04 異変の話
その日、蘇芳が熱を出した。
「蘇芳、だいじょうぶか?」
「うん………だいじょうぶだよ、てっちゃん」
にへらと笑う蘇芳の顔とは対照的に双子の兄である藍鉄の顔は心配そうに歪んでいた。
それを見た父は、すぐさま森に熱冷ましの薬草を取りに行く。
「蘇芳ー」
「うー」
だんだんと悪くなる妹の様子。
藍鉄は、昏々と眠り続ける母を見続けてきたため、蘇芳もそうなってしまうのかもしれないと考えてしまう。
そんなことはないと否定してくれる父は薬草を取りに森へ行ってしまっているため、どうすることもできない。
「蘇芳ー」
「うー」
瞑られた目からボロボロとこぼれる涙と、顔を真っ赤にしてうなされ続ける妹の尋常ではない様子に焦る藍鉄。
「蘇芳、きこえる?」
額に置いていた布を変え、氷枕を新し物にした藍鉄は冷えた手を蘇芳の頬にぴたりと当て、話す。
「今から、おとうさまを呼んでくる。がんばってひとりでたえられる?」
「………ん」
ボロボロと涙をこぼしながら蘇芳は弱々しく頷き、藍鉄は早めにもどるからと言って部屋をでる。
「おとうさまごめんなさいッ」
決して許しなしで部屋から出てはいけないと言う言いつけを、藍鉄は初めて破ったのだ。
靴も履かずに家を飛び出した藍鉄は、森の方に駆けだすが、森の広さに迷い始めていた頃、父から教えられた式紙を操る術を思い出す。
ポケットから一枚の紙を取り出し、その紙を二つに折って鳥の形になるように切り取ると、その紙に血で鳥の文字を書き、手のひらに乗せる。
「とりさん、さがして」
ふわりと浮かんだその紙は少し羽ばたき、藍鉄の周囲を旋回する。
「おとうさまのとこに、つれてって!」
式紙は探すようにまた藍鉄の周りを何周か飛ぶと、何かを見つけたかのように一方へと飛んでいく。
藍鉄はそれを逃すまいと必死に走り出した。
目の裏に浮かぶのは苦しそうな妹の姿。
足の裏が切れようと、藍鉄は痛みを感じる余裕もなく自らが作り出した式紙を必死に追いかけた。
「おとうさま!」
「え? 藍鉄!? どうして家を………怪我をしてるじゃないか」
ところどころ引っ掻いて血だらけになっている息子が茂みから飛び出してきて、驚いた父だったが、それ以上に藍鉄の切羽詰まった様子に眉根を寄せた。
「蘇芳が、蘇芳が!」
「深呼吸して」
つっかえて先を話さない息子の様子に、地面に膝を立て目線を合わせ、肩に手を置いた父は、藍鉄に何度か深呼吸をさせ、落ち着いた頃を見計らって続きを促した。
「蘇芳のようすがへんなんだ! まっかになって、ぼろぼろなみだながして、ことばも言えなくなってる!!」
藍鉄の言葉足らずのその発言でも、彼はとうとうこの日が来てしまったのかと理解できてしまった。
「藍鉄、早く家へ戻るぞ」
彼はまだ幼い息子を抱き上げ、乗れる大きさの式紙を召喚すると、それに跨り家の方向へと駆けた。