082 気付いていないようだが、俺は他にも、貴女と同じ様な事をしてるんだよ
機動大仙は巨体であるが故、制限された闘技場という戦いの舞台では、間合いを取り難く、激しい近接戦闘がメインとなる。
巨体に似合わぬ素早い動きで、凶焔鳳凰と窮奇は、斬り合い突き合い……打ち合う。
高速の近接戦闘のせいで、決め技……絕招といえる大技を、織り込むのが難しい。
大技を決められぬまま、二体の機動大仙の戦いは続く。
耳を劈く金属音や衝突音、爆音などが鳴り響き、二体の機動大仙の金属の部品や鮮血が、闘技場に飛び散る。
大技が決まらないので、致命的なダメージこそ負わないが、二体の機動大仙は、確実にダメージを負い続けてはいるのだ。
そして、より多くのダメージを負っていたのは、凶焔鳳凰の方であった。
生身の身体で戦えば、迅雷と素華の実力は互角だったのだが、機動大仙となった後の戦いは、素華が僅かに有利なペースで進んでいた。
迅雷と素華が互角でも、凶焔鳳凰と窮奇は互角では無い。
呪仙闘機としての力が勝る、四凶の窮奇を操る素華の方が、押し気味の戦いとなってしまったのである。
凶焔鳳凰も窮奇も、身体中が傷付いていて、出血を防ぐ暇すらないので、大量の仙血を流している。
だが、凶焔鳳凰の方が、遥かに多くの仙血を流し、闘技場の各所を赤く染めていた。
ダメージが蓄積したせいか、窮奇との斬り合いの最中、凶焔鳳凰が放っていた光が、油が尽きた灯篭の灯火のように、消え失せる。
神域軽功が、解除されたのだ。
迅雷の苦しげな呻き声が、凶焔鳳凰の口を通して、闘技場中に響き渡る。
その呻き声を聞いて素華は気付く、迅雷の身体が、既に限界に近付いている事に。
凶焔鳳凰が力尽きたかのように、片膝をついてしまう。
即座に迅雷は、神域軽功を再発動しようとする。
だが、迅雷……凶焔鳳凰が見せた、この僅かな隙を見逃す程、素華は甘くは無い。
素華が操る窮奇は、方天戟の先端を右回りに回転させながら、続けざまに十発の突きを放つ。
(降龍十絶刺かっ!)
迅雷は必死で体勢を整え、両手に持つ刀で窮奇の刺撃を防ぎ、受け流そうとする。
八発までは何とか防ぎ、受け流した迅雷だったが、二発を右脇腹と左腿に食らってしまう。
穴を穿たれた、右脇腹と左腿から、激しく仙血を噴き出しながらも、凶焔鳳凰は鳳刀と凰刀を身体の後ろに回し、蔵刀の構えで、窮奇と対峙する。
「神域軽功の使い過ぎに、子供となった身体が限界を迎えたようだな、迅雷」
勝利を確信したのか、素華は攻撃の手を止め、窮奇の口を通して、迅雷に語り掛ける。
「お前は良く闘った、私が唯一……同格だと認めた男だけの事はある」
何処となく残念そうな口調で、素華は続ける。
「もしも、お前の身体が、神域軽功の負荷に耐え難い、子供の身体とならなければ……手に入れた呪仙闘機の力が互角であれば、別の結末を迎えたのかもしれない」
迅雷は素華の話を聞きながら、鳳刀と凰刀を合わせて鳳凰刀として、腕に負った傷から流れ出る、仙血を刀身に付着させる。
蔵刀の構えを取っているので、迅雷が何をしているのかは、素華からは見えない。
「楽しい戦いだったよ。出来れば、もう少し戦い続けたいところだが、雷家の連中を逃がす訳にはいかないからね、そろそろ終わりにさせて貰う」
稲妻を纏ったままの方天戟を手にして、窮奇は虎爪雷旋月牙の構えを取る。
「この一撃で、お前を葬ろう。せめて苦しみを長引かせぬように……」
「おいおい、勝ったつもりになるのは、まだ早いぜ!」
不敵な口調で言い放つ迅雷に、素華は問いかける。
「まだ勝ち目があるとでも、思っているのか?」
「思っているさ!」
自信有り気な迅雷の声が、凶焔鳳凰の口の辺りから発せられる。
「貴女と俺は、昔からやる事が良く似ていたな。まぁ、貴女を追い掛け続けた俺が、貴女のやり方を真似ていたから、似てしまったというべきなんだろうが……」
「昔話を楽しむような、状況でも無いだろう」
