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「はぁー、疲れた」


力を使ったわけではないが、疲労感を感じてセシルは自室のベッドへと寝っ転がる。

着替えてお風呂に入りたいが、疲れてしまい起き上がるのが億劫だ。

天井を見上げながら懐かしい想いが蘇ってくる。


「まさか、私が昔使っていた部屋をミレーユ姫が使っているとは思わなかったわ」


自分の部屋だと言うのは覚えているが日々の暮らしはどうしていたかはぼんやりしていて思い出せない。

大きな出窓に腰を掛けて窓から暮れていく景色を見ていたり、護衛騎士であったアルが毎日部屋まで迎えに来たりしていた。

いい思い出しかないが、アルフレッドにとっては記憶が無い今は近づきたくないほど嫌な部屋であるらしい。


無理やり婚約者にしたことでよっぽど嫌われたのだろうか。


アルフレッドの事が好きなのは前世から引きずっていると言うよりは、出会ってみてやはり好きになったと言う思いが大きい。

いつの時代も彼に会えば好きになってしまうのだ。

これはもう仕方の無い事だと半分諦めてセシルはベッドの上で軽く目を瞑る。


ウトウトしていると昔の自分が偉そうに立っている夢を見た。


“専属の護衛騎士に姫様呼ばわりされるとちょっと関係が遠い気がするから名前で呼んで”


アルフレッドとよく似た青い騎士服を着たアルが驚いたように目を見開いている。

お互いまだ若い様子からして初めて出会ったの頃ぐらいだろう。


“しかし、姫様以外なんとお呼びすれば”


困惑しているアルにセシルは偉そうに鼻で笑った。


“固い!私たちはこれからいつも一緒に居る専属護衛騎士とその守られる対象でしょ?仲良くしましょうよ”


昔の夢だが、偉そうに言っている自分に困惑しているアルの気持ちもわかる。

護衛対象の姫に仲良くしようと言われても戸惑うだろう。


(今思えばアルに一目ぼれしていたのよね)


幼いセシルはアルと何とか仲良くなろうとし頑張った結果が呼び名だ。

結局、姫呼び以外でアルに特別に呼んでほしいと思い党論した結果、呼び名が“姫さん”になったような気がするとウトウトと夢を見ながらセシルは軽く笑った。


(だからって“姫さん”呼びで納得する私も可愛かったわよね)


場面がまた変わり、不機嫌なアルが自分を見下ろしていた。


“だから力を使うなと言っているだろう。最近は使うとすぐに寝込んでいる”


昔のセシルはベッドに横になったまま頬を膨らませている。

今、ミレーユが使っている部屋だ。


“だって、力があるのだから使わないともったいないわ。私に力があるってことは気付かれていないわよ。調節しているから”


昔の自分はそんな調節もできたのかと夢を見ながら驚く。


ベッドの横に立っているアルは厳しい顔をしたままだ。


“薄々気づかれている。姫様の癒しの力のおかげだと噂になっている”


“おかしいなぁ。気づかれないようにやっているのに”


ベッドの上のセシルは弱々しく微笑んだ。


(あれ、私こんなに弱っている時があったのね)


力を使った後、疲労感が凄かったのは覚えているが弱々しく寝込んでいるイメージは無かった。

この様子を見せられたらアルも心配するだろうが、セシルが思い出したいのはそこではない。


アルと結婚できたのかどうか。

そして幸せだったのだろうかという事だ。


寝込んでいるセシルにアルはそっと手を伸ばす。


“不思議な能力は間違いなく体力を削っていると思う。心配だ”


そう言ってアルはそっとセシルの前髪を撫で長い指がセシルの頬を撫でた。

優しいアルの手のひらがセシルの頬を包む。


(ちょっと待って!まるで恋人同士みたいな雰囲気じゃない?!)


