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この復讐は俺のもの  作者: 桜ジンタ
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004 封神門の掌門として……俺は貴女を処刑する!

 窮奇による一撃で、十数人の命が奪われた光景を見て、人々は半狂乱となり逃げ惑うが、何処に逃げれば良いのかは分らない。

 王族を抱えて軽功を発動させ、闘源郷外に逃げる為に、宙に舞った数名の近衛兵達を、虫でも叩き潰すかのように、窮奇は方天戟を振るい、情け容赦無く叩き潰す。


 肉塊と血の雨が、逃げ惑う王族と近衛兵の上に降り注ぐ。

 まさに地獄のような光景の中、正気を保っていたのは、硬功を発動して、近くにいる家族を守っていた、天元と天翔の二人を除いては、ごく一部であった。


 内功を軽功に切り替え、姉を抱えて跳んで逃げようとする天翔を、天元は制止する。


「跳べば目立って窮奇に狙われ、真っ先に殺される!」


 武術の達人であり、戦争や内乱など、幾つもの本当の戦いを潜り抜けて来た天元の言葉は、正鵠を射ていた。

 天翔達から離れた場所で、焦って軽功を発動して逃げた者達は、窮奇に叩き殺されて血と肉塊となり、王族達の頭上に降り注ぐ事になったからだ。


 凄惨な光景と、身体に降り掛かる血と肉塊が、天翔を戦慄させ、怯えさせる。


「それでは父上、我等は一体……どうすれば?」


 不安に押し潰されそうになる自分を支える為、天翔は天元に問いかける。


「我等に生き延びる天命があるのなら、逃げられる機会や救いの手が、必ず訪れる! 焦らず怯えず、己の天命を信じろ、天翔!」


 父親の力強い言葉を得て、天翔は気力を取り戻す。

 しかし、そんな天翔を再び絶望の谷底に突き落とすかのように、天元や天翔がいる辺りを狙い、窮奇は方天戟を振り上げる。


「雷天王の走狗となり、我が一族を殺戮した雷天元! 貴様も家族と共に、雷天王の後を追うが良い!」


 窮奇は天元とその家族である天翔に、殺害する事を宣言する。

 窮奇を駆る素華は、雷天王だけでなく、その息子である天元や、孫である天翔まで、殺戮の対象としているのだ。


(生き延びる天命は……無いのか?)


 絶望の淵で、天翔は自問する。

 方天戟で叩き潰され、この場で死を迎える運命から、自分達が逃れ得ない事を、天翔が覚悟した直後、天命は天翔に味方する。


 天元の言葉通り、天翔と天元の元に、「救いの手」が訪れたのだ。

 突如、人間程の大きさがある火の玉が、闘源郷の南側にある朱雀門の方から飛来し、窮奇の頭部を直撃したのである。


 爆音が響き渡り、窮奇の後頭部は燃え上がる。


炎撃功えんげきこうの攻撃か! あの程度では窮奇は倒せんが、逃げる隙が出来れば……」


 炎撃功とは、気を源泉として武術家が炎を作り出す、内功の技である。

 死角である後方からの攻撃だったので、窮奇は避けられなかったのだが、天元の言葉通り、強力な装甲に守られた窮奇は、装甲を軽く傷つけられた程度のダメージしか負っていない。


