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Episode48 竜殺しと演算魔術


 謎の果物を貪ってるうちにだいぶ経った。

 なかなか美味かった。

 しかし、ほのぼのな雰囲気になってるが、本来の目的も忘れたくない。


「よし。腹も膨れたことだし、行くぜ!」


 立ち上がると、ベルンはぎょっとして俺を見た。


「えーっと、どちらへ……?」

「どちらって決まってんだろ。あそこだよ」


 木々の隙間から見える火山を指差した。

 竜殺しセンサーが一番強く反応している場所。

 そこに親玉(タマ)がいるのは明白だ。


「……私、山登りは苦手なのですわ」

「お前が得意か苦手かなんてどうだっていい」

「でしたら、せめて理由をお聞かせくださいます?」

「あそこに竜の親玉がいる。そいつの首を討る!」

「……」


 ベルンは困り顔で俺を眺めていた。

 言葉がまるで通じない外国人に突然話しかけられて何を言っているか理解できねえ風な顔だ。


「どうした? 一緒に行動するんだろ?」

「あの……私、アンジーが竜種をどうなされるかに口出しはしないと言いました」

「そうだ。だったら黙って付いてこい」

「ですが、今はそれ以前の問題ですわっ」


 ベルンも椅子にしてた石から立ち上がった。

 目線にあわせて腰をかがめ、俺に指を突きつけた。


「まず私たち、遭難してるんですのよ」

「遭難…………なのか、これ?」

「ええ。船が沈没してここに流れついたのです。逸れてしまった他の方々を探すのが先でしょう?」


 そういえば忘れてた。

 ベルンは眉間を指で掻きながら溜め息をついた。

 呆れた、って雰囲気だ。


「それに遠足で私と共にきたクラスメイトも遭難してるかもしれませんわ」

「そいつらはうまく逃げられたんだろ?」

「全員かどうかは分かりませんわ。私と同じように不幸にも救命船に乗れなかった方もいるでしょう」


 なにぶんパニック状態でしたから、と嘆くベルン。

 そこまで気にしてたらキリがねえぞ。

 俺だって本当は『空飛ぶホウキ』を古傷の竜から取り戻したいが、そいつがどこにいるか分からねえから後回しにしてる。


「可能性の話なんて後だ後。どうせそいつらも今どこにいるか分からねえだろ」

「それはそうですが……」

「だったら突き進むしかねえ。な?」

「う~…………」


 ベルンは最終的に反論できなくなった。

 さっき言ってた家訓の通り、慎重派なんだろう。

 俺とは真逆なタイプだ。




 山へ向かう道中、思った通り、竜とよく遭遇した。

 しかも必ず単体だった。

 竜どもは互いを仲間だと思ってないって話だし、根っから一匹狼なんだろう。


 戦ってるうちに倒し方も染みついてきた。

 竜の攻撃は、爪・牙・尻尾、突進の4パターンだ。

 動きは俊敏だが、単調だから見極めやすい。


 爪は、例えるならジャブだ。

 格ゲーで言ったら、弱パンチ。威力がねえ。

 手が小さいからメインの攻撃手段じゃないようだ。


 牙を使った噛みつきは通常攻撃だ。

 喰うっていう生き物の根本手段だから一番頻度の多い攻撃だった。

 他の人間や動物は対抗手段がないかもだが、俺は『炎の巨人(フラムリーゼ)』で無傷で触れるから怖くなかった。

 しかもこの攻撃が一番、首周りに隙ができるから首締めに持ち込みやすい。


 尻尾を使ったテイルアタックは、強パンチだ。

 これが樹の幹を何本か薙ぎ倒す威力がある。

 だが、これが来るときは必ず体を地面に垂直に伸ばして足を引く習性がある。

 この動作がないと体が重くて倒れちまうんだろう。

 だから躱しやすいし、注意してれば大丈夫だ。


 突進だが、尻尾技とは逆に体を地面に水平にして地団駄を踏む。

 これも予備動作があって見極めやすい。


 ――結論、竜の攻撃は単純だった。



 だいたいのパターンだが、

 まず奴らは基本的に単騎で行動してる。

 そして遭遇すると噛みつき攻撃をしかけてくる。

 その首をフラムリーゼで掴んで、焼き切る。

 これでほとんど勝てた。


 必殺技で"火炎放射"があるはずなんだが、島に来て未だその技に遭遇してない。

 ダルケや、海で戦った竜はよく吹いていたのに。

 何か違うのか?


