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この復讐は俺のもの  作者: 桜ジンタ
82/91

082 気付いていないようだが、俺は他にも、貴女と同じ様な事をしてるんだよ

 機動大仙は巨体であるが故、制限された闘技場という戦いの舞台では、間合いを取り難く、激しい近接戦闘がメインとなる。

 巨体に似合わぬ素早い動きで、凶焔鳳凰と窮奇は、斬り合い突き合い……打ち合う。


 高速の近接戦闘のせいで、決め技……絕招といえる大技を、織り込むのが難しい。

 大技を決められぬまま、二体の機動大仙の戦いは続く。


 耳を劈く金属音や衝突音、爆音などが鳴り響き、二体の機動大仙の金属の部品や鮮血が、闘技場に飛び散る。

 大技が決まらないので、致命的なダメージこそ負わないが、二体の機動大仙は、確実にダメージを負い続けてはいるのだ。


 そして、より多くのダメージを負っていたのは、凶焔鳳凰の方であった。

 生身の身体で戦えば、迅雷と素華の実力は互角だったのだが、機動大仙となった後の戦いは、素華が僅かに有利なペースで進んでいた。


 迅雷と素華が互角でも、凶焔鳳凰と窮奇は互角では無い。

 呪仙闘機としての力が勝る、四凶の窮奇を操る素華の方が、押し気味の戦いとなってしまったのである。


 凶焔鳳凰も窮奇も、身体中が傷付いていて、出血を防ぐ暇すらないので、大量の仙血を流している。

 だが、凶焔鳳凰の方が、遥かに多くの仙血を流し、闘技場の各所を赤く染めていた。


 ダメージが蓄積したせいか、窮奇との斬り合いの最中さなか、凶焔鳳凰が放っていた光が、油が尽きた灯篭の灯火のように、消え失せる。

 神域軽功が、解除されたのだ。


 迅雷の苦しげな呻き声が、凶焔鳳凰の口を通して、闘技場中に響き渡る。

 その呻き声を聞いて素華は気付く、迅雷の身体が、既に限界に近付いている事に。


 凶焔鳳凰が力尽きたかのように、片膝をついてしまう。

 即座に迅雷は、神域軽功を再発動しようとする。


 だが、迅雷……凶焔鳳凰が見せた、この僅かな隙を見逃す程、素華は甘くは無い。

 素華が操る窮奇は、方天戟の先端を右回りに回転させながら、続けざまに十発の突きを放つ。


(降龍十絶刺かっ!)


