第六十九話 祭りの賑わい 2
「へい、特別製パスタお待ち」
「掛け声がラーメン屋」
呆れの混じった眼差しで見上げながら、陸はパスタを口に運び始める。
二人前だけど食べ切れるだろうかなんて無駄な心配はしない。
どうせ食べきってしまうだろうから。
「海は? 一緒に来なかったの?」
「アイツ見つかんないんだよ。店出してるわけでもなさそうだし、パンフレットにも載ってない」
「何してるんだろうねぇ。リオちゃん先輩が一緒だから、まさか出し物やらないって選択はしないと思うけど」
首を傾げる陸のほっぺは、リスのように膨らんでいる。
お皿は空っぽ。食べるの早すぎ。
陸の大食い早食い技術に驚いている間に、あっという間にプリンも空にした陸。
彼は食後のデザートと言わんばかりに、クリームソーダのアイスクリームをつついている。
食後のデザートは、さっきほぼ一口で丸のみにしたプリンの方だと私は思うの。
「ごちそうさま」
緑色のメロンソーダ。白色のバニラアイスクリーム。黄金比とも言える色合いのクリームソーダも、これまた綺麗に飲み干して、陸は手を合わせる。
「はい、お粗末様」
お皿を片付けている私の横に、黒澤先輩が立つ。
私よりも身長が高いとはいえ、陸と比べると低い黒澤先輩。陸と比べると大体の人類はちっちゃい。
先輩は、呆れを顔に張り付けて、私が手に持つ空になった皿を見た。
「……よく食うな」
きっと、それしか言葉を選べなかったのだと思う。
多分皮肉。
陸はそれを、素直に誉め言葉として受け取ったのか、頭を掻いて照れ笑い。
「よく言われます」
「呆れてるんだが?」
「呆れてたんですか?」
私を見下ろす黒澤先輩の視線と目が合う。
どうにかしろって言われているみたい。
無理です。
肩を竦めて皿をバックヤードに。
待ち構えていた伊賀くんが、それを受け取り調理室の流し台へ運んでいく。
入れ替わりに調理室から戻ってきたばかりの小鳥遊くんが、陸を一目見て、ゲッ。と顔をしかめた。
「陽キャだぁ……」
コソコソ影に隠れ、できるだけ視界に入らないように努力をしている小鳥遊くんが、「空氏の知り合いッスか?」と聞いてきた。
「わたしのお兄ちゃん」
「へー。そうなんスね……。お兄ちゃん?!」
納得したように見せかけた顔の後。お約束のような驚き方を披露してくれた小鳥遊くんへ、拍手。
「そー。見えない?」
「言われてみれば……。似ている気も?」
「三つ子だからね、私たち」
「三つ子ぉ?!」
アニメでしか見たことない。なんて呟く小鳥遊くん。
彼にとって三つ子とは、今まで出会ったことがないほど珍しい存在なのだろう。
「後の一人は天嶺海。三人揃ってこの学校に入学したんだぁ」
「な、仲がいいんッスね」
次々と、彼にとって理解が追い付かない話が出てきているからか、小鳥遊くんは目を回しながらも、話を理解しようと頭をフル回転させているようだった。
「仲がいいって言うか……」
多分、戦友。
そう口にする前に、陸の大きな影から小さな気配が顔を覗かせる。
「……陸。その子、だれ?」
「ん? その子……?」
視線を下にする陸は、座る椅子の脚の間から顔を覗かせる、小さな女の子と目が合った。
「うわっ?! だれ?! いつの間に?!」
「気付いてなかったんかい」
思わず突っ込む私の目の前。
きょとんと見上げていた女の子が、大声に驚いたのかびっくり硬直。
固まったその顔に、見る見るうちに大きな涙の膜が張る。
「あ、あ、あ」
「落ち着け陸。こういうときはゆっくりした動きで刺激しないように……!」
「ふぇ」
「!!」
今にも泣きだしそうな声を出す女の子。
その一声で、私たちは面白いくらいに硬直する。
「ちょっ、陸、なんかこう、高い高いとかしてあげて!」
「無理無理無理! 俺が掴んだら潰しそう、絶対潰す!」
「このゴリラ力!」
「ぅぇ……」
「!!!」
女の子をこれ以上驚かせないように、小声で喧嘩のようにやり合っていても、女の子の一声で、やはり面白いくらいに固まってしまう。
私はしゃがみ、女の子と目線を合わせる。
威圧感を与えないよう、いつもよりも柔らかめの笑顔を意識して、女の子に話しかける。
「ごめんねっ! このお兄ちゃん、声デカすぎてびっくりしたよね」
「はっ?! ちょい待て、俺のせい?!」
「陸、ステイ」
再び大声を上げかけるその動作。
押し留めるようにギッと睨み見上げれば、しゅんと黙る我が兄。
女の子は大きな目で見上げて、ほとほと大粒の涙を流し始める。
「ママぁ……」
ママ、どこ。ママ、どこ。
繰り返し繰り返し、目を擦りながら母を呼ぶこの子は迷子。きっと、迷子。
「……瑪瑙先輩」
困った顔で、懇願するような目で、私は瑪瑙先輩を見上げる。
彼女は、「仕方ないなぁ」呟いた。
「しばらくはウチらだけで大丈夫そうだし、行っといで」
「三時くらいまでには戻ってこい。多分そこからまた混む」
瑪瑙先輩、黒澤先輩の先輩コンビからの後押し。
私は女の子に向き直る。
「安心して! あなたのママは、お姉ちゃんが探してあげる!」
「おねえちゃんが……?」
「うん! そうだよ!」
不安そうに見上げられたその目に、光が灯る。
「あなたの名前を聞いてもいい?」
女の子に問いかける。
彼女は目の端に溜まった水を振り払い、身を乗り出して元気に叫ぶ。
「えみり!」
名前を聞いて、私はにっこり笑い返す。
「えみりちゃんね。私は空。よろしくね」
空おねえちゃん。
繰り返されるその呼び名。なんだかとってもくすぐったい。
「がんばれよ」
すっごい他人事みたいな顔して手を振ってくる陸の首根っこをむんずと掴む。
「お?」
「陸も探すんだよ」
「えぇ?!」
何を驚くところがあるのか。
私は立ち上がった陸を見上げる。
「その身長。活かさないともったいない」
「俺は広告看板か何かかよ」
俺の自由時間……。なんて肩を落とす陸。
ドンマイ。
巻き込んだ張本人はこっそり呟いた。




