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その後のお話








その後どうなったかといえば、王子たちの筋書き通りアナスタシアは人命を救助しながらもそれは当然のことと褒章を辞退した高潔な令嬢として称えられることとなった。

もちろんそれを素直に喜ぶことはできないので委縮してしまっている彼女の代わりに、マクシミリアンや彼女の友人(クリスティアナ)たちによってあの日のことは彼女にとっても恐ろしい記憶でもあるのだから蒸し返さないようにとそれとなく圧力がかけられている。

そして事件のきっかけとなった香水を売った店主を危険物を売った疑いで逮捕するかどうかの意見が分かれたが今回の件については依頼人にも責があるとして逮捕はされなかった。

しかし店主は自ら店をたたんで国を出ていった、ということになっている。


また、シェリー・ヤング伯爵令嬢はそれまで迷惑を被ってきた令嬢を始めとする数人の貴族から訴訟を起こされてしまったようだ。

言い逃れようもないほどの証拠を突き付けられて賠償金を払うことを命ぜられたヤング家は没落、彼女はまた平民へと逆戻りしてしまったという。

意外なことにオールポート夫人がお茶会での彼女の無礼を責める様子がなかったのだが、あれだけ怖い目に合えば誰が何を言わなくとももう悪さはできないだろうと言っていたということをクリスティアナが教えてくれた。

たしかに事件以降の彼女はとても大人しくなっていたように思う。

あれがいつまで続くかは見ものね、と少々不服そうに言ったのはバーバラだった。


ところでシェリーの嫌いな匂いがアナスタシアの匂いだった理由について、それとなく裁判のあと拘置所となっている部屋に戻る前のシェリーに心当たりを聞いてみたことがある。

彼女はこれといってアピールしているでもないアナスタシアが夜会でマクシミリアンと会うたびに親し気に話していることが気に食わなかったようで、無意識に彼女に嫌悪感を持っていたという。

嫌いな女の匂いということであの香油はアナスタシアの香りになったようだ。

そう理由を聞いたマクシミリアンが、そんな時からすでに君を愛していたんだな、なんて的外れに納得したように言ったものだからシェリーは酷く幻滅したという顔で本当にこいつでいいの?と逆にアナスタシアに同情的になってしまったのは余談だ。


アナスタシアはといえば、結婚と魔術師としての本格的な登用までの間にみっちりと公爵夫人となるための教えを乞うために、ほぼ毎日王都にあるアルフォード家へと足を運んでいた。

アルフォード前公爵夫人は昔から知っていたこともありアナスタシアがマクシミリアンの妻となることをとても喜んでくれ、前公爵の介護で大変だというのにアナスタシアのために時間を割いてくれている。

時間が限られている分厳しさは増しているが、もともと侯爵家の令嬢としての教育をしっかりと受けていたアナスタシアはそれほど教えることもないとだいたいの時間は一緒にお茶を飲んでいるだけとなっていることにそれでいいのだろうかと少し不安になる。


マクシミリアンも騎士団へと入ってからは騎士団から与えられていた宿舎で生活を送っていたのに、婚約してからは毎日タウンハウスへと帰ってきていた。

それも定時で切り上げてくるらしく仕事は大丈夫なのかと聞けば、もともと仕事はいつも定時で終わっており、そのまま遅くまで自主訓練をするために宿舎生活を選んだらしい。

じゃあ自主訓練はいいのかと聞けばこれを機に実務部隊から幹部へと昇格しないかと持ち掛けられたらしく、それに合わせてそのうち宿舎の部屋を引き払ってタウンハウスから通うようにするとのこと。

えらく速い出世を面白く思っていない人たちからのやっかみを受けることもあるらしいが、それら全て仕事と腕っぷしで黙らせているというのだからマクシミリアンは本当に優秀なのだろう。

そうして全てを定時までに済ませて帰ってきたマクシミリアンと一時間ほど二人きりで過ごしてから帰るのがここのところのアナスタシアの日課になっている。


「どうせ明日も来るんだから帰る必要ないんじゃないか?」

「結婚まではけじめつけないとだめよ。お父様との約束でしょう?」

「それはそうだが……最近よく眠れないんだよ。君の香りがなくなったから」

「マクシー……あなた性格変わったのではなくて?」

「そうか?」


アルフォード家からジンデル家へと送られる馬車の中、マクシミリアンはアナスタシアにぴったりと寄り添う、というよりは抱きしめているような状態でいるために少々座り心地が悪い。

硬派だとすっかり思い込んでいたマクシミリアンはどうやら妻となる女性に対しては随分と情熱的なようで、あれからずっと甘い言動を囁かれ続けている彼女は毎日熱に浮かされているように顔を火照らせている。

香油は没収され、変わりかけていた彼の匂いもアンチ薬で元へと戻されたため今の彼はアナスタシアの香りに飢えているのだと主張する姿は立派な変態でしかない。

そう言うところを見越してバーナードはアナスタシアを毎日家に帰すように約束させたのだろう。


結局ジンデル家まで彼女を抱きしめたままだったマクシミリアンも一応送り届けたという報告のため、アナスタシアと共に馬車から降りてジンデル家へと入ることになっている。

いつもならば玄関ホールで挨拶してすぐに帰っていくのだが、今日はバーナードに用があると彼の書斎へと向かってしまったのでアナスタシアも一度部屋へと戻ることにした。

それからしばらくして用を済ませた彼を見送るためにもう一度玄関へと戻れば、別れの挨拶として彼にぎゅっと抱きしめられてしまう。

部屋に戻ったついでに柔らかな素材の部屋着へと着替えていたせいでいつもよりもしっかりと彼の体温を感じることになってしまったアナスタシアの心臓はいつも以上にドキドキと高鳴っている。


「近いうち、君の都合がいい日に出掛けないか?」

「え?」

「ずっと忙しくてデートらしいデートもできていなかっただろう?」

「本当?嬉しい!」


嬉しさにもう一度抱き着けばマクシミリアンもきつく抱きしめ返してくれて、さらに嬉しくなって力を込めたところで執事の咳払いが玄関に響いた。

これ以上は駄目らしいと苦笑して離れていくマクシミリアンの手を名残惜し気に見つめていれば、また明日とアナスタシアの指先にキスを落として彼は帰っていった。

ぱたりと扉が閉まった後もしばらくその場で佇んでいたアナスタシアだったが、ようやく自分も部屋に戻ろうと動いた時に不意に香った香りに足を止める。

ほんの少し抱きしめられただけで少ししか染みついてないその匂いはすぐに消えてしまったけれど、それは確かにマクシミリアンの匂いだった。

それに気が付いたアナスタシアはまた彼のことが恋しくなってしまって、自分の体を一度抱きしめる。

自分の香りのする彼もいいけれど、やっぱりアナスタシアも彼本来の匂いが好きなのだ。

できることならずっとあの安心できる腕の中でその香りに包まれていたいと思ってしまうほどに。

人のこと言えないな、と自嘲しながらアナスタシアは今度こそ自分の部屋へと帰っていったのだった。





お読みくださりありがとうございました。

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