表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この復讐は俺のもの  作者: 桜ジンタ
57/91

057 そういう事に、しておいてあげますよ

 第一試合を勝利で終え、特別観戦席で観戦し始めた迅雷の前で、本選第一回戦は、順調に消化され続けた。

 第二試合は接戦の末、天剣が紀政を下し、第三試合は彩雲が鉄拐を、武術家にとって基本的な技だけで下した。


 そして第四試合は、麗虎が天華を圧倒していた。

 天華は得意とする鉄鈎槍てっこうそうを使っているのだが、素手の麗虎に太刀打ちが出来ない。


「雷聖門の皆伝だけあって、雷撃功は見事なものだが、鉄鈎槍の扱いは、まだまだだね」


 麗虎は余裕のある表情で、二十メートル程離れた所で息を切らせ、身構えている天華に語りかける。

 雷撃功を発動しているので、天華の身体は仄かに輝き、携えている鉄鈎槍の穂先は、稲妻を纏っている。


(参ったな、攻撃が全部、見切られてる……。悔しいけど、私より遥かに格上だ)


 既に天華は、自分に勝ち目が無い事を、悟っていた。

 門派固有の技を使わずに、どの門派でも教えるような基本的な技だけで、麗虎が戦っている事が、天華にも分る。


 それなのに、圧倒されているのは天華の方なのだ。

 天華が自分と麗虎の格の違いを悟るのも、当然といえる。


(だが、勝てる見込みが無くても、雷聖門の名を汚さぬだけの戦いには、してみせる!)


