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25(最終話)

ベッドの上でセシルはなぜこんなところでアルフレッドに怒られないといけないのだろうかと情けない気持ちになってしまう。

せっかくお互い昔の記憶が蘇って運命的な再会のはずなのにセシルの気分は最悪だ。

怒りが収まらない様子のアルフレッドはセシリアが早く死んだことを相当怒っているらしい。


(と、いうことは。私は嫌われていたわけではないってことでいいのかしら)


ホッとしながらセシルはアルフレッドになるべくにこやかに聞いてみた。


「一番気になっているのは、私たちは結婚したのかしら?」


今結婚できるわけではないのに、セシルは口から心臓が飛び出るぐらいの勢いでドキドキしながらアルフレッドの答えを待つ。

アルフレッドは長いため息の後に、ゆっくりと口を開いた。


「しない」


「あ、そうなの」


やっぱり結婚はしていなかったかとセシルはがっくりと落ち込んだ。

そんな予感はしていたのだ。

結婚して幸せな家庭を築いたという思いがしないのだ。


「しないというか、できなかったと言う方が正しいいい方だな」


落ち込んでしまったセシルを見ながらアルフレッドはゆっくりと言った。


「どうして?」


何があったのだろうかと首を傾げるセシルにアルフレッドはまた怒りが蘇ったのか睨みつけた。


「お前が死んだからだ!」


「あ、なるほど!ん?ちょっと待って!アルは私と結婚してくれる予定だったの?」


納得した後に、アルフレッドが出来なかったと言ったという事は、アルは結婚する意志があったという事だろうか。

驚いているセシルにアルフレッドは不機嫌そうだ。


「なぜ微妙な所しか覚えていないんだ!姫さんが勝手に俺に好きな人が居るって勘違いして一人で落ち込んで。その後の事を覚えていないのか?」


「覚えていないというか、思い出したのが少ないのかもしれない……」


セシルが思い出したのは場面の一部がほとんどで詳細が分からないところが多すぎる。

アルとセシリアが存在していたという事ぐらいしかわかっていないのかもしれない。


「その後、俺の好きな人はずっと姫さんだって言ったのは覚えていないのか!」


責められるように言われてセシルは首を振った。


「覚えていないわ。え?アルは私が好きだったの?!」


まさかの言葉にセシルは喜びで胸がいっぱいになった。

過去の事だが、アルフレッドに言われているようでうれしくなる。


「嬉しい。私たち両想いだったのね」


涙を流さんばかりに感動しているセシルにアルフレッドは頷いた。


「全く同じ言葉を姫さんも言っていた。それなのにお前は死んだ」


何度も死んだ、死んだと言われてセシルはうんざりしてくる。


「いや、死にたくて死んだわけじゃないのにどうしてそこまで言われないといけないのかしら」


時を超えて会えたのに、死んだことを怒られていい加減にしてほしい。

もう少し、会えたことに喜んでほしいのにアルフレッドは怒ってばかりで嬉しくなさそうだ。

ムッとするセシルにアルフレッドもまだ怒りが抑えられていないようで睨みつけている。


「だから俺は何度も言っていた。力を使ったら死んでしまうかもしれないから使うなと!そして今も何度も言ったのにお前は使っている」


「それは……そうね。悪かったわ。でも、マーガレット王妃は死んではいけない人だし。フィリップ様も死んだらセリーヌさんが悲しむし。使ったことを後悔はしていないもの」


セシルがそう言うとアルフレッドはますます険しい顔をする。


「同じ言葉を前も言っていた!そう言ってお前は死んでいったんだ!力を使ったことを後悔していないと!俺の命を救えたのは良かったと!」


アルフレッドは興奮しながら立ち上がるとセシルの手を掴んだ。


「この手でお前は何人もの命を救った。そして体が弱って死んでいった!俺はお前に死んでほしくないんだ!それは、昔も今も変わらない!もう、俺を残して死ぬな」


グイっと腕を引っ張られてアルフレッドに抱きしめられた。

セシルはオズオズとアルフレッド背中に手を回す。

