表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/77

Prologue ファイアードレイク

新章スタートです


 これはきっとタチの悪い夢かなにかだ。


 竜道(りゅうどう)レイクは目覚めたとき、眼前の異様な光景に愕然としていた。

 意味がわからない……。

 ぎゃあぎゃあというカラスに似た叫び声。

 目が見えるようになったときには、ここが地獄か悪夢のどっちかだと思った。


 視界に広がるのは、無数の卵の殻。

 翼の生えたトカゲが大量に這いずっていた。

 竜道は自分がなぜこんな悪夢の中にいるのか理解できず、少し前までの記憶を手繰ってみた。



 ――オレ、そういや死んだのか……?


 思い出した感情は怒り。

 そうだ。確か自分はケンカをしていた。

 がっこう……? ああ、学校だ。

 学校で気に入らない奴がいた。

 そいつの名前は……。



「サ……ガ…………ガ……ア……ジ……」


 酷い声だった。掠れたアヒルの声みたいだ。

 佐我アンジ。別名『竜殺しのサガ』。

 女みたいな見てくれのクセに、気取った顔していた生意気な一年坊だった。


 竜道はとにかくアンジが気に入らなかった。

 それは一目見た瞬間からそうだ。

 不良グループを束ねていた竜道は、高校に入学したてで右も左もわからないガキどもを教育してやるのが新学期の楽しみだった。


 そこで目に付いたのが佐我アンジだ。

 どんな性根で竜道の高校(シマ)に入学したかは知らない。だが、シマの掟は掟。生意気な態度を取ってるからには"教育"が必要だ。



 ――しかし、竜道は負けた。


 ナメてかかったのが悪かった。

 アンジの喧嘩スタイルは見た目とは裏腹にファンキーで、殴る蹴るだけじゃなくて道端の石から木の枝、蜂の巣、はてには電柱に貼られた高額バイト広告まで使って、あの手この手でこっちの攻撃を躱してきた。

