表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狐の嘘と君の真  作者: 華宵 朔灼 / よぴこ
番外編
2/59

02 封印の話

 結婚した彼は陰陽師として大成したが、後ろ盾がなかったため、業界では流者として扱われた。

 そしてある日、陰陽師として見過ごすことはできない最悪の敵、妖狐と対面する。


 「………ッ」


 妖狐は強く、彼ひとりで滅せられるような生半可なものではなかった。

 彼は同業者を頼ったが、同業者のほとんどは彼が流れと言われていることと、血は薄いとは言え同族の血を妻に受け入れた彼を蔑視する者も多く、彼に協力してくれるような者もいなかった。

 妖狐を滅する方法は三つ。

 妖狐よりも強い霊力でその存在ごと押しつぶすか、呪を込めた玉に入れて長い年月をかけて弱らせて再び滅するか、人間の中に封印して魂が同調したと同時に殺すか。

 優しい彼は、二つ目の方法を取るしかなかった。


 「私が手伝うわ。霊力だけなら、貸せるでしょ?」

 「しかしッ」

 「あなたを信じてる」


 妻は彼の手をとってにっこりと笑う。

 彼は妻の手に口をつけ、必ず守ると、心に誓う。

 そしてやってきたその日。

 滅することができない妖狐を特殊な玉に封じている彼は、さらに強力な呪を何重にもかけて清めた玉に移し替え封印する儀式を実行する。

 移し替えるだけ。

 失敗すれば、呪が自らを襲い、妖狐は妻を襲うことになるだろう。

 蒼白となり、震えてきた手を握ってくれたのは、やはり妻だった。


 「大丈夫」


 一緒に私が居るのだから大丈夫。

 その言葉は彼に響く。


 「オン キリキリ―――」


 移し替えの儀。

 封じられていた妖狐が玉の中から出てきて、別の玉にあと少しで移り終える、そう安心した瞬間。

 妖狐が目を覚ました。


 ―――人間風情が、我に敵うとでも?


 背筋を悪寒が這い上がり、彼は今更止められない祝詞をなるべく早く終えようと集中するが、それをあざ笑うかのように妖狐の口が歪む。


 ―――赤子が居るではないか


 妖狐の血のように赤い目が、開かれる。

 そして、ピキピキと、不快な音が彼の耳に届く。

 彼が渾身の力で封じた玉の両方とも、妖狐の力によって内側から壊されていたのだ。


 ―――………それも一興よの


 その玉が壊れた瞬間、祝詞が破られた反動で、彼は動くことができなかった。

 そして、妖狐によって見せられた光景に、彼は涙してたたずむしかできなかったことを生涯嘆き続ける。


 「こうなるかも知れないのは分かっていたわ」


 動けるようになって駆け寄った彼は、すで彼女が自らの血で体に封印の印を書いていたのを見て、そうするしかないと知って泣きそうになる。


 「最後になるけど、私はあなたを愛してる」

 「ああ、俺もだ」


 既に妖狐は妻の体の中で眠りについていた。

 人間の体に収まるのは一つの魂。妖狐の、それも強大な力を持った魂をその身に受け入れた彼女は、もともと触媒としてかなりの素質があったため、その魂に同化させずに居ることができた。

 しかしそれは、彼女を殺したが再び妖狐が世を跋扈することになってしまう。

 彼は妻をその手にかけることはないと言う大義名分を得たが、再び絶望するのに、そう時間はかからなかった。

 栄養も取らずに寝続けていた彼女の腹は膨らんでいき、流産するかと思った子供が二人、無事に生まれてきたのだから。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