエルフの魔法使いエルマもいる。
「一足遅かったみたいね。ドラゴンは私達の弟子が全て討伐したわ」
エルマがそういうと、二人の奥から弟子達が現れた。
「ふっ、シエラも他人を気遣うということを覚えたんだね。優しさは勇者への第一歩だよ。君がレンカ君を護衛しているのなら、問題は起こらないだろう」
褒めているように聞こえて、実際は誰に対してもイヤミの塊でしかない。
髪の毛をかきあげて格好付ける勇者っぽい勇者のイケメン。アルフレッドとそっくり過ぎて、アル二世とか小アルという呼び名が良く似合う金髪少年だ。
「あー……だるー……。仕事終わったんだから、もう帰って良いでしょ? シエラは相手するのが面倒臭いし……」
そして、かなり気だるそうにうなだれている黒いフードを被った女の子が、エルマの弟子だろうか。
やたらと年季の入った杖っぽいものを持っている。
「そうね。リコ、転移魔法を発動させなさい」
「えー……だるい。先生がやってよ」
「なら、一人で歩いて帰る?」
「それはもっとだるい……」
エルマにリコと呼ばれたフード娘が杖で地面を叩くと、青い魔法陣が現れた。
転移魔法って言っていたし、学園に帰るのかな。
にしても、こんなすごそうな杖を持っているのに、わざわざなんでドラゴンを根こそぎ退治するんだ?
「良い杖ですよね。宗一君もそう思いませんか?」
「え?」
アルフレッドが突然声をかけてきて思考が中断された。
杖ってこのリコって子の杖か? 確かに年季が入っていて、装飾も見事な杖だけどな。
「どうやら伝説の杖らしいですよ。かつて魔王を封じた杖の一つとか」
「へー、そんな武器もあるんだな」
「他にも魔王を封じた剣もあるとか、勇者としては見過ごせませんよね」
「まぁ、そうだな。でも、魔王を封じた武器ってもっとすごい雰囲気をしているかと思ったよ」
ゲームだと最強アイテムか、キーアイテムになりそうな武器だし、お目にかかってみたいとは思う。
でも、リコの持つ杖が本物だとしたら、何というか意外とそんなモノか。って感想だった。
「どうやら魔王を封じた時に大半の魔力を使い切ったとか。おっと、長話をしていると怒られそうなので、この辺で失礼します」
「あぁ、うん、おつかれさま」
「ドラゴンはもういませんが、景色は良かったですよ。楽しんでいって下さい。景色だけでドラゴンの指輪は作れませんですけどね」
アルフレッドが爽やかな笑顔とともに、イヤミを残して去って行く。
よくあんなのが勇者をやってるよ。
いや、あんなのだから勇者なのか?
魔法陣で消えたアルフレッドの姿を見送ると、シエラが悩んだように腕を組んで唸っていた。
「うーん……困ったな」
「どうしたんだシエラ?」
「んー……ドラゴンの血石がないと強い指輪が作れないなって。あたいは魔法が苦手っていっても、魔力はC級はあるんっすよ。オークとかの血石で作った指輪じゃ、容量が小さすぎて精々E級の魔法っす。杖にしても精々D級の魔力のヤツが魔力を限界まで引き出せるようになるぐらいで、C級には劣るんすよ。魔法を詰め込んだ結晶だったら、好きな魔法突っ込めるから威力は関係無いけど、使える回数に限りがあるんっすよねー」
シエラが言うには今日集めた魔物の血石では、彼女の力を引き出せる武器や魔法具が作れないということらしい。
ドラゴンだったら最低でもB級。質の良い血石がたくさんあればA級。下手したらS級魔法が込められたらしい。
ただ、シエラが悩んでいたのもほんの数秒で、すぐに何かに納得したのか頷いた。
「まぁ、でも、レンカならちょうど良いかもなー。レンカって魔法が使えないんだろ? だったら、E級の魔法が使えるようになるだけでも、指輪を持つ意味あるからさ。今日の血石、全部持ってけよ」
「え!? いいの!? だって、半分はシエラちゃんの倒した分だよ?」
「あたいが持ってても仕方ねぇしなぁ。それに、レンカが魔法を使えるようになったら、一緒に魔法の特訓が出来るだろ?」
「あっ……。うん! 指輪が出来たら一緒に魔法の訓練しよっ!」
「おう! あたいはゴルドンの旦那の言う通り、筋肉で何とかしてみるよ!」
シエラさんマジかっけぇ……。
俺もこんな友達欲しかったかもなぁ……。
「それじゃ、最後に景色だけ楽しんで帰ろうか。レンカもお腹空いただろうし、ちょっと早めのお昼ご飯だ」
だから、ちょっとだけ混ぜて貰おう。
俺が手に入れられなかった時間をほんの少しだけ、取り戻そう。
「はい! 一緒に食べましょう先生!」
レンカ達と一緒に食べたお昼のサンドイッチは、何故かちょっとしょっぱい気がした。
○
夕方、学園に戻ると倉庫小屋のポストに封筒が突き刺さっていた。
中身を取り出してみると、それは今度の魔法試験で相手をする組み合わせが書いてあった。
「おっ! やったね。あたいは一位のクソ野郎と戦えるじゃん!」
あのアル二世をクソ野郎と来たか。同意はするけど、口には出さないでおこう。
前回の剣術試験では最下位のレンカとぶつけられたけど、本来ならシエラはそういうトップ10で戦う子だから、一位とぶつかることもあるよな。
「えーっと、レンカの方は……はぁ!?」
「ど、どうしたんですか先生!?」
冗談だろ? いや、本気だったとしたら余計タチが悪い。
明確な悪意を持って、この対戦表を作ったとしか考えられない。
「リコってさっきのフード被ってた子だろ!? しかも階級二位だって!?」
エルフの大賢者エルマの弟子にして、ドラゴンを根こそぎ焼き尽くした勇者候補階級二位の大魔法使いが、最弱の人形使いレンカの次なる対戦相手だった。




