083 俺達の最後に相応しい、封神術だと思わないか?
「封神決戦氷獄圈とは、どのような封神術なんだ?」
封神術には詳しくない素華は、迅雷に問いかける。
「機動大仙化した呪仙闘機は、この封神決戦氷獄圈の結界内では、すぐに気の流れを阻害され、まともに動けなくなるだけでなく、そのまま極低温によって機体が凍結し、完全に動きを封じられる」
迅雷の言葉通り、封神決戦氷獄圈の結界内……つまり、闘技場の光る地面の上にいる窮奇と凶焔鳳凰は、既に動きを封じられ、凍結し始めていた。
二機の機動大仙の表面は、空気中の水分が氷結したせいで、急激に薄い氷に覆われて行く。
素華は必死で、窮奇を動かそうとするが、封神決戦氷獄圈が発動した今、機動大仙は身動きする事すら出来ない。
「気の流れを阻害された状態で、凍結させられると、機動大仙の全身を巡る仙血が……凍結し、機動大仙の……血管が破裂する」
通常、機動大仙は極低温下でも、問題無く動く事が出来る。
機動大仙にも経絡があり、経絡を流れる気が、機動大仙の温度を一定以上に保つので、凍結したりはしないのだ。
だが、気の流れが阻害されると、そうはいかなくなる。
機動大仙の機体温度は氷点下に落ち、全身の血管を流れる仙血が凍結する。
そうなると、冬場に氷結して破裂する水道管のように、機動大仙の血管が、破裂してしまうのだ。
「つまり、封神決戦氷獄圈に……捕らえられた、機動大仙と化した機動大仙は、全身の血管が破裂し……機動大仙としての形態を、保てなく……なるのさ」
迅雷の言葉が苦し気に、途切れ途切れになり始めたのは、激痛に苛まれているから。
今まさに、凶焔鳳凰の全身の仙血が凍結し、血管が破裂しまくっている為、迅雷は激痛を感じているのだ。
封神決戦氷獄圈は、捕らえた機動大仙化した呪仙闘機を、全て封印しようとする。
窮奇だけでは無く、凶焔鳳凰も封印の対象なのである。
「成程ね……どうやら、お前に……してやられたようだ……な」
素華も激痛に苛まれているので、その言葉は苦し気で、途切れ途切れだ。
窮奇も全身の仙血が凍結し、血管が破裂しまくっているのである。
まずは機体強度に劣る上、ダメージが大きかった凶焔鳳凰が、機動大仙形態を維持出来る限界を、先に迎える。
内部から崩壊が始まり、機体の各所が爆発、装甲を弾き飛ばし、巨体が崩れ始める。
そして、凶焔鳳凰の全身から、虹色の光が放出される。
虹色の光に全身を包まれながら、凶焔鳳凰は縮小を開始。
ほぼ同時に、窮奇も限界を迎えて、内部から崩壊を開始。
身体の各所が爆発して弾け飛んだかと思うと、虹色の光りを放出しつつ、巨体が縮小し始める。
ほんの数秒で、二機の機動大仙は、幻であったかのように姿を消し、鳳凰刀と方天戟となって、光り輝く地面の上に転がり落ちる。
鳳凰刀の傍らには、ゴーグルが壊れて外れた、素顔の迅雷が仰向けで転がっていて、方天戟の傍らには、素華が仰向けで寝転んでいる。
二人共、身体の各所に、戦いでの傷を負っているだけでなく、全身に凍傷を負ってしまっている。
機動大仙の時に負った傷と同等の傷を、仙闘機との融合が解かれた武術家は、その身体に負うのだ。
迅雷も素華も、普通の武術家であれば、死を免れられぬ程のダメージを負っていて、身動きすら出来ないだろう、まさに満身創痍といえる状態。
だが、この二人の武術家は、普通とは程遠い実力を持つ。
それ故、迅雷と素華の戦いは、まだ終わらないのだ。
二人の身体は、気の光を放ち始めている……気の流れを操作し、全身の傷を塞ぎ、出血を止める応急処置を行っているのだ。
封神決戦氷獄圈も、まだ解除されてはいない。
極低温の結界空間は維持され、倒れた二人の武術家の上を、宝石の様に煌めく氷の結晶が、無数に舞っている。