 あと、こいつらは基本的に自分以外を"弱い"と思ってるようで、一旦、陸に降りたら空を飛ばない。

 敵と距離を取る必要がないと考えてんだろう。

 飛行手段がない今の俺には好都合だった。



 そんなこんなで俺もだいぶ竜との戦いに慣れた。

 注意すべきは、必ず首を刎ねること。

 これさえ守れば勝てる。

 試しに何頭か殴りだけで斃せないか挑んだが、しばらく経つと復活した。

 まだまだ竜について調べたいことは山ほどあるが、今の俺はこれが限界だった。



「アンジー、大丈夫ですの?」

「なにがだ?」

「お体です。これ、生乾きですが使います?」


 ベルンは俺を案じてハンカチを出してきた。

 海で水没したから湿っている。


「ああ。さんきゅー」


 俺は遠慮なく受け取って顔をごしごし拭いた。

 なんか最近、魔術を使うと体が熱くなる。

 汗も掻くし、生乾きでも拭う物があれば助かった。


「俺を助けていいのか? 加担しないんだろ」

「それはそれ、私は竜殺しに加担しないだけで、アンジーとは元々お友達ですもの。お友達が憔悴していたら心配になりますわ」

「そんな疲れてねぇけど。――あ、洗って返すぞ」


 ベルンがハンカチを取り返そうとしてきたから俺はさっと手を引いた。


「洗いようがありませんでしょう?」

「川があったら絞るくらいはする」

「お気になさらなくて結構でしてよ」

「いや、いいって。また借りるかもしれねーし」

「いえいえ、お構いなくです」


 ベルンは必死にハンカチを取り返そうとする。

 そこまでムキになる理由が謎だ。

 俺もなんとなくハンカチを返したくなくなった。

 そうこうして揉みくちゃになっているうちに、足がもつれて2人仲良く転んだ。


 背丈(タッパ)で負けて俺が下に。

 ベルンが上に覆いかぶさる形になった。


「ああっ」

「うー……」

「……失礼しますわっ」


 隙をつかれてハンカチを取られた。

 ベルンはすぐ俺から離れたが、赤面した顔を隠すようにそっぽを向いた。


「べ、別にあなたが使ったハンカチをどうこうしようなんて考えてませんからっ」

「んなことハナから聞いてねーよ」

「そ、そうですか。またいつでもお貸ししますわ」

「ああ。ありがとな……」


 ツンケンした態度で親切を押し付けるベルン。

 きっと根っからお節介な性格なんだろう。


「ところで、アンジーの魔術ですけれどっ」


 ベルンは話題を変えてきた。

 顔をハタハタと手で仰いで風を送ってる。

 顔面の冷却処置のつもりか。


「俺の魔術って……これのことか?」


 慣れ親しんだ相棒を頭上に召喚した。

 喚び出すだけなら造作もねえ。


「それも含めて全体のことです。口出ししませんと言いましたが……観てるとウズウズしてきますわ」

「なんだ。言いたいことがあるなら言えよ」


 では遠慮なく、とベルンは咳払いをした。

 優等生ぶった態度だ。


「アンジーの魔力量がどれほどかは存じませんが、

 ――ええ、まぁきっと私が想像できないほど潤沢にあることは察しますが、それにしてもなんとも乱暴で強引で……美しくありません」

「はぁ?」


 魔術に美しさなんて求めてねえ。

 なにを頓珍漢なこと言ってんだ、この令嬢は。


「例えば、この腕ですわ」


 ベルンは『炎の巨人』の組んだ両腕を指差した。


「これとかもっと細めに調整できませんの?」

「細くしてどうする。漢は力こそパワーだぜ!」

「力こそパワー……? いえ、とにかくっ!

