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Episode62 竜殺しと友達同盟


 竜道レイクと犬猿の仲になったのは、きっかけは女みたいな容姿を揶揄われたことだが、宿敵として認めた経緯はまた別だ。


 竜道は一目見たときから気に食わなかった。

 本能的に憎くなる相手とでもいうのか。


 多分、それは向こうも同じだった。



 俺は大抵のことじゃ相手になんかしない。

 張り合ったら、そいつと同格に落ちるから。

 そういう風に父親に教えられて育った。

 父親の顔も名前もうろ覚えだが、それだけは唯一、今でも信条にしてるくらい大事にしている。



 俺は竜道レイクを認めているんだ。

 実力もあるし、一本、筋が通った奴だった。

 考え方はクズでも、そういう奴のことは、一周回って好感を持てちまう。


 竜道家は、地元の名家だった。

 あいつの父親も母親も厳しいって噂だ。

 本気だせば、気に入らない奴の家を世間的に追い込んで、締め上げるくらいのことはできただろう。


 でも竜道は"親に頼る"ことは絶対にしなかった。

 それがあいつの流儀だったんだ。



 その意味では俺もあいつと同じなのだ。

 佐我家なんか片親の家庭だから、竜道が本気を出せば、俺の家を追い詰めることもできただろう。そういうことはされなかった。


 それと、竜道は不良グループの仲間を大事にした。

 意外と情に厚い奴だった。

 俺は逆に前世は薄情で、人とつるまなかった。

 佐我アンジだった頃に比べれば、アンジー・シルトの自分は少し変わった。

 今こんなに周りには仲間がたくさんいる。

 一方で、竜道レイクがドレイクとしてアウトローに生きている。運命の罠か?


 竜道を思い出すと、今のドレイクは違和感がある。

 それがドレイクを倒す鍵なのかもしれない。


 この世界にきた俺とあいつの違うところ。

 ――それって、今のこの状況こそが。

 


「ドレイクっていう竜が今回の敵なんだ?」

「今回のって……常に敵がいるような言い方な?」

「いつもアンジーの周りは敵だらけだよ」


 ティミーに始まり、ダルケに続き、ドレイク。

 中ボスも数えたら水竜シーザー、イザベラ、そして……リノ、お前だよお前!


「お前もその一人じゃん」

「え?」

「お前もその一人じゃん」

「え?」

「会話を2回繰り返すとか頭だいじょうぶですか」


 俺とリノの低おつむトークにベルンが割り込んだ。


「リノさんはもう敵ではなくて正式なお友達です」

「ベルンちゃん……」

「というかアンジーは言葉が辛辣すぎますわ。もうちょっと言い方があります」

「そうだよね。ベルンちゃん優しい」

「あ、え? ……そ、それはどういたしまして」


 あれ、なんかベルンとリノが仲良さげ?

 おや? おやおや?


「と、ともかく、アンジーの前世の話、まだ長くなりそうですわね」


 ベルンが気まずそうにこっちに話題を振った。

 誰かに気持ちを向けられるのが意外と苦手らしい。

 可愛いところあるじゃねーか。


「なんなら、次はベルンが話すか?」

「私の秘密ですか?」

「そうだよ」

「ふふふ、私の秘密は色々ありますわ」

「お?」


 ベルンの秘密。

 なんだろうな? 実はとてつもなく苦労人?

 姉妹が沢山いてベルンシュタインの遺産相続で骨肉争いの最中とか?

 淑女らしく振舞おうって気概はそれが理由か?

 それとも魔術の奥の手を隠し持ってる?


「私は、ベルンシュタイン家の長女ですわ」

「うん、知ってるぞ」

「得意魔術は、我が家に伝わる演算魔術ですわ」

「それも知ってる」

「趣味は読書で、好きな詩人は――」

「それも聞いた。メドナ・ローレンだろ?」


 ベルンの笑顔がぴくぴくと動いた。

 え、待てよ。もしかして、それだけ?

 この秘密暴露大会を始めたリノが目を輝かせて、本当の秘密暴露を待っている。


「それからそれから?」

「えーっと……それから~……」

「……?」


 やめろ、リノ。

 その純粋な瞳はベルンの心を抉る。


「姉妹がたくさんいるとか?」

「いいえ、一人っ子ですわ」

「実家に異人種がいるとか?」

「普通の人間族の構成ですわね」


 意外と平和な家庭環境だ!


「んーーーーっと……」

「ベルン、もういい。大丈夫だ」

「……」


 ベルンは見たこともない角度で(こうべ)を垂れた。

 全然秘密らしい秘密がなくてガックリしてる。


 ていうか、俺やリノが特殊すぎるんだ。

 貴族令嬢っていうポテンシャルが俺たちのような特殊な生立ちの前では、ありきたりすぎる。

 あとはネタの出し方次第なんだよなぁ。


「ベルンは全部最初から出しすぎなんだよ」

「出しすぎ、というのは?」

「ワタクシはこういう者でーーすって普段からアピールしすぎなんだ。だから底が見えちまう。もっとひた隠しにしとけば、こういうときにビックリさせられるってもんだろ?」


 ベルンは、自己紹介のときにベルンシュタイン家の生まれだと暴露してなければ、ここぞというときに大抵の人間を驚かせられる。

 え、あの御三家のベルンシュタイン!?

