11
その後馬車は何事もなくシーゲルの街へ到着した。
馬車から降りて御者へ礼を伝えると、眼前に広がるのは静まり返った街であり、他の降りた乗客も困惑を隠せずにいる。
「おかしいな、前寄った時はこの時間でももうちょい賑やかやったんやけど……」
ノンノがぼそりと呟けば、来たことのあるヒトが頷いて同意する。
どういう状況か気になるが、まずは今夜泊まる宿を探さねばならない事を彼女へ伝え、タイガから聞いていた宿へと向かう。
なんでも「あまりデカくはねぇし有名でもねぇが飯が旨い。シャワーもついてるし値段もそこそこだ」とのことで、中心部から少し離れた場所にあるがそこまで不便でもないらしい。
簡単に描いてもらっていた地図を頼りにしばらく歩き到着したその宿のある場所も、やはり雰囲気は暗かった。
中から明かりは漏れているので営業はしていると判断し扉を開けると、従業員と目が合ったので声を掛ける。
「すみません、宿泊でお願いしたいのですが……」
「ここらへんのヒトじゃなさそうだね……何泊する予定だい?」
「とりあえず、3日ほど」
「そうかい、なら台帳に記入しておくれ。……あんまり大きい声で言えないけど、出来るだけ早めに出た方がいいよ」
タイガがすすめるにしてはやけにぶっきらぼうな態度でおかしいと感じていたスヴェンは台帳を書く際に小声で囁かれた女将の言葉で納得し、何も聞いていないフリをしつつ質問を投げ掛ける。
「ところで、お腹が空いているのですがオススメはありますか?“世間話が出来る様な”入りやすい所がいいのですが」
「それなら出て突き当たりを曲がった小道の脇にある店で食べるのをオススメするよ。」
質問の意図を察した女将は一軒の店を紹介し、頷いたスヴェンは鍵を受け取り部屋へ荷物を置きに行く途中で申し訳なさそうに振り返った。
「すみません、2部屋と言うのを忘れていました」
「別にかまへんよ、変なことせぇへんやろうし。それより……」
「くわしいやり取りは部屋でお話しますね」
「わかった」
ノンノが同意するのとほぼ同じタイミングで部屋へ到着した二人は入室し荷物を置き、椅子へ腰掛ける。
そこでスヴェンは先程のやり取りをノンノへ伝えると彼女もどういう意味かがわかった様で、早めに店へ行こうと促したので一息ついてから席を立った。
教えられた店に着くと、そこにあったのは古く寂れた飲食店だった。
「うん、わかってる。わかってるんやけどさ。少なくとも“入りやすい店”ではない気がするんやけど……」
「その点は同意しますが、とりあえず入りましょう」
格子状の枠に磨り硝子がはめられた引き戸を開けると、穏やかな鈴の音が鳴り、店員からいらっしゃいませと声が掛かる。
2名であることを伝えるとカウンターでも良いか問われたため頷き、案内された席へ座ると割烹着を着た年配のマスターからおすすめを聞き注文すると同時に辺りを横目で見回した。
客は冒険者風の男が数人、1人は仮面を着けている為表情が読み取れない。
その他の客はおらず、あまり賑わっている様子ではない中、スヴェンは観察を使いつつ聞き耳を立てつつ運ばれてきた料理を食べながら誰にどう話を聞こうか悩んでいると、仮面を着けた男が此方へ歩み寄り声をかけてきた。
「こんばんは。あまり見掛けない顔だけど観光とか?」
「こんばんはー。イシュタール行くための船探しに来た感じやで」
「それなら早めに見つけた方がいいよ。領主が変わってからここはあまり良くないから」
「と、いいますと?」
「大きい声では言えないけどね。前の領主が病で倒れたから息子が継いだんだけど、無理な税や制度にいきなり変えて反発されている感じ……かな。それと行方不明者が結構出てる」
「ふむ……。道中に見つけた馬車も関係があるかもしれませんね」
「馬車?」
「うん。来る途中、脇道に逸れた所に壊れた馬車があってな。馬もヒトもおらんかったんやけど、血の痕があったり轍が隠されたりしてたんよ」
「場所とか詳しく聞きたいんだけど、明日の午後って二人とも空いてたりするかな?」
「空いてるでー」
「じゃあ正午くらいに冒険者ギルドで待ち合わせよう」
「わかりました」




