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12 激しい口付け。




「待ってくれ! シェリエル!」


 学園の廊下を走ってまで逃げる。

 すると、フィロザ様の従者が前方を遮った。後ろにはフィロザ様。

 私は移動魔法を使って、逃げる。その先は、図書室B。

 ああ、なんて馬鹿なのかしら。

 自分の愚かさを恥じた。

 勝手に怯えて泣いて逃げ出して、取り返しがつかない。

 なんでもないでは誤魔化せないだろう。

 もうっ……。

 頭を抱えていれば、フッと気配が感じた。

 サファイアのように輝く魔力が、後ろに現れる。

 振り返る前に、包まれた。


「シェリエル……!」


 フィロザ様だ。両腕で抱き締めれれた。


「どうしたんだ? 一人で泣いて……俺から逃げて……。どうしたんだい?」

「フィロザ、さ、ま」

「シェリエル?」


 私の顔を見たフィロザ様は、両手で包んだ。

 とても心配している表情に、胸が苦しくなった。

 また込み上がってきた涙が溢れて落ちてしまう。


「教えてくれ、シェリエル。俺が何かしてしまったのかい? 君をこんなにも悲しませてしまってすまない。頼むから、原因を教えてくれ……」


 痛々しそうに見つめてくるサファイアの瞳。


「ご、ごめんなさいっ、ただっ、私っ……」


 言葉に詰まるけれど、フィロザ様は待つ。


「フィロザ様がっ……ミリア様をえら、選ぶの、が、怖くて……っ」


 言ってしまった。

 フィロザ様は面食らった顔をする。


「俺が、フォーブス嬢を選ぶって……なんの話だい?」

「そ、そのっ……」


 私は恥ずかしい気持ちに襲われながらも、涙を流した。


「クラウスのように、私より、ミリア様を選ぶ、かもと思ってしまって……!」

「……。まさか、この前フォーブス嬢のことを褒めたからかい?」

「っ!」


 泣いている顔なんてこれ以上見られたくないのに、フィロザ様は手を離してくれない。顔を俯くことすら、許されなかった。

 私の反応が、肯定となる。

 フィロザ様は眉間にシワを寄せて、申し訳なさそうな表情をした。


「……すまない、シェリエル。君をこんなにも不安にさせてしまって……そんなつもりじゃなかったんだ。単に思ったことを口にしてしまっただけだが、そうだな……俺が悪い。本当にすまない。考えてみれば、君への配慮がなかった……本当にすまない」


 フィロザ様が謝罪をしてくれる。

 呆れられなくてよかった、なんて思いつつ涙を零し続ける。

 そんな私の顔をしっかりと上げて、フィロザ様は言った。


「でもね、シェリエル」


 いつもは宝石のような美しい光が宿る瞳が、ギラッとした気がする。


「他の人に心移りすることはありえない。どんなに君を想っているか、まだわかっていないんだね?」

「えっ?」

「俺の熱情を注いでもいい?」


 私の返答なんて、待たなかった。

 唇が塞がれる。深い口付けをされた。


「ん、ふぁっ」


 なんてはしたない声を漏らしてしまったけれど、フィロザ様は止まらなかった。

 何度も角度を変えながら、交わる深い口付け。

 それはもう、なんだか、私を食べているという行為に思えて、少し怖くも感じた。息を呑みたいところだけれど、その息さえも彼が呑み込んでしまっている。

 角の生えた魔族の王子様に、食べられているなんて……。

 それもギラギラした美しい野獣みたいで、胸がキュンとする。

 ねっとりと舌が絡みついてきて、思わず仰け反ったのに、それも許さないと言わんばかりに追い掛けてきた。唇は離れない。

 後ろにあった机に凭れるような形でいたけれど、やがてフィロザ様が私の身体を持ち上げて乗せた。

 机に乗ってフィロザ様と身体を密着させて、こんなにも熱烈な口付けをされている状況に余計熱が増していく。それに恥ずかしい。うっとりするほど、その深くも激しい口付けは気持ちがいい。


「んぅ、はぁ、はんっ」


 乱れた息も、呑まれた。

 ついに私は机に押し倒される。決して快適とは言えない背中。でも口付けにとろけている私はそんなことを気にする余裕はない。


「愛している、シェリエル」


 口付けの合間に告げられた言葉に、一つ、涙を落とす。

 気付けば、私はフィロザ様の背に腕を回して、精一杯口付けを返していた。

 時折フィロザ様のしなやかな髪に触れ、角に触れては、ぎゅっと締め付ける。

 このまま初めてをここで迎えてしまうのではないかと思っていれば、銀色の糸を引いて、舌が唇が離れた。お互い興奮故に、息が上がっている。


「君だけを愛している、シェリエル」


 情熱的に見つめてくるサファイアの瞳に、キュッと胸が締め付けられた。


「わかってくれたかい?」


 フィロザ様の熱情が込められた口付けで、すっかり不安が吹き飛ばされてしまい、私はほうけてしまう。

 そんな私の唇に吸い付いて、フィロザ様は頭を撫でてきた。


「俺は揺らいだりしない。君にこんなにも夢中なんだ。初めて会ってから、ずっと……君のことばかり考えている。もう不安にさせてしまうようなことは言わない、許してくれ」

「……」

「シェリエル?」


 私が黙っていると、フィロザ様は少しだけ不安げに見てくる。


「そ、その前に、起き上がってもいい……?」

「……」


 机に押し倒された形のままではいられない。

 フィロザ様は微笑むと、そっと私を抱え上げて立たせてくれた。


「私も勝手に落ち込んでごめんなさい……」

「シェリエルが謝ることなんて一つもない。俺が無神経だった。泣かせてすまない」


 そう面と向かって謝ると、私を抱き締めてくれる。

 私はまた泣きそうになって潤んだ。

 力一杯に抱き締め返す。


「私も愛しているわ、フィロザ様。もう、他の女性を褒めたりしないで」

「ああ、誓うよ。愛している、シェリエル」


 ちゅっと私の頭の上に口付けを一つすると、きつく抱き締めてくれた。

 他の女性を褒めないで、なんて。嫉妬深い恋人みたいなのに、嫌そうな反応はしない。

 とても優しい。そんな包容力に、心から安堵をした。

 もう一度言われた愛しているの言葉が、温かい。

 この人なら、大丈夫。

 私を、私だけを愛してくれる人。

 そう信じられた。



 

20190102

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