 佐我アンジにはルールがない。

 普通の人間なら持ってる常識感覚がない。

 根っこからブッ飛んでいるのだ。


 その感覚を竜道レイクは妬んでいた。



 竜道は、地元企業の社長御曹司だった。

 家ではしつけが厳しく、常にルールを押し付けられて幼少期を過ごした。

 その結果、町では非行に走った。

 不良になって万引きや恐喝を繰り返した。

 その瞬間が一番"生きてる"実感がしたのだ。



 その実感を奪い去ったのがアンジだった。

 アレと喧嘩していると、いかに自分がルールの中に押し込められた、ちっぽけな存在なんだと思い知らされる。

 タイマンを張ればまんまと負ける。

 徒党組んでボコろうとすれば自信を失う。

 そんな試行錯誤の中、アンジが唯一、"(ルール)"となる存在を見つけた。


 それが有銘ミラだ。

 自由奔放な佐我アンジもルールを押し付けられれば、粋がった真似はできまい。

 有銘ミラはアンジの幼馴染のようで、帰宅のところを尾行して拉致に成功した。

 これで喧嘩も面白くなるだろう。


 それが失策だった。

 喧嘩中、激昂したアンジは滅茶苦茶だった。

 そのメチャクチャな戦い方のせいで、工事現場の鉄柵上に積まれたパイプが大量に落下した。

 佐我アンジは死に、それを庇うように身を投げ出した有銘ミラも死に、そして最後に竜道レイクも巻き込まれて死んだ。




 気づけば、こんな地獄のような光景。

 翼の生えた幼いトカゲの群れは這いずりながら餌を探していた。すべてヒナだ。

 どこかの洞窟なのか天井は塞がれていた。

 天井からは壁を伝ってマグマが流れてくる。

 その明かりでかろうじて視界が確保できた。


 やがてその1匹が同じヒナに噛みついた。

 まるで貪るように噛みついている。

 噛みつかれたヒナは悲鳴を上げ、血反吐はきちらして死んだ。

 その死体を他の無数のトカゲが食べ始めた。


「…………」


 竜道は絶句した。

 トカゲはよく見るとゾンビのように見えた。

 仲間であるヒナを、同じヒナ同士が貪り食う。

 えぐい光景だった。


 竜道が逃げようとすると違和感を覚えた。

 四つん這いにならないと移動できなかった。

 自分の手足を見ると、トカゲの雛と同じような爬虫類のそれになっていた。


 竜道はそこで初めて自分がトカゲゾンビとして生まれたのだと気づいた。



 気づいたはいいが、トカゲは襲ってくる。

 竜道は覚悟を決めた。

 死んだばかりで吐き気がしそうな中、目覚めたら今度はトカゲゾンビに食い殺されそうになるとは本当に悪夢だ。

 そんな冗談みたいな話で2度も死にたくない。

 襲い掛かってくるトカゲゾンビの雛の動きを見切り、回避した後、それがさっきしたのと同じように背中から噛みついた。


 牙が剥き出し、その雛の皮膚を貫通した。

 口の中に血肉がじゅわっと広がった。

 それを竜道は"美味い"と感じた。

 まるで力が漲ってくるような感覚があった。


 2,3頭食い殺すと、めきめき筋肉が発達した。

 爪が伸び、皮膚がより硬くなった。

 背中の翼も大きくなった。

 そうすると普通のトカゲゾンビ相手は楽勝で勝てるようになった。


 しかし時間が経つにつれ、同じように成長したトカゲが対戦相手となった。

 どうやらこれはトカゲ同士のバトルロイヤル。

 デスマッチをさせられているらしい。

 それに気づいた竜道は、率先して弱いトカゲを食った。

 やがて生き残ったトカゲゾンビが数頭しかいなくなったとき、そのトカゲの姿を見て竜道は気づいた。



 ――竜だ。こいつら、竜だったんだ。


 トカゲだと思っていた雛は竜だった。

 我が身を振り返ると、鋭利な爪、大きな翼、巨躯へと成長を遂げた図体、すべて漫画で描かれる竜の姿だった。


「ぐあう……ぐぉああ……」


 口を開いても変な発音でしか声がでなかった。

 それは対峙する大柄の竜も同じだった。

 最後は1対1のデスマッチ。

 竜の殺し合い。ここにいるのは皆『竜殺し』だ。

 他の竜は、竜道が驚いているうちに目の前の竜にやられたらしい。


 真剣勝負だった。

 生きるか死ぬか。食うか食われるか。

 弱肉強食の世界だ。

 竜道はそれを"楽しい"と心のどこかで感じた。

 竜の姿に変わり、人間ではなくなり、言葉もまともに喋れなかったが、そんなことどうでもよくなるくらい、この闘争心が"生きてる"実感を与えてくれた。


 かったるい社会のルールは此処にはない。

 家族のしがらみも礼儀作法のしつけもない。

 在るのは力のぶつけ合い。鎬を削る戦い。


 気分は最高潮だ。

 そうなった竜道はもはや敵なし。

 向かい来る大柄の竜に、こちらから間合いに踏み込んで腕を振り上げた。

 剥き出しの爪で喉を突き破る。

 尻尾を振って体を倒し、横から首根っこを噛みついて食いちぎってやった。


 大柄の竜は絶叫をあげて死んだ。

 喉から盛大に血しぶきが舞い、体を染める。

 勝った。

 竜道は前世でそうであったように、そのシマの頂点に上り詰めた。


「グオオオオオ!」


 雄叫びを上げる。

 同胞の屍の山、それを踏んで頂点を誇る。

 翼を大きく広げて勝利をアピールした。

 今なら空も飛べそうな気がした。



「――世代交代は斯くあるべきだ。すべてを生かし、同族を守るなどとは世の摂理に反した弱者らしいニンゲンの戯言よな」


 突然、誰かの声が洞窟に響いた。

 頭上を見上げると、壁に空いた大きなくぼみから見下ろす竜に気づいた。

 竜道にはその竜が老いぼれに見えた。

 感覚で、老いていると分かった。


「竜殺しの娘。アンジーか。覚えておこう」


 竜道ははっとなった。

 今、そこの老いぼれ竜が名前を読み上げた。

 それが前世で妬んでいた男の名に似ていた。


「ア……ン……ジ……。アン……ジ……」


 本能的に、それが同一人物に思えた。

 佐我アンジ。あれだけ妬んだ男は、ついぞ決着がつかずに死に別れた。

 そんなことは許されない。

 もし佐我アンジも何処かにいるのなら――。


「ア……ンジ……サガ……アンジ……」


 声が鮮明になっていく。

 竜も言葉を発せられるようだ。

 佐我アンジがこの殺伐とした世界の何処かにいるのなら、竜として生き返った自分が報復にいってやる。必ず。前世の因縁を晴らすのだ。


「ほう。今回の若頭候補は威勢がよい」


 老いぼれ竜は値踏みするように見てくる。


「ドレイク。古代竜の名に因んでそう呼ぼう。

 かつて竜が星の覇者として君臨していた古の時代を取り戻す。その象徴的存在がお前だ」


 ドレイク……? 竜道は老いぼれを睨んだ。

 偶然にも竜道レイクの前世の名と似ていた。

 赤竜の若頭『ドレイク』誕生の瞬間だ。

 そして此処、ダイナ島にアチカ魔法学院の魔術師、ならびに"竜殺しのサガ"が訪れるのは数年後のことだった――。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