アイナとアス、そしてシロウとユーリ
2086-07-11 ヴァリアブルシップ 食堂
「夜中によく飲んでるから、今更そう話すこともないか」
そう言って、アイナはアスの向かいに座った。
「そうですね」
「まぁ、また飲みながら話をすればいいし、これで終わるか」
アスにしてみれば、少しアルコールの入ったことによっていつもよりも喋ってくれるアイナの方がよかった。
「それとも、何か聞きたいことでもあるか?」
アスは、すぐにないですとも言えず、とりあえず考えてみた。ああ、そう言えば・・・。
「軍の時、隊長との飛行訓練でエンジンが止まったことがありましたけど、あの時どうして隊長は自分と操縦をかわらなかったのですか?」
アスは、経験もない新人の自分に緊急時の操縦を任せたことがずっと不思議でならなかった。運良く無事に降りられたものの、アイナ自ら操縦した方が助かる確率は遥かに高かったはずだ。
「そんなこともあったなぁ。あの時、わたしたちが乗っていたのは複座型の訓練機ではなかったからな。だから、わたしの前には火器管制用のパネルしかなかった。まさか、コクピットを跨いで交代するわけにもいかないだろ」
アイナは笑った。
ああ、そういうことだったのか・・・。
アスは、アイナの理解できない行動の中に漠然と何かを期待していた自分を笑うしかなかった。
「何がおかしい?」
顔に出たアスの笑いに気付いたアイナが不思議そうな顔を向けた。
「いや、なんでもないです。そんなことでも覚えていてくださって、ありがとうございます」
「そんなことじゃないさ。あの時は怖くて足が震えていた」
アイナは笑った。
「隊長が、ですか?」
「わたしはそんなに強くない」
アスは急に笑いを止めたアイナに気付いた。
「では、もう終わりにしましょう。続きは深夜にでもまた」
「そうだな」
アイナは顔を上げそして続けた。
「しかし、チャージ残量を考えたら贅沢はできない。残っているアルコールがなくなったら深夜の晩酌も終わりだ」
帰る日が迫っていた。しかしそれはここでの生活の終了を意味した。
アスは、帰ることが出来る嬉しさと同時に大きな寂しさも感じていた。
2086-07-11 ヴァリアブルシップ メインルーム
「どうだった?」
メインルームで待っていたユーリに近づいて、シロウが開口一番に聞いてきた。
「アスさんは間違いないです。でも、隊長は、やっぱり鈍感ですね」
ユーリが確信を持って、そして次に呆れるように言った。
「アスはアスなりに、隊長に変な負担をかけたくないんだろうな。でも、まぁ、もっと積極的になってもいいと思う」
「でも、アスさんが積極的に出たとしても、隊長は果たしてそれを受け入れてくれるかどうか・・・」
「何かあるのか?」
「あ、いえ、特にないですけど・・・。まぁ、馬鹿がつくほど鈍感なので」
ユーリはアイナから聞いたことは、いくらシロウでも言ってはいけないと話を逸らしさらに続けた。
「このままじゃ、帰ったら、はいおしまい・・・、ってなりそうです」
「元の世界に戻ったら、隊長にプロポーズしろってアスに言ってみるか。戻ればそれなりに有名になる。のんびりしていたらすぐに誰かに取られちゃうぞ、なんて脅しを加えて」
「それくらいしかないのかな。それまでにはそれなりのお膳立てで盛り上げましょう」
「そうだ。俺たちだけがしあわせにってわけにもいかないし」
言い終わると、シロウはユーリに優しい目を向けた。
「戻ったら、結婚しよう」
シロウの言葉にユーリは嬉しそうに微笑むと、急に悪戯っぽい表情になった。
「戻れなかったら?」
「戻れなくても結婚しよう」
シロウはすぐに返した。
「うん」
シロウと戻りたい・・・。
ユーリは優しい笑顔を向けるシロウを見つめた。すると、ふと聞いてみたいことが浮かんだ。
「ねぇ、もしもあたしに子供が出来なかったらどうする?」
「え? なんで? そんなこと関係あるのか? 子供と結婚するわけじゃない」
「だよね」
キョトンとするシロウに、ユーリが笑いながら言った。




