第59話 二月の号砲、あるいは最後の一千発
僕たち二人と、テツさんだけじゃなくベルさんも同じ学校の生徒だったんだ。
僕にとって、あそこは逃げ出してきた場所。だけどベルさんは、僕たちの六角塔が特徴的な校舎の、ほんの少し上にある丘の上の校舎にいるんだ。
八代にとってこれは最高のネタで、同時に強烈な誇りらしい。それは、「マジか! じゃ、俺たちただのネットのユニットじゃなく、本当のチームじゃんか!」という言葉にも表れていた。
テツさんはテツさんで、「この生意気なやつが俺の後輩だなんてな。あ、これはエイトだけのことだぞ。ベルさんとカツミちゃんのことじゃないのはわかるよな?」
と、相変わらず「ベルさん」呼びだけど、内心孤独な浪人生活の中で守るべき弟分と妹分ができたことが嬉しいらしい。
一方ベルさんにとってはどうなんだろう。あのときの表情はなんだったんだろう……。
敗れたとはいえ、二位で予選を通過した翌日からベルさんは店に来なくなった。
あの日からもう何日経つんだろう。今日もベルさんは現れなかった。
この店に来るのは、僕にとってはもう生活の一部、本当の居場所になっている。
本戦までの間、店に行かない日は一日たりともなかった。たとえベルさんがいなくても。辛い……嫌な予感しかしない。
+++
2月2日19時
本戦開始の1時間前になっても、ベルさんの姿はカウンターの奥にはなかった。
八代もテツさんも、冗談を言う余裕すらなく、ただ無言でカウンターの向こうを見つめている。
「来るよ。ベルさんは、絶対に来る」
自分に言い聞かせるようにつぶやいた、その時――。
店内の空気がわずかに震え、いつもの場所に、あの細いシルエットが現れた。まるでそこがリスポーン地点だというように。
「「「!!!」」」
けれど、彼女の姿は時々輪郭が揺らぐようにも視えた――僕にしかわからない感覚。
ベルさんは自覚しているかわからないけど、言い訳じみた説明をする。
「ごめん、みんな。この2週間、リアルでちょっとトラブっちゃってね。でも今日は大丈夫。……もう、これで最後だから」
最後? 引っかかる……たしかに今日の試合ですべてが決まる。敗者か勝者か。
でもそれは僕には別の意味に聞こえる。ベルさんは――でもそんなことは絶対に口に出せない。
「今は事情があって学校には通ってないんですけど、行けるようになったら、僕、絶対ベルさんに会いに行きます!」
その代わりに僕の口から出た、一縷の望みをつなぐ言葉は簡単に否定されてしまった。
「んー、それはどうかな……」
僕は確信してしまった。けれど、それを言い訳に本戦で負けるわけにはいかない。他の二人にはわからないけど、こんなに苦しそうなベルさん……僕たちは、いや僕は絶対に負けない!
ベルさんは、いつものようにニッと笑い、言い放った。
「さあ、決戦よ! みんな自分のストレージギリギリいっぱい弾薬をぶち込んで! 店の在庫ゼロになっても構わないわよ!!」
「その言葉待ってたぜ! ベルさん!」
「え? トリガーハッピーしちゃっていいんすか!?」
八代とテツさんは、ただ喜ぶだけだ。僕には、今日が本当の最後にしか思えなかった。
そんな考えが頭をよぎる僕の顔を見たベルさんは、うっすらと笑みを浮かべ、
「カツミ、あなたは本当に強くなったわ。私じゃ、もうあなたには勝てない。自信を持って。……ほら、『訳あり』炸裂弾を1000発用意しておいたわ。それであなたの『真実』を掴みなさい」
「……はい!」
そして僕たち四人は、本戦会場がある、セントラルシティ中央へ向かった。




