どうせNOとは言えないのでしょう?
「さて、国王陛下を余りお待たせさせる訳にもいかない。サラマンダー、カッシス。彼は自分で荷台から下りられないようだから、手を貸してあげなさい」
僧侶の言葉に従い二人の男が僕の両脇に手を入れ軽々と荷台から僕を下ろした。僕の体にはまるで負担は掛からない。どんだけ力があるんだこいつら。
「ちなみに君の右に居るのがサラマンダーで左に居るのがカッシスだ」
「氷解せし炎の蜥蜴、サラマンダーだ」
「飛翔せし草羽の蜉蝣、カッシスです」
………なんだ今のは。自己紹介のつもりか?自分は頭がおかしいってことを伝えたいならこれ以上はないってくらい適切な自己紹介だったが。偽名にしてもせめて日本的な、普通なものにして欲しい。
「二人とも貴重な二重属性持ちだ。我が国の兵の中でも精鋭の部類に入るね」
最後になってしまったが、と僧侶は前置きを入れる。
「私の名はシューイン。隠れし錬罪の賢者シューインだ。宜しく勇者殿」
シューインと名乗った男は仰々しく僕に一礼をすると芝居がかった動作で自分の真後ろにあった建物を手の平を向けて示す。
つられて示された方向に目を向ければそこにあったのは絢爛にして華美なるお城があった………なんてことはなく築十年くらいの地味な平屋ががあるだけだった。
「ここは?」
「王城さ。国王陛下とアウラは此処におられる」
「朝日町交流会館って看板に書いてありますが?」
「まぁ建前上の名というのも必要なのだよ」
ああそうですか。
しかし僕としては得体の知れない暗がりなんかに連れていかれるよりはマシな展開だと言える。 シューインが何と言おうと此処はあくまで交流会館でありつまりは公共の場だ。 気休め程度には気持ちも楽になる。
だがそんな公共の場に誘拐してきた高校生を連れ込むなんて一体どういうつもりなのだか。 こいつらは、本気でこれが誘拐では無いなどと思っている節があるが、そんな屁理屈 国家権力たる警察には通用しない。 勇者がどうだの言ってる間に手錠が両手を結んでいることだろう。
「では、行こうか」
サラマンダーとカッシスに伴われ、歩きだしたシューインの後を僕も追って行く。 交流会館の引き戸を開けるがらがらという音が、今の状況の馬鹿馬鹿しさを笑っているようだった。
会館の中に入ると一斉に無数の視線が僕の方を向いた。
会館の中には十人以上の人間が居た。各々パイプイスに座っていたり、壁にもたれ掛かっていたりと纏まりが無いように見える。
老若男女もバラバラだ。
僕よりも幼く見える、中学生くらいの男子も居れば、明らかに還暦を迎えているよう様なヨボヨボのおばあちゃんも居る。
だがそんな彼等もまた、シューインやサラマンダー達と同じ様にコスプレとしか言いようの無い格好をしている。成る程どうやら本当に此処はこいつらのアジトのようだ。 余計なお世話になるかもしれないが、朝日町は大丈夫なのか?こんな連中が町民会館にたむろしているなんて、ろくなもんじゃない。
「ハイル・アサヒ!」
会館の中に居た連中に向けてであろう。シューインとその他二人が訳の分からないことを叫びながら、右手を胸の前に突き出す奇妙なポーズをとった。
いきなりのことに僕が驚きそしてドン引きしていると、会館の中に居た連中も「ハイル・アサヒ!」と叫び全く同じポーズをとった。
「皆さん、どうかお喜び下さい。我等の命運をかけた勇者召喚の儀は滞りなく成功致しました」
シューインは、まるで神の声を受けた神官かというような喜びに満ちた声でそう宣言する。
その宣言に対する反応はまちまちで、「おおおっ」と今にもひざまずき兼ねない様な反応をする者も居れば「ふん」といかにも馬鹿にするように鼻を鳴らす者も居る。
いいぞ、名も知らぬ若い男。そうだよ、こいつら馬鹿なんだよ。だからその見下す様な視線は僕にじゃなくてシューインとかに向けてくれ。
「私はこれから彼を国王陛下の下へと連れていきます。その際国王の御前にて彼の洗礼を行いますので、アウラを国王陛下のお部屋まで連れて来てください」
シューインが言うに伴い先程ひざまずかんばかりに感動していた中年男が忙しなく会館の奥へと走り去って行った。 アウラとやらを連れて来るのだろう。 もう何でもきやがれと自棄になった脳みそで考える。ここまで来たら行くところまで行ってやる。
その上で、何が何でも逃げ延びてやるのだ。
「それでは勇者殿、国王陛下のところまで案内するから、着いてきてくれるかい?」
「どうせNOとは言えないのでしょう」
シューインが僕を、出来の良い教え子を見る様な目で見る。
勘違いするな。この状況を受け入れた訳じゃないぞ。ただ此処で逆らっても意味が無いってだけだ。
「それでは行きましょう。こちらです」
ああ着いていくとも。何でも来やがれ、畜生。




