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翌日、仕事復帰したセシルをセリーヌとハンナはかなり心配して迎えてくれた。


「もう復帰して大丈夫なの?」


心配しているハンナにセシルは微笑んで頷いた。


「大丈夫よ。ごめんね、突然休んでしまって」


「こっちは大丈夫よだったわよ。アルフレッド様が怪我をしたとき一緒に居たのでしょ?それはショックよね」


「そうね」


セシルはショックと疲労で休んだことになっているのでセシルは頷いた。


(アルフレッド様の怪我の状態とか私が癒し人だったなど知れ渡っていないみたいね)


何処かで噂が漏れているのではと覚悟はしていたが噂好きのハンナもセシルの事は知られていないようで安心をする。


「アルフレッド様は最初深刻な症状かもしれないって噂が流れていたけれど、実は浅い怪我だったみたいね。医者も動転してしまって……とか言っていたわよ」


「えっ、医師もそう言っていたの?」


不思議な力を隠すためにそこまでしてくれたのかと、年老いた医者に心の中で手を合わせた。


「そうみたいね。アルフレッド様はすぐに仕事復帰したって。良かったわね」


「本当、お元気になって良かったわ」


セシルが心から言うとセリーヌも頷く。


「私も現場に居たけれど、血が凄かったもの。医者だってもうダメだって思うわよね。私もアルフレッド君が死んだって思ったもの。血の量がすごかったからそのように見えただけですって。頭の怪我って結構血が出るのね」


セリーヌはどれだけ凄惨な現場だったかを語っているのを聞きながらセシルは本日分の処方箋を取って薬の用意をし始めた。

奇跡の力があると知られれば人が治してくれと殺到するのもわかる。

薬を調合しながらセシルは何となく考えてしまう。


アルもアルフレッドもどちらも口酸っぱく人に言うなと言っている理由が理解できた。


(結局、私は力をどうやって使っていたのかしら)


肝心な部分が思い出せずがんばって記憶の糸を辿るが全く思い出せそうになかった。


セシルが仕事復帰して数日後、アルフレッドの事故の噂もすっかりなくなり仕事に余裕ができたころセリーヌが患者のファイルを手にセシルの机にやって来た。


「セシルちゃん!マーガレット王妃の娘、ミレーユ姫が酷い喘息で苦しんでいるんだけれど少し受け持ってくれないかしら」


マーガレット王妃の第二子、ミレーユ姫は現在10歳。

喘息の治療中のカルテを受け取りセシルは捲って確認する。

治療歴は長く、医者に掛かり良くならないため漢方と併用で治療中のようだ。


「特に最近は夜も咳が酷くて眠れないらしいわ。私も漢方を処方して様子を見ているけれどあまり良くならないわね。セシルちゃんはどう思う?」


処方されている漢方を見るがセシルもこれ以上のいい処方は無いのではないかと思った。


「セリーヌさんの完璧な処方以外考えられませんが、でもこれで効き目がないなら少し違った処方をしてみるのもいいかもしれないですよね」


セシルが言うと、セリーヌは少し思案して頷いた。


「そうね。ちょっとの間だけでも受け持ってくれないかしら。今すごく辛いみたいで夜も寝れないみたいなの。それにね、漢方が臭くて飲めないって今絶賛拒否中なのよぉ」


「季節の変わり目ですからね。漢方は私でも臭いと思いますし。子供には辛いですね」


パラパラとカルテを捲ってセシルは新しい漢方の処方を考えながら頷いた。

漢方を飲めないことから咳が強まっている可能性もあるだろう。



セリーヌの助言を受けながら新しく処方した漢方を手にミレーユ姫にご挨拶に向かう。

一人で廊下を歩いていると前からアルフレッドが歩いてくるのが見えた。

彼の姿を見かけるだけで弾む心を落ち着かせてセシルは微笑んでアルフレッドに軽く頭を下げる。


「お疲れ様です」


以前のように睨みつけられることは無かったが、不機嫌そうな顔をしている。


「体調に変化はないか?」


にこりともせずに聞いてくるアルフレッドに、前世の心配性がでているのだろうかと思いながらセシルは頷いた。


「元気です。心配するようなことは何もしてないわ」


きっぱりと言うセシルにアルフレッドは肩をすくめた。


「ならいい。一番いいのは、仕事を辞めて実家に帰ることだな」


(そこまでして私から遠ざかりたいなんてきっと前世で何かあったのね)


不機嫌な顔をしているアルフレッドの顔を見ていると悲しくなってくる。


「薬師は私のやりたい仕事だし絶対に帰らないわ」


「…そう言うと思っていたよ」


諦めたような表情をしているアルフレッドにセシルは昔に同じやり取りをしたような懐かしい気持ちになった。

これだけ冷たい対応をされても、やっぱり好きだと言う気持ちが湧いてくる。


(前世の気持ちに引きずられているのかしら)


