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この復讐は俺のもの  作者: 桜ジンタ
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038 勝機は待たずに、自分で作れ!

「勝機は待たずに、自分で作れ!」


 再び、迅雷の嘯による声が、天剣に届く。


(親父には、己の天命を信じて機会を待てと、教わったんだがな……)


 天剣は父親から受けた事がある助言を思い出し、迅雷の助言と比べてみる。

 どちらが正しいのかといえば、それは時と場合によると、天剣は思う。


 だが、追い詰められながらも機会が訪れない、この状況において、正しいのは迅雷の助言であると、天剣は判断する。


(いや、チビガキの助言自体が、俺に訪れた機会なのかもしれない)


 心の中で呟きながら、天剣は意を決し、基本的には弓歩を維持したまま、少しずつ前に進み始める。

 勝機を自らの手で、作り出す為に。


 後退を止め、前に出てきた天剣を見て、少しだけ躊躇ったように、天嬋は動きを止めるが、再びゆっくりと前に進み始める。

 天剣の前進を、策がある訳では無く、追い詰められたが故の、暴発的な行動だと考えたのだ。


 両者の間合いが、詰まり続ける。

 天剣の耳に届く、軟鞭が空気を切る音が、少しずつ大きくなってくる。

 敵が近付いている事を、視覚だけでなく聴覚でも、天剣は明確に意識せざるを得ない。


 冷や汗が肌に滲み、頬を伝って流れ落ちる。

 天剣は全ての感覚を研ぎ澄まし、天嬋と鞭の動きを、見切ろうとする。


(見つけるんだ、この軟鞭による防御を突破する方法を!)


 天剣は更に前進しながら、軟鞭を凝視し続ける。

 目が慣れたせいなのか、次第に鞭の動きが、はっきりと見え始める。

 そして、距離を詰めれば詰める程、天嬋の身体の中で、大きく動く唯一の部分……軟鞭を振り回す右手の事が、天剣は気になり始める。


(そうか、軟鞭自体は一本で、操っている手は右手だけなんだ……)


 心の中で、天剣は呟く。

 当たり前の事なのだが、その当たり前の事を、天剣は意識出来ていなかった。


 長い軟鞭を回転させ、身体の周りに幾重にも張り巡らせる蛇螺旋陣は、あらゆる方向からの攻撃を、防ぐ事が出来る。

 しかも、双刀による別々の部分への同時攻撃ですら、一度に軟鞭だけで受け止め、弾き返していた。


 そのせいで、まるで軟鞭が何本もあるかのような錯覚を、天剣は覚えていた。

 天嬋の技には、天剣に限らず対戦相手に、そう感じさせるだけの力があったのだ。


 実際、硬功で強化された上に、回転運動を与えられ続けている軟鞭は、硬功を発動した天剣による、鳳刀と凰刀による斬撃を弾き、軌道を変えるだけの力があった。

 片手で操る、一本の軟鞭でしか無いのに。


(これまで蛇螺旋陣に弾かれたのは、鳳凰刀を二つに分けて鳳刀と凰刀とし、それぞれを片手に持った上での攻撃だった)


 心の中で、天剣は分析を進める。


(これは、連続で素早く斬り付けるには適しているが、片手での攻撃である以上、一撃辺りの威力は低いので、あの軟鞭に防御され易い……)


 勝利に通じる道を見出し始めた天剣は、鳳刀と凰刀を合わせて、一本の剣とする。

 名前は鳳凰刀と、刀のままなのだが。


(つまり、全力を込めて両手で斬りかかった方が、弾かれ難いという事だな)


 華界では、剣や刀は片手で扱う事の方が多い武器なのだが、全力を込めた一撃を叩き込む場合は、剣や刀も両手で扱う方が適している。

 硬功により力が強化されている状態で、天剣は両手で鳳凰刀の柄を握り、振り上げる。


 天剣の動きを見て舌打ちし、焦りの表情を浮かべた天嬋を目にして、天剣は自分の判断の正しさに、自信を持つ。

 そして、自信は己の力を増す。


雷山瀑布双手劈らいざんばくふそうしゅへき!」


 己に気合を入れる為、技の名を叫びながら、天剣は右足で勢い良く前に踏み込み、頭上に振り上げていた鳳凰刀を、全力で正面に振り下ろす。

 雷聖門の本拠地である雷山にある、大きな滝……瀑布の如き勢いで、両手で持った剣や刀を、真上から振り下ろす形で斬る技……それが、雷山瀑布双手劈である(劈は斬る事を意味する)。


 これまで通り、天嬋は周囲に巡らせた軟鞭で、鳳凰刀を受け止めて弾こうとする。

 しかし、今度の鳳凰刀による斬撃は、これまでとは違い、軟鞭で完全に弾く事が出来なかった。

 天嬋の軟鞭は、鳳凰刀の勢いに負けて湾曲し、雷山瀑布双手劈を止める事が出来ない。


 それどころか、雷山瀑布双手劈の凄まじい威力は、軟鞭を激しく振動させてしまう。

 振動は軟鞭を伝わり、衝撃となって天嬋の右手に襲い掛かる。


「くっ!」


 右手に伝わってきた激しい衝撃に負け、天嬋は苦痛に呻きつつ、軟鞭を右手から放してしまう。

 天嬋の軟鞭による防御は、完全に崩されてしまった。


 軟鞭を手放した天嬋に、鳳凰刀が迫る。

 天嬋は焦りつつも、左手に持つ硬鞭で、鳳凰刀の刀身の側面を全力で強打。


 すると、軟鞭の防御により、ある程度……威力を殺されていた鳳凰刀は、攻撃の向きを逸らされてしまい、天嬋ではなく地面を打ってしまう。

 花火が炸裂したかのような音が響き、地面に大穴が穿たれる。


 最初から地面を穿つつもりで、雷山瀑布双手劈を放ったのでは無い。

 攻撃の向きを、強引に変えられる形で地面を打った為、鳳凰刀を手にした天剣の手首に、予測していなかった、強烈な負荷がかかる。


 凄まじい負荷に耐えられず、天剣は鳳凰刀を手放してしまう。

 天剣の手を離れた鳳凰刀は、天剣の手の届かない所まで飛んで行く。


 得物を手放し、両手が空になったのは、天剣だけでは無かった。

 強引に鳳凰刀を薙ぎ払った際、左手首に強力な負荷がかかったせいで、天嬋も硬鞭を手放してしまったのだ。


 三メートルも離れていない間合いで、天剣と天嬋は素手のまま、向かい合う状態になる。

 両者は硬功を発動中であり、天剣の受けているダメージの方が、現時点では大きいとはいえ、決定的なダメージを負っている訳では無い。


 そして、両者の武器は、互いの敵よりも遠くにある。

 武器を取りに行こうとする動きを見せれば、敵が自分に必殺の一撃を叩き込むだろう事は、明白といえる状況。

 つまり、この時点で二人の戦いは、素手による戦いにシフトしたのである。




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