このバカップル
「ユウシアさん、考えて頂けたでしょうか」
「ひょいっ!?」
あれから数日。ぬっ、と現れたシオンを見て、今度は復活したアヤが素っ頓狂な声を。リル達はビクッと動くに留まった。
「ふむ……皆さん、少しずつ慣れてきたようですね」
「いや、そもそもいきなり現れるのやめましょうって……」
「それは無理な相談です。染み付いた癖というのは中々抜けないものですよ?」
「まぁ、それはそうですけど……」
と、仲良さげに会話するユウシアとシオン。
そんな二人を見て、クラスメイトの一人が、ボソリと。
「……ユウシアめ。シオン先輩とデキてるんじゃないだろうな……羨ましい」
「「「めっちゃ分かる」」」
周りにいた数名が激しく頷いた。
唐突だが、シオンは美人である。副会長という立場や、武闘大会第三位という功績も相まって、学内における知名度・人気共にトップクラスだ。
もしも、そんな彼女が、クラスメイトの男子と仲睦まじく話していたら……。
「普段からクラスの美少女という美少女を侍らせてるくせに、シオン先輩まで……死ねばいいのに」
「「「ホント思う」」」
周りにいた数名が更に激しく頷いた。
「リル一筋なんだけどなぁ……」
そんな会話もしっかり聞こえていたユウシア。思わず心の声が漏れる。
「ユウシア様……私もですわ」
「リル……」
「はいすとーっぷ」
いきなり形成された二人の空間。アヤが死んだ目で止めに入る。
「ユウシアも姉上も、所構わずイチャつくのはどうにかならないのか……」
「フィル様、もう手遅れです」
フィルとリリアナの目も死んでいた。
「なるほど……隙あらば、とはこういうことですか……」
公衆の面前で(【偽装】はしてあるが)イチャつく二人を初めて見たシオン。祝勝会のときのアヤの言葉を思い出し、納得したように頷く。
「――コホンッ」
と、ユウシアが一つ咳払い。シオンを見て口を開く。
「それで先輩、考えたか、というのは、議会参加の件ですか?」
それに頷くシオン。
「はい。話を聞きたいので本部の方へ――」
「いえ」
と、ユウシアは首を振ってシオンの言葉を遮る。
「その必要はありません。答えはもう出ています」
――と、いうよりも。実は、主席生徒は議会に勧誘されるという話を聞いたときから、ユウシアの意思は決まっていたりする。
「……分かりました。聞かせて頂きましょう」
「はい。俺は……議会には、入りません」
そう、キッパリと言い切るユウシア。それを聞いていた周囲からざわめきが漏れる中、シオンは若干目を丸くしつつ問いかける。
「……それは、何故ですか?」
「正直、興味がありません。先生に聞いた参加のメリットは、俺にとってはメリットたり得ない。デメリットしか存在しないことをする必要も理由もない」
「よろしいのですか? 学校の運営にも関われる立場ですよ?」
「俺は今の学校で満足しています。もちろんより良くなるのならそれは素晴らしいことだとは思いますが、その辺りは先輩方にお任せします」
「……そうですか。いえ、分かりました。ユウシアさん。あなたの意思を尊重します」
「ありがとうございます」
少し残念そうな顔をしつつも頷くシオンに、ユウシアは頭を下げる。
「それでは、会長と学長に伝えておきます。ユウシアさん、また」
「お願いします、先輩」
教室を出るシオン。それを見送るのは――いや、見送れたのはユウシア一人。他の皆はしっかり見失っている。……癖とは、中々抜けないものなのだ。
「ユウ君、ホントによかったの?」
当然のように気配を消していたシオンにどこか呆れたような目を向けていたユウシア。そんな彼に、こちらは諦めたような表情のアヤが問いかける。
「いいんだよ。学校の運営とか重いし。……面倒だし」
「あぁ……まぁ、それは分かるかも」
「それに――いや、なんでもない」
「?」
続けようとしてやめたユウシアに、アヤは首を傾げる。
(……言えない。一番の理由は、ただでさえあまり取れないリルとの時間を減らしたくないからだなんて、絶対に言えない)
よくイチャついているユウシアとリルだが、実は二人きりの時間はあまりなかったりする。このバカップル。
ちなみに、ハクは大体ユウシアの近くにいるが邪魔はしない偉い子なのでノーカウントである。もしそれでも邪魔なときは頼めば一匹でその辺りに遊びに行くかアヤやフィル、リリアナ辺りのところに行ってくれる。何なら、頼まずとも空気を読んで出かけてくれることもある。……とっても、偉い子なのだ。
「ぴぃ?」
そんなことをユウシアが考えていることを悟ったのか、首を傾げるハク。実はこの子、授業中もユウシアの膝の上かフードの中で寛いでいる。最初は注意しようとしたヴェルムだったが、穏やかな表情で幸せそうに眠るハクに勝手に絆された。クラスメイト達も同様。今ではクラスのマスコットである。
「ぴ」
まぁいいか、なんて言っていそうな雰囲気で、再びフードの中に潜り込むハク。勝手に癒やされるクラスメイト達。
「……ハク、ちょっと皆の相手してあげたら?」
「ぴっ!」
そんな皆を見て、苦笑しつつ言うユウシア。ハクは、嫌! とでも言うように顔を背けた。クラスメイト達は、絶望するような表情になった。
「……はは」
苦笑いするしかないユウシアであった。