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狐の嘘と君の真  作者: 華宵 朔灼 / よぴこ
番外編
10/59

10 変化の話

 この小屋が、普通の家の子の黒星からしたら十分大きいこと。

 黒星が住んでいるのはこの山の麓のバス停から乗って最後のバス停あたりまで行かなければならない少し遠い大きな町に住んでいること。

 電気もガスもないのに、火も付くし服も乾かせることができる双子は魔法使い見たいだと、嬉々として話、子供らしくストンと寝付いた。


 「寝ちゃったね?」

 「寝ちゃったね!」


 まだ六歳で、二つ上の兄は双子と同い年だと、二人は笑って、くすくすと笑いながら川の字になって寝た。

 まるでお父様が返って来た時みたいと笑う二人だったが、その小さな幸せは一瞬で吹き飛んだ。


 「なんでっ」


 幻影のようにちらちらと揺れる耳と尻尾。

 もう三年も見ていなかったその姿に、蘇芳は変化していた。


 「ふふふ、だってお腹すいたんだもん」


 蘇芳の足元に転がるさっきまで一緒に笑いあっていた黒星の体からは魂が感じられず、息も止まった完全な死体になっていた。


 「蘇芳? お前は蘇芳だよな?」

 「何言ってるのてっちゃん、私は蘇芳だよ?」


 無邪気に小首を傾げる蘇芳の姿に、藍鉄は泣きそうになる。


 「何で黒星ちゃんを」

 「お腹が空いて空いて仕方なかったんだよ」

 「でも」

 「そうだ、てっちゃんも食べてみれば分かるって!」

 「え?」


 蘇芳は良いことを思いついたかのように立ち上がるが、そこにある魂は一つしかなかったのを思い出して眉根を寄せる。

 しかし、何かに思いついたかのように嬉々として紙で針を作り上げ、その針をまだ死体となったばかりの黒星の温かさを残す指先に突き刺す。


 「ほら、舐めてみて」

 「え?」

 「魂はないけど、さっきまで魂があった体の血肉は美味しいはずだよ?」


 垂れたらもったいないよ!

 有無を言わさないその雰囲気と、躊躇わずに両親を灰塵にしてしまった妖狐の時の蘇芳を思い出して、藍鉄は恐る恐るその指先に滲み出た血を飲んだ。


 「え………」

 「ね、美味しいでしょ」


 どんどん進めてくる蘇芳に藍鉄は顔を青白くさせながら何とか断る。


 「ほら、僕は人間の料理も食べるから、そう一杯要らないんだ」

 「むぅ。それじゃあ仕方ないね」


 紙が針の形態から元の状態へと戻り、黒星の体はぐったりとその足元に横たわった。

 なんてことをしてしまったんだと頭の中で反芻しながら、お腹いっぱいになったから先に寝ると言った蘇芳を寝かしつけ、寝たのを確認した後、藍鉄は式紙を使って黒星の死体を家族の元へ返すべく行動した。

 夜になっても明るいその街でも隠遁の術はその効果を最大限に発揮し、家の前で健やかに眠っているかのように見えるその黒星の死体の上に、あの山でしか咲かない花束を載せ、自らの霊力を完全に消した後、藍鉄はその場を去った。


 「ごめんね」


 つぶやいたその言葉を聞き取った者は誰もいない。

 翌朝発見された黒星の死体は、陰陽庁の人間がはっきりと妖狐の仕業と断定し、黒星の家族は街から呪われた家族と呼ばれ、追い出される羽目になった。


 「殺す。絶対妖狐を見つけ出して殺してやる」


 それは同時に、少年の殺意を燃え上がらせた。

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