セシルの希望が見せた妄想ではないかと飛び起きた。


夢だけれど夢ではない、過去の自分達の映像を見て心臓がドキドキしてセシルは胸に手を置いて荒く息を繰り返す。


「……まぁ、アルが私を心配するのは仕事だし」


無理やり婚約者にしたことと、好きな人が居ると言っていたアルの顔を思い出してセシルはまた落ち込んだ。


「そして思い出したいのはそこじゃないのよ!結婚したかどうかよ。あと、夢の続きが見たかったわ!」


ベッドの上でジタバタして、叫ぶ。


「はぁ、お風呂に入ろう」


疲れた体を起してセシルは落ち込んだ気持ちのまま立ち上がった。





「ミレーユ姫はすっかり良くなったみたいね」


薬剤室で薬を詰めているセシルにセリーヌは声をかけた。


「はい。セリーヌさんの助言のおかげです」


「セシルちゃんが新しい処方を考えてくれたおかげよ」


褒めてくれるセリーヌにセシルは嬉しくなった。

ミレーユは毎日まずいと言いつつ漢方を飲んでくれていた。

漢方だけではなく、医師が処方する薬の効果もあり発作も起きることなく夜はぐっすり眠れていると言う医師のカルテを読んでセリーヌは頷く。


「やっぱりセシルちゃんの漢方の知識は凄いわね。王妃様も褒めていたわよ。偏頭痛が少なくなったって」


「ありがとうございます」


今まで頑張って勉強してきたことが認められて誇らしい気持ちになる。

初めてここに来た日にアルフレッドに田舎に帰れと言われたが帰らなくて良かった。

これからも薬師として頑張ろうと決意をしているセシルにセリーヌがニコニコしながらメモを渡してくれる。


「そんな仕事のできるセシルちゃんにお買い物を頼みたいの」


「買い物ですか?」


「城の下に町があるじゃない、メイン通りを言った裏路地に漢方を扱っている爺さんがやっている店があるの。そこに頼んでいた漢方の原料を取りに行ってくれない?」


渡されたメモを見ると城から遠くはなさそうだ。


「わかりました」


「そこの店のじぃさんには気を付けてね。漢方に詳しくない薬師に頼んだ時は、クソみたいな商品を売りつけられてきたら。金額に見合う商品を受け取ってきてね。あのじぃさん人を見ているから。セシルちゃんなら大丈夫だと思うけれど」


「はい」


これは、責任重大だとセシルは頷いた。


「商品を受け取ったら少し町で遊んできてもいいわよ。ゆっくり町に行ったことないでしょ?」


「ありがとうございます」


休日もなんだかんだと忙しくて町へといっていないことに気づいてセシルはありがたくお礼を言った。


「あ、セシル!薬師の制服は脱いでいった方がいいわよ」


薬の本を読んでいたハンナが思い出したように顔を上げて言った。


「どうして?」


意味が解らずセシルが首をかしげるとハンナはうんざりした顔をする。


「私も用事があって制服のまま町へ降りて行ったら、薬の知識がある一流の人が来たと思ってみんな話しかけてくるのよ。夫が飲んでいる薬はこれで間違いないかとか、この薬は本当に効くのか、しまいには自分がかかっている医者はインチキじゃないかとかさぁ。知らないって言うの!城に帰ってくるのが大変だったのよ」


ハンナの忠告にセシルは素直にうなずいた。


「大変だったのね。私服に着替えてから行くわ」


セリーヌもハンナの話を聞いて頷いている。


「そうね。そう言えば町の人達って城で務めている人は一流だと思っているから気を付けないと医者と同じぐらいの知識があると思っているから。私も新人の頃に知らないで制服で町へ出て死にそうな爺さんの家に無理やり連れて行かれたわ」


「それでどうしたんですか?」


「私にはわかりませんって逃げてきたわよ」


セリーヌも嫌な思い出らしく、顔をしかめている。

絶対に制服で町へ行くことはしない様にしようとセシルは心に決めた。




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