第2戦 化けショベルカー
昼休み、お弁当の卵焼きを箸で摘まんだまま、私はフリーズしていた。理由は単純。
ここ10日休み無しで毎晩、妖怪達とデスマッチしてるからっ!
同じエリア担当の妖怪ハンターが1人が麻疹でダウン。1人は親とケンカして家出して失踪中。
結果、ワンオペですわ。麻疹はしょうがないけど、家出て。
薬湯では補え程、私の疲労は限界を突破し、遂に、箸から、卵焼きがポロリと落ちたんだ。
「あ」
「セーフ!」
一緒に食べてた同級生の吉田貴子が自分のお弁当の蓋で卵焼きをキャッチしてくれた。そして、
「あむ」
自分で食べちゃったよ。
「食べるんかい」
「代わりに我が家秘伝の冷凍食品唐揚げを1個あげるよ。大豆の家の料理って、ほんと和食屋さんみたいだよ」
「弁当が重箱だもんな、御節か?」
唐揚げ1個くれる貴子と、何もくれないけど、サツマイモの甘露煮を1つ持ってく同じく同級生で一緒にお昼を食べてる東屋あずみ。
「違うけど・・大体、家政婦さんが作ってくれてるんだ」
厳密には家政婦に化けてるお爺ちゃんの式神だけど。
「来たっ、家政婦!」
「公立校にブルジョアJK現る!」
「別に、そんなんじゃないけど・・」
面倒臭いなぁ、もう!
私はこっから強引に街のショッピングモールの話題に切り替えた。
ショッピングモールはキャンペーンや店の入れ替わりが激しく、映画館がある他、高校や中学時代の同級生や先生の目撃談ネタが常にあるから便利だ。
お母さん世代の時はTVネタて話題を反らすのが定番だったらしいけど、通じなくなったから、1周回って『最近の街の様子』の方が通じる。
「お婆ちゃんの時代に戻ったみたいね」とか、お母さんに言われちゃうけど。
とにかく、ショッピングモール万能説っ! 何て、勢い込んでいると、
「あー、この箸箱限界だ。気に入ってたんだけどなぁ」
あずみが端が掛けて、上手くしまらなくなった、言わないけどちょっと子供っぽい箸箱を見て残念そうな顔をするあずみ。
家の式神の中にはこういうの直せるヤツもいるけど、日常会話で「それくらいの損耗は私の妖怪の妖力で直せるよ?」とか言えないので、どうしようもない。
「今度、3人でショッピングモール行く?」
「そだな」
「私、水着買おっかな?」
「貴子唐突?!」
「もう5月だよ?」
水着ってそんな早く準備する物なの??
仕事現場は解体途中のまま工事が止まって放置されてる、廃ビル敷地内。
私はサポーターの人の黒塗りの車からもう呼び出してるオカブと出た。
「人払いと囲いの術は既に掛けたが、街中だ。それにビル自体が崩れればお前の技量で厳しい。相手は屋外にいる。外で仕止めろ!」
サポーターから猟犬扱いだよ。
「簡単に言うよねっ。行くよ、オカブ!」
「うん!」
既に退魔服に着替えてる。守りは固いっ。私は相手の妖気頼りにオカブを連れて駆け出した。
ギリギギギッッ!!!!
傷んだ機械が動く音! 廃材と粗大ゴミと、素行悪い系の若者が荒らした跡まみれの廃ビルの敷地に、そいつは居た!
象のようなシルエット、妖怪化して脈打つ肉も纏っている! しかし荒ぶる油の動力っ! 鋼鉄の身体!!
そう、ショベルカーの怪異、化けショベルカーだ!!
元々所有者の判然としない違法放置された相当古いショベルカーだったけど、付喪神になり掛けていて、それに浮遊霊が段々集まって完全に妖怪化!
マークはしていたけど明確な切っ掛けが無かったから退魔協会も虚を突かれた形だった。
「お、おおっ、俺は!」
「喋るんだ。オカブ、硬そうだから溶ける息の準備して!」
「わかったよ、う~っっ」
膨らんで顔色を変えるオカブ。
「悪いけど、あんたのこの世での役割は終わってるから!」
勾玉付き数珠から変化させた威吹丸に風を溜める。
「まだっっ、働けるんだぁああーーーっっっ!!!」
アームでバケットを振り回して周囲の廃材も地面をブチ壊し、抉りまくる! 妖怪化してるから結構、関節が自在で伸びるっ。本体が脚が生えてドタドタ動くし、厄介!!
ビルを壊されたら敵わないよ。私は立ち位置で誘導するのに慌てた。
軽く風をあちこち撃ってみたけど、硬い硬いっ。外部に目立った弱点はなかった。
暴れる動機は罪無いけど、既に廃ビルにたむろしていた不良な人達4人を殺害しちゃってるからね・・
「オカブ!」
「ぷぅーーーっっ!!!」
溶ける息を化けショベルカーに吹き付けるオカブ。
強酸のガスだ! すぐに消えてしまうけど、化けショベルカーの装甲を弱らせる効果はあったっ。
「威吹丸っ!」
私は風を圧縮して、霊力を込め、強烈な真空の刃を化けショベルカーに放った。
ザンっ!! 両断される化けショベルカー。
「お、おお、まだ働かせて、くれ・・」
妖気が抜けてゆき、ただの左右に別れた錆びた機械の塊になっていった。
「ちゃんと協会で供養するから」
「もしかしたら、君もいつか精霊になれちゃうかも?」
物言わなくなった、ショベルカーはただ軋んで、さらに細かく砕けて油の染みを地面に拡げていった。
・・数日後の昼休み、またうとうとしながら貴子とあずみと昼御飯を食べていたんだけど、
「あれ? 箸箱」
あずみがこの間から見なかった例の箸箱を持ってきているのに気付いた。縁の部分だけ新しくなってる!
「凄いだろ? ふふ、こういうプラスチック製品でも直してくれる工房があったんだ。縁は全部交換になっちゃったけどさ」
「そっかぁ、あんたはまだ働けるんだね」
「おう、まぁな・・」
「大豆、いいこと言うね」
「へへへ」
そうだよね。供養とか精霊になれる! とかじゃなくて、最後までちゃんと使ってほしかったんだよね。
眠気も飛んだ私は、卵焼きを口に入れた。甘さがほろ苦い気がしたよ。