003 そして、我が同胞達より、永遠に責め苛まれるが良い!
先程まで歓声を上げていた観客達は、巨大な機動大仙達が姿を現した事により、危険な状況を察した。
観客達は悲鳴を上げながら、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。
逃げ惑う普通の観客達の存在など無視し、素華が操る窮奇は、王族が逃げ去ろうとしている北側の席を狙い、方天戟を突き出す。
空気を引き裂くような音を立てて、王族に迫る方天戟の穂先の先端……切っ先を、窮奇同様に虎を思わせる外見をしている機動大仙……虎王屠龍が、重量感のある金属音を響かせながら、手にした大刀で受け止めて弾く。
黄武十二聖の筆頭たる黄虎が、「龍を屠る虎の王」という意味の名を持つ仙闘機を機動大仙化させ、窮奇の前に立ちはだかったのだ。
武器形態の際に、大刀の姿をしている虎王屠龍は、機動大仙に変化した際、大刀を手にしている。
他の黄武十二聖達の機動大仙は、変化を終えたばかりで、窮奇の攻撃には対処出来ないが、真っ先に変化を終えた黄虎の虎王屠龍は、攻撃に対処出来たのだ。
しかし、攻撃を弾かれた窮奇も、そのまま引き下がりはしない。
弾かれた方天戟の穂先を、窮奇は横向きに半回転させるように、背後に回す。
すると、身体の後ろ側を向いていた方天戟の柄の下部……下把が半回転して、方天戟を弾いた虎王屠龍を打ち据える。
しかも、ただ打ち据えるだけでなく、窮奇が手にした方天戟の下杷に、稲妻を纏わせた上での攻撃である。
「雷撃功と横撃把の、合わせ技かっ!」
逃げながらも振り返り、戦いの成り行きを見守っていた天元は、思わず声を上げてしまう。
雷撃功とは、経絡を流れる気に、雷の属性……雷属性を与え、雷撃により敵を攻撃する、高度な内功である(気が流れる体内の経路が、経絡)。
武術家として操れる技なら、内功であれ外功であれ、機動大仙と一体化している際も、武術家は使える場合が多い。
素華は方天戟を弾かれながらも、雷撃功を発動すると、方天戟の主要攻撃部位である、穂先と月牙に加え、下把にも雷を纏わせた。
その上で、横撃把という下把で打つ技を、放ったのである。
方天戟や槍などの、長器械と呼ばれる長柄の武器を、横向きに回転させ、柄の下把部分で敵を打つ技を、横撃把と呼ぶ。
素華が放ったのは、横撃把を雷撃功による雷撃と組み合わせた、難易度の高い技……雷閃横撃把なのだ。
雷閃横撃把を食らい、虎王屠龍が体勢を崩した隙を、素華は見逃さない。
方天戟を前向きに縦回転させ、月牙が付いている先端部分を、虎王屠龍に向けて振り下ろす……劈戟という技を、窮奇は虎王屠龍に放つ。
虎王屠龍は方天戟に、前面の装甲を斬り裂かれる。
斬り裂かれた装甲から、火花と共に血飛沫のような真紅の液体……機動大仙にとっての血液といえる、仙血が飛び散る。
続いて、方天戟の先端を虎王屠龍に向けると、窮奇は連続で突きを放つ。
一呼吸で鋭い突き……刺撃を十回、敵の急所に向けて放つ技……降龍十絶刺である。
鋭い降龍十絶刺による攻撃は、装甲の内部……複雑な機械らしき何かで満たされた、機動大仙の本体に穴を穿ち、破壊する。
花火のような火花と仙血を、傷口から飛び散らせる虎王屠龍の姿は、激しく出血している、武人のように見える。
機動大仙となった仙闘機と一体化し、操っている武術家は、機動大仙を己の身体のように操れる。
だが、その代わりに、機動大仙の内部に損傷を受けた場合、武術家自身の身体が損傷を受け、苦痛を感じる。