 魔術世界において質量と威力は比例しません。

 殿方の腕っぷしのような逞しい腕を魔力で練り上げたとしても、それが物理的に強いと錯覚するのは三流の発想ですわ」


 でも『炎の巨人(フラムリーゼ)』は6歳の頃から使ってるが、修行中にティミーにとやかく言われたことはない。

 魔術界トップにOKもらってりゃいいだろ。


「これでは魔力消耗率が高すぎますのよ」

「だったらなんだ。効率重視でフラムリーゼをひょろっちくしてカッコイイか? 答えは否だぜ。この方が強そうでカッケーだろ」

「カッコイイですって? ……はぁ」


 ベルンはもう何度目かの溜め息をついた。

 駄目だ。感性が合わねえ!

 音楽性の不一致! アンジー・ベルン、解散!


「アンジーの主張はわかりました。でも先ほどから何頭も竜種を倒していて不思議でしたの。いつも首を締めながら、握り潰すように切断しますわね?」

「目を瞑るって言って、ちゃっかり見てんじゃん」

「気になったものは凝視する性分でして……。

 そこで考えたのですが、首を刎ねるなら腕を"剣"に変えればいいのでは?」


 腕を剣に……変える?


「こんな風にです。

 補修(ビハンド)開始(スタート)論理演算(ブーリエン)"修繕(リパリエン)"

 ――赤の騎士(ロートリッター)!」


 俺の体内にベルンから白い魔力が注がれた。

 腹からすーっと何かが抜ける感覚に襲われ、同時に『炎の巨人』も形を変えた。

 最終的に『炎の巨人』は巨漢のフォルムはそのまま、両腕が片刃の剣になった。


「おおお!? なんだこれ!?」

「これも演算魔術の一つですわ。本来は魔力を減弱化させることに使う術ですが、変換魔術の形状を変えたり、放出魔術の進路を変えたり、工夫次第で面白い魔術補正になりますのよ」

「コ ン ビ 再 結 成 !」


 ベルンの両肩をがっちり掴む。


「は、はい……?」


 こんな方法で俺の悩みが解決するとは。

 これからの俺は"殴り"だけじゃねえ。

 ベルンがいれば、"斬り"もいけるってことだ。


「アンジーとベルン、略してアンベル。いける」

「コンビを組んだ覚えはありませんが……」

「真の竜殺しの道に大きく前進できるんだ!」


 ベルンは俺の気迫に動揺して、目が泳いでいる。

 満更でもない様子だ。

 顔も赤くなって照れてやがる。

 だが、ベルンは悩んだ末に俺の腕を振り払った。


「だ、ダメです。加担しないと決めましたのよっ」

「これを教えた時点でもう踏み間違えてるぜ」

「それはあなたがあまりに不器用だから口出ししてしまったまでですわ」

「えー。なんだよ、強情な奴だな」

「ど、退きなさいなっ。これは私の信念です!」


 ベルンは顔を真っ赤にして俺を振り払った。

 かなり葛藤したらしく息まで切らしている。

 俺が呆然としていると、ベルンは涙目でこっちを振り返った。なぜ涙目?


「……アンジーって鈍感ですのね」

「なんだそりゃ?」

「私にとって今のは堪えがたい誘惑でした」

「誘惑じゃなくて勧誘しただけなんだが」

「どちらも同じですわっ」


 結局、ベルンは竜殺しに加担しないの一点張り。

 演算魔術そのものも教えてくれなかった。

 何度か俺自身の力で『炎の巨人(フラムリーゼ)』の腕を剣にした状態で召喚できないか試したが、そもそも変え方がわからず仕舞いだ。



 演算魔術のサポートは魅力的だ。

 ベルンとは相性悪いと思ってたが、とりわけ魔術においては相性抜群らしい。




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