魔王城に招待
日本海沖に浮かぶ漆黒の城――それは今や、世界最大級の“未知との接触拠点”となっていた。
佐倉美月が初めて魔王城に足を踏み入れた日、空は一面の曇天だった。海上自衛隊の船で沖まで運ばれ、そこからは一人、魔力で敷かれた“見えない道”を歩いた。海面の上を歩くという非現実的な体験にも、彼女は眉ひとつ動かさなかった。
「ようこそ、我が居城へ」
門を開いたのはヴァルザグレス本人だった。魔王の城とは思えない、穏やかな迎え。
「驚いたわ。こんな巨大な建造物が、何の支えもなく浮かんでるなんて。しかも、魔力で完全に安定している…物理法則が泣いてるわね」
「ここは“理”から外れたもの。そなたらの世界の法に従う必要はない。だが、学ぶ必要はある」
広大な廊下、宙に浮かぶ光の灯火、無人で動く家具たち。だが何より佐倉を驚かせたのは、その一室だった。
書斎。数千冊の本が並ぶ空間。
「すべて、異世界の知識かしら?」
「違う。昨日そなたから受け取った通信端末と、ネットという仕組みを通して“吸収”した知識だ。この世界の病、貧困、環境破壊、政治不信、精神疾患……どれも、放置されてはならぬ」
「……そんな短時間で、どこまで読んだの?」
「目を通しただけだ。だが、我が力があれば、この世界の諸問題の根を断つことができると確信している」
佐倉は少し息を呑んだ。確かにこの男は、本気で世界平和を目指している。しかもそれは、支配や征服を望むものではない。
「君に一つ聞きたい、美月。――人間は、真に平和を望んでいるのか?」
「それは……難しい質問ね。多くの人は、平和を願ってる。でも現実には、利害や感情や無関心が邪魔をする」
「ならば、その障害ごと壊せばいい」
「……それは“破壊”よ」
「違う。障害は、我が力で優しく“無力化”する。誰も傷つけず、誰も排除せず、それでいて機能する世界。――我はこの地でそれを目指す」
その後、佐倉は魔王に現代の社会問題を一つずつ伝え始めた。
労働問題。ブラック企業。少子化。自殺率の高さ。情報格差。気候変動。
ヴァルザグレスはそれらを一つずつ理解し、時には魔法を使い、時には論理で分析し、あるいは新しい“制度”の案すら提示し始めた。
「“行政システムに魔力分散装置を組み込む”ことで、役所の手続きを魔法で自動化……?」
それでいて機能する世界。――我はこの地でそれを目指す」
その後、佐倉は魔王に現代の社会問題を一つずつ伝え始めた。
労働問題。ブラック企業。少子化。自殺率の高さ。情報格差。気候変動。
ヴァルザグレスはそれらを一つずつ理解し、時には魔法を使い、時には論理で分析し、あるいは新しい“制度”の案すら提示し始めた。
「“行政システムに魔力分散装置を組み込む”ことで、役所の手続きを魔法で自動化……?」
「そなたらは“手間”に時間を奪われすぎている。人生とは、もっと違うところに使われるべきだ」
「確かに合理的ではあるけど、法制度が……」
「ならば、法を変えればいい。そなたが、その窓口になってくれるなら」
佐倉美月は気づいていた。
この魔王は、もはや“魔”の存在ではない。
変革を願う“希望”の象徴となりつつある。
だが同時に、その力の大きさが、やがて人々の恐れを呼ぶことも予感していた。
「……あなたの夢が実現するなら、日本だけじゃない。世界そのものが変わるわ」
「では問おう、佐倉美月。世界は変わる用意があるか?」
彼女は静かにうなずいた。
「少なくとも私は――その準備があると思うわ」
そして、日本海に浮かぶ魔王城は、世界中の視線を集める“改革の震源地”となっていく。
――つづく
まとまらない