 ってな具合に。

 それを最初から言うからインパクトがないんだ。


「例えば、貴族令嬢だってことを隠せばいい。それか演算魔術のこととかな。必要なときにだけ小出しにするんだ。皆お前の引き出しの多さに驚くだろうぜ?」


 ベルンは面食らったように目を丸くさせた。

 それから顔を赤らめて咳払いした。


「さすがは二度目の人生の方は言う事が違います」

「そうか? 前世の頃から思ってたことだが」

「そうですわ。あと私の秘密ということで、一つ思い出しました」

「どんなこと?」

「……私、毎日、詩を書いてます」


 本当に秘密らしい秘密を出してきた。

 いや、元からそういう話でよかったはずなんだが。

 いつの間にか生い立ちの話が中心になってた。


「詩って、あの詩?」

「そうですわ。政界より文学に興味がありますの」

「ベルンちゃんは詩人になるの?」

「そういう漠然とした夢はあります」


 リノの食いつきがいい。


「……でも、他の皆さんには内緒ですわ。家族にも」

「どうして?」

「恥ずかしいですもの。こっそり書き物の練習をしてるなんて、人から何を言われるかわかりませんし、家族にもそんなことより魔術の勉強をしろとどやされそうですわ」


 どうなんだろう。

 確かに日本にいた頃は、クラスにこっそり絵や漫画や小説みたいなものを書いてるヤツはいて、それらは総じて黒歴史認定される風潮はあった。

 俗に云う"イタい"行為だ。

 俺は、そういう連中を否定はしないが、黒歴史を残すのは愚行だと思う。やるなら中途半端じゃなくて、本気でやれって。


 しかも、それは日本での話。

 この世界の地位は魔術が中心だし、それこそ魔術研究には絵や習字の能力が必要とされる場面も多いんじゃないだろうか。


「詩を書くって魔術詠唱を考えるのと一緒だろ?」

「え……?」

「詠唱だって語句を使うんだからな」

「いえ、西方魔術はそういう節もありますが、東方魔術はどちらかという数式の世界ですわ。決められた法則に基づいて詠唱するわけですから」


 ふーむ。

 その固定観念が東方魔術衰退の原因だと思う。


「でも、詩を詠唱に活かすとか考えたらどうだ?」

「そういう発想はまったくありません」

「ほら、あそこに西方魔術の重鎮がいるわけだし、隙を見て教えてもらえばいいんじゃねーかな?」


 俺は遠くの焚き火で大人の話し合いをするリナリーとイルケミーネを一瞥した。


「リナリー先生……」


 それこそ魔術の発展は冠位魔術であるリナリーの使命でもあるし、東方魔術派に新風を巻き起こすのも俺の役目である。

 これで斬新な東方魔術が増えれば俺も満足だ。



 リノは秘密暴露大会に満足したらしく、俺やベルンの秘密を小声で呟きながら覚えようとしていた。

 俺たちの手を取って、また輪をつくる。


「じゃあ、これでわたしたちはほんとの友達」

「そういうことになるのか?」

「そうだよ。秘密を知ってるってすごいことだから」

「前からダチって感じだったが……」

「いいの!」


 リノは勢いよく両腕を掲げた。

 俺とベルンの腕もそれに引っ張られる。

 なんとなく俺とベルンが繋いだ手も空へ向けた。


「じゃあ、がんばるぞー! おー」

「おーー?」


 なんとなく結束感が高まった気がする。


 これから挑むドレイク戦。

 それに向けて気合一発、円陣組んで星空の下でかけ声をあげたことは、きっと意味があった。




 リナリーのもとに戻ると、向こうもちょうど話を終えたみたいで、俺たち三人の帰りを待っていた。


「遊びは終わった?」


 イルケミーネが流し目に聞いてきた。流し目に。


「遊びじゃねぇ。円陣組んで気合入れてきたんだ」

「そ。まぁ何だっていいけど。アンジーはこれからすぐ戦えるようにビシバシ鍛えるからね」

「は? 今でもすぐ戦えるぜ」

「なに言ってるの?」


 冷酷な目を向けられた。


「負けたんでしょう? アンジー」

「だが?」

「だが? じゃないわ! シュヴァルツシルトに敗北は許しません!」


 俺だって敗北の味を噛みしめたばかりで、立ち直るのに時間かかったんだぜ?

 それをなぜ急に現れた姉を名乗る精神異常者に掘り返されなきゃいけない。


「さっきの魔術も私のサポートがないとできなかったんだから」

「……ああ、あれか」


 融合型フラムリーゼのことだ。

 アレはどうやってできたのか未だ分からない。

 攻撃と防御が同時に成立する浪漫魔法だ。


「それも私の補助なしでやってもらうわね」

「望むところだ」

「あとアンジーに移植された火剣(ボルガ)も」


 ボルボル剣か。

 アレも体に宿してから、ドレイク戦の初戦で巨大な剣を喚び出して以来、何も活かせてない。

 剣術が使えるなら是非とも、ってとこだが。

 しかし、そもそもこの姉はやたらと上から来るが、何様のつもりなんだ。


「アンジーが主戦力だからね。本気でやってよ」

「それを言うならそっちもな」

「安心して。私、個人指導のプロだから」


 自称姉で自称個人指導のプロ。

 やはりこの女、サイコパス臭がする。

 目つきも怖いし。



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