「昔話でも無いぜ。今だって俺と貴女は、同じような事をしてるじゃないか」
「姿の変わる呪いを身に受け、顔と身分を隠し、清明武林祭に紛れ込んで、復讐の機会を狙っている……。成る程、確かに同じ様な事をしているな、お前と私は」
自嘲気味な素華の呟きが、窮奇の口元から漏れる。
「気付いていないようだが、俺は他にも、貴女と同じ様な事をしてるんだよ」
迅雷の声で話しながら、凶焔鳳凰は鳳凰刀を、闘技場の地面に突き立てる。
「俺も貴女同様、闘源郷の再建工事に、作業員として紛れ込んで、地の利を味方につけたのさ! だから、俺は貴女に負けはしない!」
「地の利? まさか、お前も闘源郷に隱秘圈套術を!」
凶焔鳳凰の動きを目にして、素華は驚きの声を上げる。
無論、窮奇の口から。
「その通り!」
迅雷は力強く、言い放つ。
闘源郷の再建工事に参加する為、黄都に滞在していた頃、迅雷は闘源郷を含めた、黄都や黄都郊外の様々な場所に、素華との戦いに備え、隱秘圈套術を仕掛けていたのだ。
闘源郷の闘技場も、戦いの場となる可能性が高かったので、迅雷は当然、隱秘圈套術を仕掛けておいた。
素華との戦いで、地の利を得る為に。
迅雷は凶焔鳳凰を通し、力強い口調で宣言する。
「血気啟動、封神決戦氷獄圈!」
叫びにも似た迅雷の宣言が終わると、凶焔鳳凰から放たれた光り輝く気が、鳳凰刀を伝わり、闘技場の地表に広がって行く。
迅雷が再建工事に紛れ込み、隙を見ては仕掛け続けていた隱秘圈套術が、凶焔鳳凰と融合した迅雷の気と仙血、そして発動を宣言する言葉……關鍵詞により、発動したのだ。
機動大仙の仙血には、融合している武術家の血が、微量に含まれる。
それ故、武術家が仕掛けた、隱秘圈套術の発動の鍵として、利用出来るのである。
発動した隱秘圈套術から逃れるべく、素華は窮奇を後方に、跳び退かせようとする。
しかし、跳躍した窮奇の巨体は、磁石に引き寄せられる鉄のように、光に覆われた地面に吸い寄せらて、着地してしまう。
着地した窮奇の足は、地面に固定されたかのように、動かない。
より正確に言えば、既に窮奇の四肢は、動かなくなっていた。
動かないのは、凶焔鳳凰の四肢も同じ。
迅雷が発動した隱秘圈套術は、発動した時点で、機動大仙化した呪仙闘機を、行動不能に追い込んでしまうのである。
破壊されるまで、頭部だけは機能するので、会話をする事は、現時点では可能だ。
「馬鹿な? 動け! 離れろ!」
窮奇の口から発せられた、焦り気味の素華の声が、闘源郷中に響き渡る。
「無駄だよ、既に俺が仕掛けた隱秘圈套術は、発動しているんだ……。例え貴女でも、逃れる事は出来ない」
光る地面の上に立つ、凶焔鳳凰の口を通じ、迅雷は素華に語りかける。
「神すら封じると言われた天才武術家、尊呂望の秘術……呪仙闘機を封印する、結界系封神術の一つ、封神決戦氷獄圈からはね」
「封神術だと?」
驚きの声を、素華は上げる。
「神仙闔封は失われ、封神術の伝承は断たれたのでは無いのか?」
「失われたように偽装していただけで、実際は歴代の掌門が、神仙闔封と封神術を、受け継いで来たんだ。俺も師父から神仙闔封を、受け継いだって訳さ」
「神仙闔封の存在を、私に隠し通すとは、王凱め……。奴の事を、侮り過ぎていたか」
素華は窮奇の口元から、悔しげな声を漏らす。
「凶焔鳳凰で窮奇を倒せそうになければ、封神決戦氷獄圈で窮奇を封じるつもりだったんでね。戦場になりそうな場所には、予め仕掛けておいた」
実は封神決戦氷獄圈の発動には、大量の仙血が必要である。
窮奇との戦いで、凶焔鳳凰がダメージを負えば、自然に大量の仙血が、封神決戦氷獄圈の術を仕込んだ辺りに、撒き散らされる。
まずは凶焔鳳凰で戦い、窮奇を倒せれば良し。
それが出来そうにないなら、戦いで流れた仙血を利用して、封神決戦氷獄圈を発動し、窮奇を封印する策に切り替える……というのが、迅雷の策だったのだ。