体温を感じるように力強く抱きしめられて心の不安やわだかまりが溶けていくような気持ちがしてセシルもギュッと抱き着いた。

抱きしめているアルフレッドが震えているのに気が付いてセシルは頭を上げようとするがギュッと抱え込まれて動かなかった。


「泣いているの?」


セシルが問うもアルフレッドは答えない。

しばらく抱き合っていたが、セシルはそっと口を開いた。


「私もね、変わらない思いがあるの。前と変わらずアルもアルフレッドも大好きって事」


勇気を振り絞って言うと、アルフレッドは微かに笑っている雰囲気がした。


「奇遇だな。俺もセシリア姫もセシルも変わらず愛している」


アルフレッドの声が涙声だったからやっぱり泣いているんじゃないかとセシルは思った。


「でも、私に初めて会った時は嫌いだったんでしょ?」


「嫌いではない。ただ怒りが湧いただけだ。どうして俺を置いて行ったんだと」


またその話かとセシルはうんざりしながら頷く。

アルもアルフレッドもセシリアが死んだことがよっぽどトラウマになっているのだろう。


「大丈夫よ。もう早く死なないから。アルフレッドが心配するからもうなるべく力は使わないわ」


「アンタのいう事は信用できない」


きっぱりと言われたがセシルはアルフレッドの背中を叩いた。


「私はアンタじゃないわ。前も言ったと思うけれど、セシルって言う名前よ」


セシリアと呼ばれるのも悪くないが、できれば今の名前で呼んでほしい。

アルフレッドの困惑した雰囲気が伝わって来た。

名前を呼ぶだけなのに何をそんなに困っているのだろう。


「セシリア姫と呼んで怒られた過去があるからな。アンタを名前で呼ぶのが難しい気がする」


名前の呼び名で揉めたのはセシルも覚えている。

それで、名前で呼んでくれないのかとセシルは噴き出しそうになった。


「呼び名問題は覚えているわ。アルと仲良くなりたくて“セシリア姫”なんて他人行儀で呼んでほしくなかったと言う可愛い恋心よ。結局“姫さん”呼びで収まったような気がするけれど。今は名前で呼んでほしい」


アルだけが特別な“姫さん”と呼んでくれるのが嬉しかった可愛いセシリアだった頃を思い出す。

今は何も制限は無いのだから普通に呼んでほしいと思うがどうしてもアルフレッドは呼びにくいようだ。

困惑しながらも、諦めたように頷く気配がした。


「もう、護衛でもなんでもないからセシルと呼べばいいのか」


「そうよ。むしろ今は、アルフレッド様が私より偉いわね」


姫と護衛騎士だったことをアルフレッドは引きずっているようだ。


「俺も、様呼びをされるのは慣れない。昔のようにアル呼びの方がしっくりくる」


セシルがからかうように言うと、アルフレッドは静かに言った。


「それは良かった。アルフレッド様って言いにくいのよね。……アルって、昔の本名はなんていう名前だったの?」


セシルが問うとアルフレッドは大きく首を振ってセシルから離れた。

落胆しているのか呆れているのか分からない顔をして青い瞳がセシルを見下ろした。


「アンタは、ほとんど過去の事を覚えていないのが解った」


「アンタじゃないわよ。セシル」


言い聞かせるように言うと、アルフレッドはため息をついた。


「昔の事をどうこう言うのは良くないとは思うが、俺の名前ぐらいは憶えていて欲しかった。アルバートだ」


「アルバート。そう言われると懐かしい気がするわね」


名前を聞いてもピンと来ないセシルはとりあえず愛想笑いをして言うとアルフレッドはますます呆れているようだ。


「名前を聞いても思い出せないようだな。まぁいい。過去にはもうこだわらない」


「そうね」


(私より、アルフレッド様の方が絶対過去にこだわると思うわ)


先に死んでしまったことを根に持っている彼はこれからも何度も言ってくるのだろうなとセシルは思いながら頷いた。

セシリアが死んだことを生まれ変わっても悲しんでいるのを見て、少しでも長生きできるようにもう無暗に力は使わないと心に決めた。






あと少し続きます

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