一人で思い悩んでいるセシルを不可解だと言うような顔をしてアルフレッドは軽く手を振った。


「まぁ、わきまえているならいい」


そう言って去っていくアルフレッドの背をセシルはじっと見えなくなるまで見つめた。


「もう少し優しくしてくれてもいいのに」


せっかく時を超えて出会ったのに夢を見させてくれてもいいではないか。

セシルが思い出したアルはいつも無表情だった。

微笑みの王子というあだ名がつくぐらい微笑んでいた彼はどこに行ってしまったのだろうか。


「ん?そもそも今も昔も微笑んでいないという事は、無理して微笑んでいたという事?私と会って素にもどったのかしら」


そもそもセシルが思い出した記憶の彼は愛想笑いをするような人間ではなかった。

彼が微笑んだら素敵なのにと常に思っていたことは確かだ。

まだ一度も彼の頬笑みをちゃんと見ていないと思いながらセシルは廊下を歩きだした。



ミレーユの部屋の前に行くとセシルは懐かしい景色にノックをする手を止めた。

一瞬だけ記憶が蘇り、廊下の窓から見える景色を見て確信をした。

ミレーユの部屋は過去では自分の部屋だった。

詳しくは思い出せないが、この部屋を何度も出入りしていたことは思い出せる。


「懐かしいわね」


セシルは呟いてミレーユの部屋のドアをノックした。

侍女に部屋に招かれて部屋へと入る。


一人で使うには広めの部屋を見回して懐かしい気持ちでいっぱいになった。


(使っていた時は何とも思わなかったけれど、一人部屋にしては広いわよね。贅沢だったのね、私ってば)


流石に家具は変わっていたが間取りや窓などはそのままだ。

奥まった出窓に腰を掛けて外を眺めていたことを思い出した。


一体どれぐらい前に生きていたのかは分からないが、自分が見えている映像は妄想ではなかったのだ。

部屋に入って来たセシルをマーガレットは立ち上がって迎えてくれる。


「わざわざごめんなさいね。最近、咳が酷くて眠れないのよ」


近所の奥様のように気さくに話してくれるが、ドレス姿のマーガレットは王妃の貫禄がありセシルは頭を下げる。


「少しでもお力になれればいのですが」


「漢方、少しは効いているみたいだけれど、セリーヌから違う漢方も試すためにセシルにしばらく任せると言っていたの。よろしく頼むわね」


「はい、それでこちらの漢方に変えてみたらいかがかと思うのですが」


セシルはセリーヌと話し合って決めた新しく処方した漢方の詳細を書いた紙をマーガレットに渡した。


「私も詳しくは無いからあなた達に任せるわ」


チラリと紙を見て困ったように紙を戻された。

コホコホと咳をする音が聞こえて天蓋付のベッドに視線を向けた。


「紹介するわね。娘のミレーユよ」


天蓋から囲まれていた布を持ち上げてマーガレットがセシルを呼び寄せる。

セシルがベッドを覗き込むと可愛い寝間着姿の少女が咳をしながらもセシルを見つめた。

母であるマーガレットによく似た美少女で、金色の髪の毛を三つ編みにして横に垂らして、青く大きな瞳がセシルを見つめる。


「こんにちは。薬師のセシルと申します。少しの間、漢方を変えて様子を見ますのでどうぞよろしくお願いします」


愛想よく微笑むセシルを見つめてミレーユの顔が曇った。


「漢方は嫌いだわ。だって臭いんだもの」


「確かに、臭いですが……」


セシルも昔は飲むのは無理だったと困ったようにマーガレットを見つめた。


「臭くても飲みなさい!お咳が続いたら辛いでしょ」


「……飲みたくない」


頑なに拒否をするミレーユにマーガレットはため息をついた。


「困ったわねぇ。咳が止まらないと私の護衛騎士達に会えないわよ。特に、アルフレッドお兄さんには会いたいでしょ」


「会いたいけれど、まずいのは飲まない」


プイと横を向くミレーユとマーガレットを交互に見ながらセシルは思わず口を挟んでしまう。


「なぜアルフレッド様の名が?」


「この子、アルフレッド君のファンなのよ。ね?」


話を振られたミレーユは機嫌よく頷く。


「だってあのお兄さん一番顔が好みだもの。他のおじさんも面白いから好きだけれど」


「おじさん……」


ミレーユ姫におじさんと呼ばれている人たちの顔が思い浮かんでセシルは笑いそうになるのを堪えた。間違いなく本人たちは、おじさんとは思っていないだろう。


「でも、アルフレッドのお兄さんはこの部屋には絶対に来てくれないの」


頬を膨らませているミレーユにマーガレットは頷いた。


「そうなのよ。この部屋に来ると具合が悪くなるんですって。霊感があるの?って聞いちゃったわよ。よく幽霊が見える人とか具合が悪くなるって言うじゃない。そう言うのではないと思うと言っていたけれど、まぁーこの部屋には近づかないのよ。何なのかしらね」


「変わっていますね」


セシルは神妙にうなずいたが、きっと昔に何か嫌な思いをしているのだろう。

昔のセシルの部屋だったらいやおうなしに専属護衛騎士だったアルフレッドも毎日訪れていた。セシルはますます彼に嫌われているのではないかという確信をしてしまい暗い気分になってしまう。

好かれていたという記憶が蘇ってこないのだ。

婚約をするまでは関係性は悪くなかったが、お互いぎくしゃくしだしたのは無理やり婚約を決めてからだったような気がする。

婚約後の事は一日ぐらいしか思い出せないが、多分そうだったに違いない。

前世と変わっていないのはセシルがアルフレッドに恋をしていることぐらいだ。


(この恋が実ることは無いのでしょうね。前世の自分は結局結婚できたのかしら)


結婚ができたとしても果たして幸せだったのだろうか。

マーガレットとミレーユがなぜアルフレッドがこの部屋を来るのが嫌なのかを話しているのを聞きながらセシルは首を傾げていた。


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