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ファーストコンタクト

日本海沖、五月の空はどこまでも澄みわたり、遠く漁船のエンジン音が微かに響いていた。だが、その穏やかな海に突如として「それ」は現れた。


高さ百メートルを超える黒曜石の塔群。鋭く尖った城壁。重厚な魔力の波動が空間を震わせ、日本の観測衛星が一瞬、その存在を“自然災害”と誤認した。


魔王城——異世界の魔王が勇者の次元斬によって異次元へと追いやられた果ての地。


「……ここが、新たな世界か」


漆黒のマントを翻し、ひとりの男が城の最上階のバルコニーに立つ。血のように赤い瞳。理知を湛えたその目は、遠く霞む本州の陸地を見つめていた。


彼の名はヴァルザグレス。平和を求めるも成し遂げることができないまま現代に転移した異世界の魔王である。


「力は元の世界と同じように使える。まずはこの世界について知ることからだな」



数時間後、日本政府はこの異常事態に緊急対策会議を開いていた。海上保安庁、内閣情報調査室、自衛隊、そして外務省。未確認巨大構造物が日本の排他的経済水域内に突如出現したことで、各国も緊張を高めていた。


しかし、問題はそれだけではない。


――人型の“何か”が、海の上を歩いて本州に接近している――


自衛隊のドローン映像に映っていたのは、長身の男。背に赤いマント、手には杖も剣も持たない。ただし、ドローンの通信は彼の周囲10メートルに入った途端、すべてシャットダウンされた。


「……無害とも、有害とも判断がつかない存在です。接触するにも、まずは交渉の窓口を……」


「じゃあ、誰が行くってんだ? 総理、これはもう外交じゃなくて…ファンタジーの領域ですよ!」


会議室が騒然とするなか、一人の女性が手を挙げた。


「私が行きます」


そう言ったのは、内閣官房に籍を置く通訳官、佐倉美月だった。


「異文化との初接触。これは“言葉”の戦いです。私の専門分野です」


その数日後、日本海沿岸の無人島で、ヴァルザグレスと佐倉美月の「最初の対話」が行われた。


魔王は彼女を見て微笑む。


「話せる者がいてよかった。交渉を望む。まずはこの世界の“仕組み”を教えてくれないか。私はこの世界で、平和というものを学びたい」


「……あなたは、何者ですか?」


「我は魔王。だが、かつての“王”ではない。今はただ、力を持て余した者にすぎぬ。平和を学び、必要ならばその実現に力を貸そう」


それは、人類史上初の“異世界魔王との平和条約交渉”の始まりだった。


――つづく

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