 勝てない事を悟った者には、降参する道もあるのだが、天華にも雷聖門皆伝としての誇りがある。

 残された力を振り絞り、天華は足を弓歩の形で開きつつ、鉄鈎槍の先端を麗虎に向けたまま、両手で頭上に持ち上げる。


 鉄鈎槍の先端は真っ直ぐに、麗虎の方を向いている。

 この構えを、架槍かそうという。

 天華は架槍の構えのまま、全身の経絡を流れる気の流れを加速させ、雷撃功の出力を上げる。


 雷撃功の出力が上昇した結果、鉄鈎槍は穂先だけでなく全体が、稲妻を纏う。


「受けてみよ! 雷聖門槍術奥義、架槍雷鈎刺かそうらいこうし!」


 天華は叫びながら、金色に輝く鉄鈎槍を、麗虎に投擲する。

 投擲された鉄鈎槍は、一瞬で麗虎の直前まで迫る……が、直線的な動きは、高速であれ見切り易い。

 麗虎は右に飛んで鉄鈎槍をかわすと、天華に向かって突撃する。


 麗虎の身体は仄かに光っているし、移動速度は速い。

 軽功を発動しているのだ。

 このまま、麗虎が天華の元に辿り着き、鉄鈎槍の投擲姿勢のまま動きを止めている、隙だらけに見える天華を仕留めるだろうと、観客達は予測するが、その予測は裏切られる。


 突如、天華が両手で、何かを引き戻すかのような動きをしたのだ。

 すると、投擲された筈の鉄鈎槍が、投げた時と同等の勢いで、天華の手許に戻って来たのである。


 鉄鈎槍の穂先は、麗虎の方を向いて戻ってくる。

 麗虎は迫り来る鉄鈎槍の気配に気付き、驚きながら振り返る。


「鉄鈎槍のこうに、鉄糸てっしを!」


 麗虎は瞬時に、架槍雷鈎刺という技の、性質と仕組みを見切る。

 架槍雷鈎刺とは、鉄鈎槍の鈎に鉄の糸……鉄糸を結び付け、雷撃功の稲妻を纏わせたまま敵に投擲し、鉄糸を引っ張って引き戻す技である。


 投擲する攻撃自体も、敵を攻撃する為に放たれる。

 しかし、真の狙いは最初の攻撃をかわして油断した敵を、鉄糸を引っ張って引き戻した鉄鈎槍で、攻撃する事なのだ。


 しかも、天華は手で鉄鈎槍を引き戻しながら、鉄鈎槍の方を向いた麗虎に向けて、右足で稲妻を纏った蹴りを放つ。

 雷撃功の稲妻を右足に纏わせ、雷撃腿らいげきたいとしたのである。


 稲妻を纏った鉄鈎槍と、天華の放った雷撃腿に挟撃され、麗虎は倒されるに違い無いと観客達は思った。

 だが、そうはならなかった。


 軽功の発動により、仄かに光を放っていた麗虎の身体から、一瞬だけ光が消る。

 そして、再び仄かな光を身体から放ち始めた麗虎は、両腕に稲妻を纏っていた。

 麗虎は内功を、軽功から雷撃功に切り替えたのである。


 しかも、麗虎の纏っている稲妻は、天華の稲妻よりも激しい。

 麗虎の発動した雷撃功の方が、出力が上なのだ。


 麗虎は天華より強力な稲妻を纏った右手で、鉄鈎槍を払い除け、左手で雷撃腿を払い除ける。

 天華の雷撃功より高出力の雷撃功で、天華が鉄鈎槍と足に纏わせた稲妻は、打ち消されてしまう。


 鉄鈎槍による攻撃と蹴りの両方を、麗虎は一瞬で無効化。

 麗虎は即座に、身体を回転させながら、鉄鈎槍を払い除けたばかりの右手で、天華の腹部に掌打放を叩き込む。


 眩いばかりの気の雷撃が、天華の全身を駆け抜ける。

 悲鳴を上げる天華の身体が、海老のように仰け反り、功夫服の正面部分の一部が、破裂するように破れる。


 それ程に強烈な掌打放を、身体の正面に食らった為に、天華が首にかけていた首飾りの鉄製の糸が切れ、首飾りの先にぶら下がっていた黄色い宝石が、地面に落ちる。

 その事に、天華も麗虎も気付きはしない。


 天華は崩れ落ちそうになるが、よろめきながらも立ち続ける。

 しかし、天華が試合を続けられる状態では無い事は、誰の目にも明らかであった。


 立つのが精一杯の天華に歩み寄ると、麗虎は両手を剣指にして、身構える。

 無論、点穴を天華に打ち込む為。

 しかし、天華は既に、避ける事も防御姿勢を取る事も出来ない。


 そんな天華の状態を見て、初老の審判は麗虎が点穴を放つ前に、麗虎の勝利を宣言する。

 これで完全に、勝負は決したのだ。


 観戦席から、麗虎の勝利を讃える歓声と、天華の健闘を讃える歓声が上がる。

 麗虎は右拳を蒼穹に突き上げ、歓声に応える……応えながら、足元で輝く黄色い宝石に気付く。


「それは、私の物です!」


 近くにいた天華は、よろよろと麗虎の方に歩み寄り、宝石を拾い上げる。

 拾い上げる際、天華の身体に残っていた気に反応するように、宝石が雷のように見える光を放つ。


 正確には、宝石の中にある、雷を象った小さな金属板が、天華の気に反応し、光を放ったので、雷のような光に見えたのだ。

 そんな変わった宝石は、この世界には雷珠しか存在しない。


 雷珠に気を流し、光らせる事が出来るのは、雷家の者だけ。

 つまり、雷珠を気で光らせた天華は、雷家の人間だという事になる。


 麗虎の前で、雷家の者……つまりは、王族である事を証明してしまった天華は、気まずそうな表情を浮かべながら、腕を組んで胸の辺りを隠す。

 功夫服の胸元が破れたせいで、のぞいてしまっている下着を、隠す為に。


「雷珠ですよね、それ?」


 驚きの表情を浮かべ、麗虎は訊ねる。


「まさか貴女は、王族……雷家の方なのですか?」


 雷珠を握り締め、胸元を隠したまま、天華は顔を背け、麗虎の問いには答えない。

 しかし、答えない事自体が、答ともいえる。


 そんな天華の表情を見て、麗虎は何かに気付いたような顔をする。


「そういえば、貴女と仲が良さそうな、雷聖門の宗天剣、雷元王の第二公主……武術好きで知られる雷天翔様に、良く似ているなと思っていたのですが……」


 何処か嬉しそうな口調で、麗虎は続ける。


「似ているのでは無いようですね。おそらく彼女も、雷珠をお持ちなのでしょう」


「何か勘違いなさっているようですが、私達は王族でも何でもありません。これは街で買った、只の装飾品です」


「そういう事に、しておいてあげますよ」


 天華を安心させるような口調で、そう告げると、麗虎は天華に背を向けて、玄武門の方に歩き去って行った。

 こうして、第一回戦は全て終了したのである。



    ×    ×    ×




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