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6 独裁の街

「で、僕を呼んだ理由は?」

「この街の現状をお話しておこうと思いました。できればあなたを戦闘要員として雇用したいと考えています」

「僕のこと知ってるの?」

「はい、英傑が一人、獣王ヨゼフ様。入管でお名前を伺ったときにもしやと思いました」

「んー……やめとく。だってあなたのこと気に食わないし」

「そうですか。やはり客観的に見て私は間違っていますか?」

「視点次第でどうとでも言えるかな」

 ヨフは「うー」と唸ると天井を見上げた。瞼が半分降りている。眠いのだ。

「例えばね。

 あなたは現状で独裁者だ。

民主主義で失敗したら責任はみんなのせいでしょ。まず議員のせいだし、議員を選出した住民のせいだ。それから投票にいかなかったその他大勢のせいだ。で、その議員さんの政策を支持した学者さんのせいだし、また反対意見をきちんと通せなかった学者さんのせいでもある。

独裁主義の場合は失敗したら全部あなたとその周りの人間のせいになる。でもあなたは有能に見えるから、一先ずは成功するんじゃないかな。

でもその成功がおもしろくない人間もいる。彼らはきっと生産効率を落とす。だって自分のせいじゃないもの。それこそさっきの人たちみたいに。あなたの命令だから多少失礼なことでも許される。って彼らは思ってたでしょ。

短期的に見るとあなたは間違ってないんじゃないかな。でも長期的に見た場合、あなたがうまくやったとしても後継者の問題がある。あなたには寿命があるから。一番うまいのはあなたが理想的な形を整えたあとにあなたの思想を継いだ人間が多くいる、議会制民主主義にすることだけど、まあ無理じゃないかな。

長期的にみたら民主主義にして失敗させる。あなたが最低限の予防線を張るように動く。そのあと再生するのが一番いいと僕は思うよ」

 捲し立てるように一気に言う。

 めんどくさかったからさっさと済まそうとしたのだろう。

「失敗させる……、ですか」

「うん。ていうか僕、結構適当なこと言ってるから、適当に聞き流してね」

「いいえ、わたくしにはなかった発想です。大変参考になります」

 唇に手を当てる。

思考に沈んでいくのが見て取れる。

 失敗した結果として抱えることになる貧困層と失業者のことを考えているのだろう。

 街の内情を知らないルピー達には、具体的な数字がわからない。もしかしたら再生させるだけの活力を失うのかもしれない。

「やはりわたくしにはできないです。現状を改善する形で彼らを幸せにしたい」

 ヨフは頷く。

反対派を強引に押さえつけて意見を押し通しているとはいえ、街と住民の利益のためだ。

ある意味で彼女は致命的に間違っていた。

しかし別のある意味で絶対的に正しかった。

「あのさ、僕、ねむたいんだけど。そろそろ帰っていい?」

「あ、長々とお引き止めして申し訳ありません。本当にありがとうございます」

 丁寧に腰を折って礼をする。ルピーにはなんとなく気に食わなかった。正しさというものはたぶんそういうものだ。正しすぎれば嫌われる。人間らしくないからだ。

 ルピーが鳥の姿に戻る。

 二人は部屋を出た。なんとなく二人とも無言だった。宿に戻って、ヨフがなるべく早く街を出ようと言った。ルピーが頷く。

「しかし工業ねえ。こんな辺境でいったいどこから鉄鋼を仕入れてるんだろうな」

「銃の街じゃないかな」

「あ?」

「他の街の要望って言ってたでしょ? たぶん、計画書から何から何まで銃の街が書いたんだと思うよ。ほら、この街の兵士さんが銃持ってたじゃないか。輸出先もたぶん銃の街だろう」

「あの街は自前で工場持ってるんじゃねーのか?」

「足りないんじゃないかな」

「……まじかよ」

 従来の兵士数でさえ、武勇に優れた剣の街を滅ぼせるだけの戦力があった。

 それがさらに他の街を取り込み、生産を拡大し、戦力を増やそうとしている。

「銃の街ってのはガチで王の街に喧嘩でも売る気らしいな」

「うん、それ以外であそこまでの戦力をかき集める理由はないと思う。ただ、この街は工業地として失敗しようとしている。あの町長さんから強力な妨害にあって。たぶん銃の街への依存を嫌って、銃を作る周辺技術でいろんなものを作ろうとしたんだけど、それを欲しがる人がいなかったんだね。質は悪くないみたいだから、値段が高すぎたんだろう」

「銃の街は投資を回収したいだろうな。けどこの街の軍隊は製造した自前の銃で武装していて、戦いになればお互いにかなりの数の被害が出る。リスクが高くて、銃の街側としても手がだし辛い。あのねーちゃんなかなかやるじゃねーか」

「独裁だけどね。それも軍事独裁だ」

「だからなんだよ? いまあの体勢を崩せば銃の街が喜んで攻め込んでくるぜ」

「そりゃそうだけどさ。なんだかなぁと思って」

「じゃあ失敗するまでほっとくべきなのか?」

「潰れたほうがいいのかもね」

 ヨフは大きくあくびをする。ベッドに入ってごろんと横になった。

「神様は無能だね」

「そりゃそうさ。奇跡とやらに頼らなけりゃ、自分の権威も示せないんだぜ」

 それから眠った。



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