5・真相は(メイナ編)
「何故、一ヶ月もわたくしを放置したのかしら?」
「簡単だよ。ナナハと第五側妃の企みは察知したが、まさかあの夜会でやらかすとは思っていなくてね。根回しが済んでなかった」
檻の中と外で対面したわたくし達。わたくしが尋ねればエビルはあっさりと答える。
「根回し、ね」
「やっと君の父から君を貰い受ける承諾を得られたのさ」
「何を引き換えにしましたの?」
わたくしを溺愛しているお父様ですもの。本当はわたくしを嫁に出したくないはず。義弟を跡取りにしたのは、彼とわたくしを結婚させる心算だったのでしょうね。若しくは誰とも結婚させたくなかったか。
わたくしとエビルの婚約を結んだ時の条件がどのようなものだったのか、お父様が教えて下さいましたが、ある程度したら婚約解消のち、わたくしの婚姻に口を出さない、というものでした。
それだけではないとは思いますが、それがメインなのでしょう。王命で結婚を申し付けられたくない、とお父様は思っていらしたようですものね。エビルとの婚約は第三側妃を少しの間黙らせるためだったのでしょう。
いずれ解消されるはずの婚約を、お父様に継続させる決意をさせたその条件は?
「孫」
「は?」
「血の繋がった孫を抱きたくないか? ってね」
えっ、お父様、それで陥落しましたの⁉︎ なんて簡単な人……。嘘でしょ⁉︎ わたくしは愕然としてしまいました。エビルはそれを愉しそうに眺めていますわ。本当嫌な男。この騒動が起きるまでは考えていることが読めそうな底の浅い浅はかな男だと思っておりましたのに。
浅はかどころか腹黒でしたわね。お花畑な思考でもしているのか、と思ってましたわ。
こんな腹黒男だったなんて……。付かず離れずというよりは、必要最低限の交流しかしてこなかったことが仇となったのかしら。何より苛立つのはわたくしの考えを見透かしているように余裕で笑っている所よ。
「随分と余裕ですわね。わたくしがあなたの子を産むとでも思ってますの?」
「もちろん。だって君はもう分かっている。私から逃れられないってね」
悔しいですがその通りですわ。本当に苛立たしいことに。
「結婚はしますわよ。でもそれだけですわ」
この男が現れるまで、本当にわたくしはこの男の掌の上で踊らされていたなんて思いもしなかった。それに気づかなかった時点で、わたくしの負けですわ。つまり婚約は続行以外の選択肢がない。となればその先の結婚も、仕方ないことですわね。でも、この男の子を産む気はないですわ。
「それは無理だよ。だって、君の父親に私の本当の父親について、とそれに纏わる話をしたもの。聞いてしまった以上、君の父親は、私と君の結婚以外有り得ないことを理解してしまったし、君が私から逃げられないことも理解してしまった。君が一生籠の鳥として暮らすのか、それとも足枷は有ってもそれなりの自由を勝ち取って暮らすのか。その二択しか無いことも、理解してしまった。
君の父は君と私の結婚以降に、死の間際になっても君に会えなくなる籠の鳥として過ごすよりも、私の子を産んで君の足に枷が有ってもそれなりの自由を勝ち取って過ごすことを提案してくるだろうからね」
わたくしは、微笑みながら狂気の沙汰のようなことを言い出すエビルに悟る。冗談でも何でもなく、実行するのだろうことを。
わたくしがこの男の子を産まない限り、家族の死に目にすら立ち会えず、当然友人にも会えない。先程、ユニカと約束したことすら守れない、ということか。
「分かりましたわ。友人に会うことや家族に会うことくらい、自由に許可をして下さいね」
「うん、君は本当に聡明で気位は高いけれど引くべき時を見誤らず素直な所があって、家族や友人想いだよね。初めて会った時、外見にも惹かれたけれどその中身も気に入った。だからこそ、私は気兼ねなく君を手に入れようとあの日からずっと根回しをしていたんだ」
わたくしが瞬時に引き下がれば、目の前の男はニッコリとまるで良く出来ました、と褒めるように微笑んでから、うっとりした顔で思い出を語る。
ああ、あの日からわたくしはこの男から逃れる術がなかったのですか。
今まできちんと交流をして来なかったし、浅はかで盆暗でお花畑だろう、と勝手に思い込んでこの男の本質を見極めて来なかったわたくし自身の甘さですわね。
わたくしがそう思うようにこの男が計算して愚かな振る舞いをしていたとしても、それに気づかなかったわたくし自身の甘さがこの結果を招いただけですわ。
「分かりました。でも、わたくしはあなたを愛することは有りませんわ。それはご理解されていらっしゃるのでしょう」
目の前の男が愛からわたくしを手に入れたいのか、ただの執着なのか、それとも別の要因なのか。そんなことは知らないですし、知りたいとも思いません。
甘かったわたくし自身の責任を負うのですから結婚しましょう。子も産みましょう。でも、わたくしは愛することは無いのです。
「いいよ。別に。私は君が私の側から離れないなら、それで構わないと思っているから」
アッサリとした返答。そうでしょうとも。
こうしてきちんと話してみて分かりました。
わたくし達は同類なのです。
エビルという男は、わたくしを確かに恋だか愛だか知りませんが異性として思っているのでしょう。そこは理解しました。
同時に、わたくしを愛しているという自分に酔っているのです。
つまり、わたくしを想いながらもその根底は、わたくしを愛する自身を愛している。自己愛者ということです。
わたくしを想う自分が愛しいだけです。
わたくしを想う己ではなく、ただ己を愛していればこんな面倒なことにはならなかったのでしょう。
それはつまり、わたくし自身にも言えることですから。
わたくしはわたくし自身を愛している自己愛者。
家族や友人から好かれている事は分かっていますし、それなりに愛情を返しているつもりです、わたくしなりに。
でもそれ以上に、わたくしはわたくし自身を愛して大切にしています。わたくし自身を蔑ろにしては、他者からも愛されることがないでしょうし。
ですから、わたくしはわたくし自身を愛していて、他者をわたくし自身への愛情以上に愛する事は有りません。
おそらくこの目の前の男もそこまで分かっているのでしょう。わたくしが自分を愛さないだけでなく、他の誰も愛さない、と。だからそれで構わない、と思っている。そういうことです。
……ああ、本当に嫌な男に捕まってしまいましたわ。
お読み頂きまして、ありがとうございました。




