あちら側のぼくら
つっ転んだ。神社の広場で。特に障害物はなかったのに。
両足が血まみれだ。帰ってお母さんに手当てしてもらおう。
かくれんぼをしてた。僕は鬼で、竹林の中に隠れている友達を見つけて
走って距離を詰めようとしたところだった。
僕は、転んだ場所を振り返り、近寄っていった。
そして、恐る恐る手を伸ばした。すぐに手を引っ込めて絶叫した。
ざらついた、人の背中のような触感があった。
なにかいる。
隠れていた友達はしびれを切らして、僕の元に近寄ってきた。
「両足血まみれじゃん、水道のところに行こ。」
友達は僕のことをとても心配し、水飲み場まで肩を支えて誘導してくれた。蛇口で血を洗い落としても、また流れだしてくる。
僕は傷口よりも、あの目に見えない、柔らかい何かが気になった。
「かっちゃんのところへ走りにいったら、何か大きいものにつまづいたんだ。」
かっちゃんは話を聞くと、僕が転んだ地点に向かい、手を差し伸べ、絶叫した。「星くん、ここになんか、人型のなにかがある」といった。
僕は大きくうなずいた。
かっちゃんの近くの砂が、急に1箇所に集められ山になり、山頂の土がえぐり取られた。ガリガリと咀嚼音が続いた。目に見えない何かが、土を食っている。
するとだんだん透明な姿の輪郭がはっきりし、色を帯び始めた。
30代くらいの女性だ。土や雑草を食っている。咳込みながら咀嚼する姿が痛々しかった。女性はかっちゃんに目を止め、腕をつかんだ。
「坊や、転生者保護機関の支部を知っている?」
「…聞いたことがあるけど、わかりません。」
「交番にお連れします。その前に食べ物を用意します」僕は女性に言った。
女性は驚き、それから品よく微笑み、「感謝します。」と述べた。
かっちゃんと僕は女性を連れて、最寄りの僕の家に連れて行き、ココアとクッキーを提供した。シャワーも浴びてもらった。泣きながらクッキーを頬張る姿が、目に焼き付いた。
服が、映画などで見かける古代人を思わせるデザインだった。麻のロングスカートに、両耳に翡翠の飾り。目立つだろうから、母親の服を着てもらった。元の服は紙袋に入れ、女性に渡した。
交番にいき事情を話すと、警察官は顔色を変え、すぐに電話をした。
話ぶりから、直属の上司に指示を仰いでいた。
「君たちお手柄だ、ありがとう」といい、僕たちは板チョコレートをもらった。また、謝礼金を10万円を受け取った。この金額、大事件だ。
しかも僕の足の怪我まで手当てしてくれた。
女性はこれからどうなるのか、聞いてみた。
転生後、見聞きした情報、技術、過ごし方などを、経済学者や医者が同席し、聴取するらしい。そうやって、この世に生かすアイデアを探すんだ。
その後は、出身を聞き、身分証明書を作り、出身地域へ送迎するとのことだった。
女性は涙ながら、僕たちにお礼を言い、交番の奥の部屋へ下がっていった。
◇◇◇
両親に今日あったことを話した。
謝礼金は大事に取っておきなさいといわれた。
両親は転生者は苦労が多いと同情的に話していた。
過去の転生者の話だと、異世界の方が過ごしやすく、こちら側に帰ってこないこともあるとのことだった。転生は、1900年代から起き始め、技術の発達で、ようやく帰還させる仕組みが確立されたのが、1980年頃だといった。
奇しくも戦争体験が各国の技術革新を後押ししたようで、今では転生者とコンタクトを取る装置があるのだとか。
僕は寝所で、女性の麻の服を思い出した。
羨ましい、僕は古代で暮らしたい。これからどうしたいかも分からず、選択肢の多いこの世で、生きづらさを感じていた。
古代では、選択肢も限られ、仕事に緻密さを求められることもなさそうだ。
たしか、転生者を帰還させるため、異世界に入る仕事があったな。
たいてい囚人がやる仕事だけど、僕でもできるかな。
今のうち、生命保険に加入し、僕がこの世に帰れなくなっても親が苦労しない仕組みを作っておこう。
僕はしたり顔で人生設計をし、眠りについた。