大気に含まれた水分が、極低温の空気中で一気に氷結し、白く煌めく氷の結晶となり、闘技場の空間の中を舞っているのだ。
西域ではダイヤモンドダストと呼ばれる現象が、発生したのである。
宝石のような氷の結晶が、無数に舞う光景は神秘的であり、幻想的な美しさに満ちている。
その美しくも儚げな光景の中、二人の武術家は……ほぼ同時に立ちあがる。
迅雷と素華は、応急処置を終えたのだ。
あくまでも応急処置が終わっただけで、二人共満身創痍のままであり、苦し気である。
三十メートル程の間合いで、迅雷と素華は対峙する。
「まだ術は続いているようだな」
傍らに転がっている、武器形態の窮奇を見下ろしつつ、素華は続ける。
「窮奇は封印されたのに」
素華の言う通り、既に窮奇は封印されている。
その事は、窮奇の表面に、無数の不可思議な文字や文様が記されているのを見れば、素華には分かる。
まだ封印されていた時の窮奇を、素華は目にした事がある。
武器形態の時、呪仙闘機は普通の武器と、見た目で区別は出来ない。
でも、呪仙闘機は封印されている時は、武器形態でも機動大仙形態のように、無数の不可思議な文字や文様だらけの姿となる。
その事を知っているので、窮奇が封印された事が、素華には分かったのだ。
封印された呪仙闘機は、既に普通の武器としても、使う事は出来ない。
「封神決戦氷獄圈は、呪仙闘機を封印するだけでなく、決闘用の封印でもあってね……」
封神決戦氷獄圈が解除されていない理由を、迅雷は説明する。
「機動大仙化した呪仙闘機を、一度に二機……封印出来るんだが、主人である武術家達が殺し合い……勝負が決するまで、結界からは出られないし、術も解除されないのさ」
「つまり、生きて結界を出られるのは、一人だけという事か?」
素華の問いに、迅雷は頷く。
「名が示す通り、『封神』だけでなく、『決戦』の為の術でもあるんだよ、封神決戦氷獄圈は」
不敵な笑みを浮かべつつ、迅雷は付け加える。
「俺達の最後に相応しい、封神術だと思わないか?」
「そうだな、中々……悪くない」
答えながら、素華は気を練り上げ続ける。
素華の身体が放つ光が、強まって行く。
迅雷の身体が放つ光も強まり続け、眩い程の光となる。
残された全ての気を投じ、迅雷は神域軽功を発動したのだ。
「まだ、神域軽功を使えるのか……」
驚きの表情を、素華は浮かべる。
「機動大仙の時より、負荷は軽いから……何とかね」
迅雷の言葉通り、呪仙闘機と融合し、機動大仙と化している時は、それだけでも身体には負荷がかかる。
機動大仙の時には、既に限界であった神域軽功が、人の身体に戻ったせいで、負荷が軽減された為、まだ迅雷には使えるのだ。
「まぁ、それでも……これが最後だ」
迅雷は左足を前にして、歩型を弓歩とする。
その上で、蔵刀でも行うかのように、両掌を後ろに回す。
「鳳凰刀無しに、弓歩蔵刀? 何のつもりだ?」
素華は意外そうに、迅雷に問いかける。
迅雷の構えは、刀を手に行う弓歩蔵刀に似ていたのだが、迅雷は素手であったので、素華は奇妙に思ったのだ。
「いずれば、俺独自の絕招とするつもりで、開発中だった技だ。まだ仕上がっちゃいないが、最後だってのに、出し惜しみする訳にもいかないだろう」
迅雷の言葉通り、この構えで使う技は、未完成である。
機動大仙の状態では、使い物にはならないし、人の身体のままでも、成功する確率は三割程度と、安定性に問題が有り過ぎる技だ。
だが、未完成であり、まだ人前で使った事が無い技であるが故に、素華は全く知らぬ技でもある。
見切りの天才である素華でも、完全に初見の技であれば、見切り難いだろうと考え、この最後の場面で、新技を使う事を、迅雷は決意したのだった。




