表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この復讐は俺のもの  作者: 桜ジンタ
2/91

002 あれは……呪仙闘機の窮奇!

 素華の見せた、舞っているかのような套路の如き動きは、機功を発動させる際に見せる、特殊な套路……機功套路だったのだ。

 機功は発動の際、手にした武器形態の仙闘機で、自らの身体を傷つけるかのような、通常の套路や技の披露では、有り得ない動きを見せる。


 素華は華麗な動きの中に、自らの身体を方天戟で傷つけるかのような動きを織り交ぜた後、方天戟の穂先を地面に突き立てる。

 機功套路の締めくくりは、手にした武器形態の仙闘機の攻撃部位を、接地させるのである。


 この段階に至り、機功を知る者達は確信した。

 素華が機功套路を、行っていた事を。


「機功だ! 機動大仙で仕掛けて来る! 黄武十二聖は戦闘準備! 近衛兵達は王族の方々を護り、退路の確保を!」


 黄武十二聖の筆頭格であり、虎王屠龍こおうとりゅうという大刀型の仙闘機を操るりょう黄虎こうこが、王族を護る近衛兵達や、他の黄武十二聖達に、指示を出す。

 清明武林祭に参加する武術家には、闘源郷における機功の発動が、許されていない。


 そんな闘源郷において、王族の並ぶ北側の席に向かい、機功套路を舞う素華の意図を、黄虎は察したのだ。

 機動大仙化させた仙闘機を駆り、王族を襲おうとしている、素華の意図を。


 黄虎の指示に従い、近衛兵達は王族を囲んで護りつつ、退路を確保し始める。

 黄武十二聖の面々は、携帯している武器形態の仙闘機を手にして、機功套路を舞い始める。


 既に機功套路を終えた素華は、全身から虹のような七色の光を放っている。

 虹のように光る気は、機功を発動された場合にしか現れない、虹気こうきと呼ばれる特殊な気である。


 虹気は素華が手にした方天戟に、吸い込まれていく。

 虹気を吸い込んだ方天戟は、強烈な金色の光を放ち始める。

 金色の光は素華の姿を飲み込み、人間の十数倍の高さがある、巨大な光の球体となる。


 光の球体は数秒後、卵の殻のように砕け散る。

 光の球体であった、光り輝く無数の破片群を、花火の如く周囲にまき散らしながら、卵から生まれる雛鳥のように、甲冑を着込んだ機械の巨人が、姿を現す。


 方天戟の仙闘機が、素華と融合し、機動大仙形態に変化したのだ。

 役目を終えた、光の球体の破片群は、大気に溶け込むように、消え去ってしまう。


 黄色と黒の縞模様の甲冑を身に纏う、機械の巨人……機動大仙は、人型ではあるのだが、外観はどことなく虎を思わせる。

 背中に小さな翼が生えた、虎を思わせるデザインの甲冑をまとった、機械の巨人といった感じの見た目だ。


 身体の各所には、不可思議な文字や文様が、大量に記されている。

 この文字や文様の内容を理解する事が出来る者は、仙人などの仙術に通じた者だけだと言われている。


 だが、機動大仙の外装部に、そういった文字や文様が書き込まれている事自体の意味は、ある程度以上、機功に通じた者なら知っている。


「あれは……呪仙闘機じゅせんとうき窮奇きゅうき!」


 天元は機動大仙となった素華の仙闘機を、呪仙闘機の窮奇と呼ぶ。

 窮奇とは、華界に伝わる伝説の魔物の中で、最も恐れられている四種類……四凶しきょうの一つに数えられる、翼を持つ虎のような姿をした魔物である。


 魔物と似た特性を持っていたり、魔物の姿をデザインに取り込んでいる仙闘機は多い為、魔物から名を引用している仙闘機は多い。

 素華が操る仙闘機は、窮奇の名を持つ仙闘機なのだ。


 そして、天元の言う呪仙闘機とは、呪われた仙闘機を意味する。

 機動大仙の表面に記された文字や文様は、機体が呪われている証拠なのである。


 呪われた仙闘機は、呪われる前に比べ、圧倒的に性能が引き上げられるので、呪仙闘機は殆どの場合、呪われていない仙闘機よりも、遥かに強い。

 しかし、呪仙闘機を機動大仙と化し、操縦した事により、呪仙闘機の主人となった武術家は呪われてしまい、理不尽で不条理な呪いの被害を、その身に受ける羽目になる。


 しかも、呪仙闘機は達人級の機功の実力が無ければ、まともに操る事は出来無い。

 機功が使えるとはいえ、極めるに至らぬ未熟な武術家が、呪仙闘機を機動大仙と化すれば、まともに操れもせずに暴走させ、人々に凄まじい被害をもたらす結果となってしまうのだ。


 操縦者である武術家を、呪いで不幸にするだけでなく、未熟な者が操る事によって、人々に被害をもたらす危険な存在……呪仙闘機は、華界では禁忌の存在と看做みなされ、遠い昔に封印される事が決まった。

 その封印の役目を担ったのが、武術だけでは無く仙術にまで通じていたらしい、神すら封じると言われた、当時最強の天才武術家、そん呂望りょぼうである。


 呂望の秘術……封神術ほうしんじゅつによって、華界に災厄といえる程の被害をもたらした、呪仙闘機の多くは、黄都郊外にある低山……封神山の奥に封印された。

 呂望が開祖となり、その秘術を受け継いできた武術門派こそが、封神山を本拠地とする封神門なのだ。


 華界では呂望亡き後も、様々な呪仙闘機が発見され、数多くの被害や災厄をもたらす事になった。

 そういった呪仙闘機を集めて、封印する役目を負っていたのが、封神門の武術家達なのである。

 ただし、現在では封神門ですら、呪仙闘機を封じ込める秘術は、失われたと言われている。


 そして、封神門が封神山に封印していた呪仙闘機の中でも、最強にして最凶の存在とされていたのが、翼を持つ虎の魔物……四凶の窮奇だった。

 呪仙闘機の存在は、今では機功を習得した、仙闘機の使い手の中でも、一部の者達だけにしか知られていない程度に、忘れられた存在となっている。


 だが、封神門を束ねる総領……掌門しょうもんげん王凱おうがいと、親しい友人であった天元は、呪仙闘機について教えられていたし、封神門が呪仙闘機の窮奇を封じていた事を知っていた。

 故に、封神門の素華が、翼を持つ虎の如き機動大仙と化した、呪仙闘機を操っているのを見て、その正体が窮奇だと見抜けたのだ。


 天元が見抜いた通り、巨大な方天戟を手にした、翼の生えた虎を思わせる機動大仙は、呪仙闘機である窮奇だった。

 窮奇が方天戟を手にしているのは、仙闘機は機動大仙化した際、武器形態の時に変化している武器と、同じ武器を手にするのが、普通だからである。


 黄武十二聖の面々も、機功套路を終えて光に包まれ、自分達の仙闘機と一体化しつつ、機動大仙に変わり始めている。

 黄国軍の歴代の猛者達に受け継がれて来た、十二機の仙闘機の内の四機が、巨大な武人の如き機動大仙となり、王族や他の観客達を護るかのように、立ち並ぶ姿は壮観だ。


 黄武十二聖の操る二機と、窮奇の機動大仙が、何処か女性を思わせる姿をしているのは、主人が女性だからである。

 操縦する主人の性別や年齢に応じて、機動大仙は外観を変えるのだ……男性が操縦すれば男性的に、女性が操縦すれば女性的にといった具合に。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