03 双子の話
同じ村に住む者は、彼が有名な陰陽師であり、村の為にかなり気を配ってくれていたことも十分承知していた為、妻の中に封印されている妖狐を再度封印し妻を目覚めさせたいと願う彼の気持ちを受け入れ、異常でしかない彼女を村に置くことを容認した。
子供を取り上げる作業も、村の女性たちがやってくれた。
生まれたのは元気な男の子と女の子。
兄を藍鉄、妹を蘇芳と名づけ、仕事で飛び回らなければならない彼の代わりに村全体で可愛がった。
「そんな………」
幼子の魂が定着するのは、三歳。
それまでは、嘘だ嘘だと彼は自分に言い聞かせていたが、双子が三歳を迎えた時、もう嘘だと言い聞かせることはできなかった。
双子の魂に、妖狐の魂が絡みついているのを彼は見てしまったのだ。
「すぐに封印を………」
ちらりと妻を見やれば、妻はなぜ生きているのか不思議に思うほど健やかだ。まだうっすらと妖狐の魂が絡みついているのが見える。
もともと、それなりに強い霊力を持った巫女と先祖帰りと言われる稀代の陰陽師の子供だ。
その身に流れる霊力の強さは、まだまだ弱い幼子の魂でも弱った妖狐の魂を押さえ付けることができる程度には強い、と言うことに彼は安堵した。
「いいかい? この部屋の先は危険だから、絶対に出てはいけないよ?」
彼は幼いわが子に何度も言い聞かせ、村の者たちにも協力して貰い、極力家の中から出さないように生活していたが、娘はまだしも、息子には教えておくべきだと、暇な時間を見つけては陰陽の術を彼は藍鉄に教え込んだ。
もしも妖狐の力に飲み込まれそうになったとき、それに抗う術を彼は教えているつもりだった。
「こうして、こうすれば、ことりさんだ!」
藍鉄が術を覚えるのは早かった。
彼が家に戻るという目標の為に必死になった過程を無視するような速さで術を吸収して、さらに改良させてしまう才能に、彼はもう苦笑するしかなかった。
「てっちゃんすごい! すおうにもおしえて!!」
「いいよー! こうしてー」
まだ同調していないその魂を見て安堵して、出張ついでに何か対策はないかと他の陰陽師の家に頭を下げ本を見せてもらう生活を続ける生活はさらに二年続いた。
しかし明確な答えは見当たらず、いまだに眠り続ける妻と元気に成長する我が子を見て、彼は重くため息をつくのだ。
「いいかい? この術はねー」
そうしているうちに、双子の部屋はもはや遊び道具になっている呪具で埋め尽くされていた。
本来呪具は無造作に置かれたりしない。
それそのものに力を持たせる為に大気から霊力を吸い取りその力を温存するようになっているのだ。
いつ目覚めてもおかしくないと彼は思っていた為、なるべく双子の魂に絡みついた妖狐の妖力をはぎ取ろうと放置していたのだ。
その中しか知らない双子がそれを疑問に思うこともなく、むしろその空間に居続けたからこそ大して運動もできないのにかかる負荷のせいですくすくと成長できていた。
「もうすぐ二人とも小学校やね」
「あ、ええ。そうですね」
双子は五歳となり、来年には小学校で沢山お友達を作るんだと村の人たちから言われ、浮かれていた。
彼の心配しているようなことは起きないから、双子を隣村にある小学校に行かせても大丈夫なんじゃないかと村の人たちも説得したが、彼は頑として首を縦に振らなかった。
そして、すぐに彼の心配事は現実になるのだ。




