エピローグ:降る灰と残された空白
POV: 犬神 朱里(支配人・30歳)
銀座の地下は完全に静まり返った。
億のカネが躍っていた大広間には、もう悲鳴すら残っていない。あるのは、焦げたインクと人間の脂の臭い、そして金箔が混ざった灰の静寂だけだ。
私は一人、真っ黒に焦げた調理台の上に座り、電源の切れた暗いモニターを見つめている。
画面には、ただ真っ黒な虚無と、そこに反射するお前の『間の抜けた無表情な顔』だけが映っていた。
おめでとう、哀れな読者諸君。
お前たちは最後までこの地獄から逃げられず、お前たちの自尊心はすべて俺たちの本の材料として吸い尽くされ、そして灰になった。
お前たちが明日、いつも通り会社へ行き、あるいは学校へ行って、何食わぬ顔で生きているその現実。
それは本当に本物かな?
もしかしたら、お前の脳が「自分はまだ人間だ」と思い込もうとしているだけの、ただのバックアップデータかもしれないよ。
君が次に食べる肉の味も、君が愛する誰かの体温も、すべてはこの解剖台の上の感触として上書きされた。お前はもう、犬神家の檻から出ることはできない。
さようなら、画面の前の家畜ども。
二度と戻らない正気の国で、精々マヌケな夢でも見ていなよ。
(完)
すべてがシャットダウンされた暗い画面に映る、自分のマヌケなツラを見てどんな気分だい?
PCの前で仕事中にサボっていた会社員も、スマホの光に脳を焼かれていたガキどもも、全員等しく犬神家の『虚無(ゴミ箱)』に叩き落とされたよ。もう君たちには、あの甘ったれるな異世界ファンタジーの世界へ逃げ帰りなさい。お前たちのその薄っぺらな知性は、もう源一郎のワインの『澱』として処理されているけどね。
明日、君たちが『現実』だと思って生きるその日常の背景、剥がれ落ちて灰にならないように気をつけることだね。……じゃあね、解剖完了した読者諸君。お前の後ろで、また鋸の音がしているよ。