 窮奇は後ろを振り返り、攻撃が行われた方に目をやる。

 天翔や天元その他、その場で生き残っていた者達も、悪鬼の如き窮奇に攻撃を行った者が、何者なのか気になり、思わず逃げるのも忘れ、朱雀門の方に目をやる。


 窮奇と融合した素華を含め、闘源郷に残された者達全ての目が、朱雀門の前にいる、白い功夫服姿の少年の姿を捉える。

 素華と同じ白い功夫服なのだが、血塗れで所々が切り裂かれている。


 少年は功夫服だけでなく、身体も血塗れである。

 満身創痍ではあるが、少年の出血は止まっている。

 内功を使える武術家ならば、内功で気の流れを制御する事により、傷口を一時的に閉じて、止血する事は可能。


 身体と功夫服を染める血は、傷を負った際に付着したのであり、出血が続いている訳ではない。


「東……少侠」


 天翔は思わず、現れた少年の名を呟く。

 窮奇に攻撃を放って、注意を己に向けたのは、決勝戦で素華と戦う事になっていた迅雷であった。


 距離が遠いので、武功に似合わぬ女顔の顔立ちまでは、確認出来ない。

 だが、日に焼けた風な肌の色や、封神門の象徴たる白い功夫服と長髪、背は並であるが鍛え上げられた身体を見れば、武術好きである天翔には分るのである。


 険しい目で窮奇を睨みつけながら、手にした剣のような武器を振るい、自分の身体を傷つけるかのような動きを、迅雷は披露し始める。

 迅雷も機功套路を、舞い始めたのだ。


 一本の武器だけを手にしていた筈の迅雷は、動きの速い流れるような機功套路を続けている間に、何時の間にか両手に刀を手にしていた。

 一本の剣が二本の刀に分離したように、天翔には思えた。


鴛鴦刀えんおうとう……いや、鳳凰刀ほうおうとうの仙闘機か!」


 天元は、迅雷が手にしている武器の正体を見切る。

 鴛鴦刀とは、仲が良いおしどりの雌雄に例えられる、二本が対になった、短い刀の事である。

 鳳凰刀とは、この鴛鴦刀の発展形といえる、二本組の長い刀であり、二本の刀を両手に持って、双刀としても扱えるし、刀の背を合わせる形で合体させ、一本の両刃の長剣としても扱える、珍しい種類の武器なのだ。


 基本的には、一本ずつの刀を両手に持つ、双刀という種類の武器である鳳凰刀は、一本に束ねられて剣として扱われる場合でも、鳳凰刀と呼ばれる。

 二本の刀に別れた場合、片方を鳳凰の雄であるほう鳳刀ほうとう、もう片方を雌であるおう凰刀おうとうと呼ぶのが、一般的である。


 一本の剣を二本の刀に変え、機功套路を舞う姿を見て、天元は迅雷が鳳凰刀の仙闘機を手にして、機功套路を舞っているのだと、推測したのだ。

 天元の推測は、正しかった。


 素早く機功套路を終えた迅雷は、全身から虹気を放ち始める。

 虹色の気を吸い込んだ二本の刀は、強烈な金色の光を放つ。

 金色の光は満身創痍の迅雷を包み込み、窮奇より僅かに小さい、光の球体となる。


 光の球体は砕け散り、その中から、真紅の巨大な鳥と、甲冑を着た少年が混ざり合ったようなデザインの、機動大仙が出現する。


「あれは呪仙闘機……という事は、華界唯一無二の鳳凰刀の呪仙闘機……凶焔鳳凰きょうえんほうおう!」


 迅雷が融合した鳳凰刀の機動大仙も、身体の各所に得体の知れない文字や文様が書き込まれている、呪仙闘機だった。

 天元は、封神門が窮奇だけでなく、唯一の鳳凰刀の呪仙闘機、凶焔鳳凰を封印しているという話を、王凱から聞いていた。


 それ故、鳳凰刀の呪仙闘機を見て、凶焔鳳凰だと見抜けたのだ。


「素華師姐!」


 凶焔鳳凰と融合した迅雷の、怒りと悲痛さのこもった怒鳴り声が、闘源郷に響き渡る。

 そのまま、疾風のような速さで凶焔鳳凰は窮奇に向かって突撃すると、鳳刀と凰刀に分れていた鳳凰刀を、一本の剣にして斬りかかる。


 窮奇は方天戟の月牙で、鳳凰刀による攻撃を受け止める。

 重く激しい金属音が響き渡り、火花が飛び散る。

 巨大な機動大仙が手にした、武器と武器の衝突は、激しい衝撃を生み、闘源郷を揺らす。


「封神門の掌門として……俺は貴女を処刑する!」


 凶焔鳳凰の輝く目が、天翔や天元達の向かっていた方向……今は瓦礫に埋め尽くされているが、少し前までは外への通路が延びていた辺りを睨む。

 無論、凶焔鳳凰と融合した迅雷が、その辺りを睨んでいるが故である。


 鳳凰刀を再び鳳刀と凰刀に分け、左手で持つ凰刀で方天戟を抑えたまま、凶焔鳳凰は右手で持った鳳刀で、窮奇の左腹部に斬りかかる。

 鳳刀の刃が煌めき、窮奇の胴を両断するかと思った刹那、窮奇は宙に舞い、凶焔鳳凰の斬撃をかわす。


 窮奇が宙に舞っている間に、凶焔鳳凰は意外な動きを見せる。

 突如、鳳刀の先端を瓦礫の中に突き刺し、瓦礫を払いのけたのだ。


 退けられた瓦礫の先には、外に通じる通路があった。

 凶焔鳳凰と融合している迅雷は、瓦礫に埋もれた辺りに通路がある事や、通路が瓦礫で埋まったせいで、逃げられなくなっている人々がいる事に気付き、鳳刀で退路を開いたのである。


「さっさと逃げろ! 死にたいのかっ!」


 迅雷の鋭い声を聞き、北側の観戦席に残されていた人々は、迅雷の意図に気付く。

 人々は通路に向かって押し寄せ、戦いの地獄と化した闘源郷から逃げ去ろうとする。




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