 迅雷は必死で体勢を整え、両手に持つ刀で窮奇の刺撃を防ぎ、受け流そうとする。

 八発までは何とか防ぎ、受け流した迅雷だったが、二発を右脇腹と左腿に食らってしまう。


 穴を穿たれた、右脇腹と左腿から、激しく仙血を噴き出しながらも、凶焔鳳凰は鳳刀と凰刀を身体の後ろに回し、蔵刀ぞうとうの構えで、窮奇と対峙する。


「神域軽功の使い過ぎに、子供となった身体が限界を迎えたようだな、迅雷」


 勝利を確信したのか、素華は攻撃の手を止め、窮奇の口を通して、迅雷に語り掛ける。


「お前は良く闘った、私が唯一……同格だと認めた男だけの事はある」


 何処となく残念そうな口調で、素華は続ける。


「もしも、お前の身体が、神域軽功の負荷に耐え難い、子供の身体とならなければ……手に入れた呪仙闘機の力が互角であれば、別の結末を迎えたのかもしれない」


 迅雷は素華の話を聞きながら、鳳刀と凰刀を合わせて鳳凰刀として、腕に負った傷から流れ出る、仙血を刀身に付着させる。

 蔵刀の構えを取っているので、迅雷が何をしているのかは、素華からは見えない。


「楽しい戦いだったよ。出来れば、もう少し戦い続けたいところだが、雷家の連中を逃がす訳にはいかないからね、そろそろ終わりにさせて貰う」


 稲妻を纏ったままの方天戟を手にして、窮奇は虎爪雷旋月牙の構えを取る。


「この一撃で、お前を葬ろう。せめて苦しみを長引かせぬように……」


「おいおい、勝ったつもりになるのは、まだ早いぜ!」


 不敵な口調で言い放つ迅雷に、素華は問いかける。


「まだ勝ち目があるとでも、思っているのか?」


「思っているさ!」


 自信有り気な迅雷の声が、凶焔鳳凰の口の辺りから発せられる。


「貴女と俺は、昔からやる事が良く似ていたな。まぁ、貴女を追い掛け続けた俺が、貴女のやり方を真似ていたから、似てしまったというべきなんだろうが……」


「昔話を楽しむような、状況でも無いだろう」


「昔話でも無いぜ。今だって俺と貴女は、同じような事をしてるじゃないか」


「姿の変わる呪いを身に受け、顔と身分を隠し、清明武林祭に紛れ込んで、復讐の機会を狙っている……。成る程、確かに同じ様な事をしているな、お前と私は」


 自嘲気味な素華の呟きが、窮奇の口元から漏れる。


「気付いていないようだが、俺は他にも、貴女と同じ様な事をしてるんだよ」


 迅雷の声で話しながら、凶焔鳳凰は鳳凰刀を、闘技場の地面に突き立てる。


「俺も貴女同様、闘源郷の再建工事に、作業員として紛れ込んで、地の利を味方につけたのさ! だから、俺は貴女に負けはしない!」


「地の利? まさか、お前も闘源郷に隱秘圈套術を!」


 凶焔鳳凰の動きを目にして、素華は驚きの声を上げる。

 無論、窮奇の口から。


「その通り!」


 迅雷は力強く、言い放つ。

 闘源郷の再建工事に参加する為、黄都に滞在していた頃、迅雷は闘源郷を含めた、黄都や黄都郊外の様々な場所に、素華との戦いに備え、隱秘圈套術を仕掛けていたのだ。


 闘源郷の闘技場も、戦いの場となる可能性が高かったので、迅雷は当然、隱秘圈套術を仕掛けておいた。

 素華との戦いで、地の利を得る為に。


 迅雷は凶焔鳳凰を通し、力強い口調で宣言する。


血気啟動けっきけいどう封神決戦氷獄圈ほうしんけっせんひょうごくけん!」


 叫びにも似た迅雷の宣言が終わると、凶焔鳳凰から放たれた光り輝く気が、鳳凰刀を伝わり、闘技場の地表に広がって行く。

 迅雷が再建工事に紛れ込み、隙を見ては仕掛け続けていた隱秘圈套術が、凶焔鳳凰と融合した迅雷の気と仙血、そして発動を宣言する言葉……關鍵詞により、発動したのだ。


 機動大仙の仙血には、融合している武術家の血が、微量に含まれる。

 それ故、武術家が仕掛けた、隱秘圈套術の発動の鍵として、利用出来るのである。


 発動した隱秘圈套術から逃れるべく、素華は窮奇を後方に、跳び退かせようとする。

 しかし、跳躍した窮奇の巨体は、磁石に引き寄せられる鉄のように、光に覆われた地面に吸い寄せらて、着地してしまう。


 着地した窮奇の足は、地面に固定されたかのように、動かない。

 より正確に言えば、既に窮奇の四肢は、動かなくなっていた。


 動かないのは、凶焔鳳凰の四肢も同じ。

 迅雷が発動した隱秘圈套術は、発動した時点で、機動大仙化した呪仙闘機を、行動不能に追い込んでしまうのである。


 破壊されるまで、頭部だけは機能するので、会話をする事は、現時点では可能だ。


「馬鹿な? 動け! 離れろ!」


 窮奇の口から発せられた、焦り気味の素華の声が、闘源郷中に響き渡る。


「無駄だよ、既に俺が仕掛けた隱秘圈套術は、発動しているんだ……。例え貴女でも、逃れる事は出来ない」


 光る地面の上に立つ、凶焔鳳凰の口を通じ、迅雷は素華に語りかける。


「神すら封じると言われた天才武術家、尊呂望の秘術……呪仙闘機を封印する、結界系封神術の一つ、封神決戦氷獄圈からはね」


「封神術だと?」


 驚きの声を、素華は上げる。


神仙闔封しんせんこうふうは失われ、封神術の伝承は断たれたのでは無いのか?」


「失われたように偽装していただけで、実際は歴代の掌門が、神仙闔封と封神術を、受け継いで来たんだ。俺も師父から神仙闔封を、受け継いだって訳さ」


「神仙闔封の存在を、私に隠し通すとは、王凱め……。奴の事を、侮り過ぎていたか」


 素華は窮奇の口元から、悔しげな声を漏らす。


「凶焔鳳凰で窮奇を倒せそうになければ、封神決戦氷獄圈で窮奇を封じるつもりだったんでね。戦場になりそうな場所には、予め仕掛けておいた」


 実は封神決戦氷獄圈の発動には、大量の仙血が必要である。

 窮奇との戦いで、凶焔鳳凰がダメージを負えば、自然に大量の仙血が、封神決戦氷獄圈の術を仕込んだ辺りに、撒き散らされる。


 まずは凶焔鳳凰で戦い、窮奇を倒せれば良し。

 それが出来そうにないなら、戦いで流れた仙血を利用して、封神決戦氷獄圈を発動し、窮奇を封印する策に切り替える……というのが、迅雷の策だったのだ。




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