武術家と機動大仙は、同調している状態にあるので、そうなるのだ。
そして、手酷い傷を機動大仙が負った場合、仙闘機は機動大仙としての形態を維持出来ず、武器形態に戻ってしまう。
窮奇の降龍十絶刺を食らった虎王屠龍は、機動大仙としての形態を維持出来なくなる程のダメージを負い、虹色の光を放ちながら、只の大刀としての武器形態に戻り始める。
無論、黄虎も仙闘機との融合を解かれ、只の武術家としての姿に戻る。
虎王屠龍が傷を負ったのと同じ部分に、黄虎は傷を負っている。
既に戦闘の継続が不可能なのが、一目瞭然である血塗れの黄虎を、近衛兵達が助け出し、運び去る。
黄虎を倒した窮奇は、他の黄武十二聖達の機動大仙に、突撃を開始。
窮奇が手にした方天戟の穂先と月牙は、金色の雷光を放っている。
窮奇は突撃しながら、先端が金色に輝く方天戟で、前方を一気に薙ぎ払う。
虎が前脚の爪で、獲物を引き裂くような一撃を、雷を纏った長柄の武器を使い、身体を旋回させながら放つ技、虎爪雷旋である。
虎爪雷旋には幾つかの種類があるのだが、前方だけを薙ぎ払う技の名は、虎爪雷旋月牙。
三日月……月牙のような軌跡を雷光で描く事から、名付けられたと言われている。
虎爪雷旋月牙は、耳を劈く程の轟音を響かせながら、三機の機動大仙を薙ぎ払う。
三機の機動大仙は、胸部や腹部などの重要部位に深手を負い、呆気なく倒され、虹色の光に包まれつつ融合を解かれると、武術家と分離して武器形態に戻る。
窮奇が機動大仙を薙ぎ払った際、方天戟の先端から放たれた雷は、王族達が殺到していた、闘源郷から外部に通じている通路の、出入り口付近を直撃し、破壊する。
雷が直撃した、家屋や木々が吹き飛ぶように、通路付近の壁などが砕け散る。
砕け散った壁の破片は瓦礫となり、王族達や近衛兵達に降り注ぐ。
武術を習得し、内功を操れる近衛兵達は、一斉に硬功を発動する。
硬功とは、力と防御能力を強化する内功であり、硬功を発動した武術家は、猛獣を超える程の強い力と、鉄製の鎧を身に纏うのと同等の防御能力を得る。
その代わり、動きは少し鈍ってしまうのだが。
ちなみに、黄虎や他の黄武十二聖達は、機動大仙と化した直後、実は硬功を発動し、防御力を引き上げていた。
だが、素華の高い内功の実力と、呪仙闘機である窮奇の力が合わさった攻撃は、黄虎達の硬功では防ぎ切れず、倒されてしまったのだ。
強力な力と防御能力を得た近衛兵達は、降り掛かる瓦礫を拳や掌で払い、腿法……足技で蹴り飛ばして、武術の心得が無い王族達の身を、瓦礫の雨から守る。
天元や天翔など、武術の心得がある王族達も、自ら硬功を発動し、他の王族達を守る。
護身術として武術を習得している王族は、相当数存在するのだが、内功を使いこなせる程の者は、少数である。
方天戟を振り上げた窮奇は、突如、素華の声で叫び声を上げる。
融合した武術家の発した声を、機動大仙と化した仙闘機は、口で話しているかのように、拡大して外部に伝える。
「黄泉に堕ちよ、雷天王!」
黄泉とは華界において、死後の世界を意味する言葉である。
「そして、我が同胞達より、永遠に責め苛まれるが良い!」
窮奇は逃げ惑う王族達の一点を狙い、方天戟で突く。
狙われたのは、雷天王である。軽功を操る近衛兵に背負われ、逃げようとした瞬間、雷天王は方天戟の穂先に突かれたのだ。
黄国を統べる雷天王は、周囲にいた王族達や近衛兵達と共に、無数の肉塊と血飛沫となり、辺りに飛び散る。
即死である事は言うまでも無く、どの肉塊や血が雷天王のものだったのか、既に誰にも判別は出来ないだろう状態である。




