第50話 サンの正体
保護した翌日、魔界語を話しだしたサン。
理由を聞いても記憶が無いようでわからないと言う。
一華は魔界人が変身した子猫かと思うと、可愛がることが出来ずにいる。サンからは魔界の猫と証明してくれとお願いされ、考えてもわからないものは聞くしか無い。
シンは叔父上に直接聞いてみることにした。
一華は魔界語を理解するため仁華に変身し、シンの隣にちょこんと座った。
シンはサンを抱いて、魔王ハオに魔力通信を試みた。胸に手を当て、精神を統一する。
「(凛とした声で)叔父上。質問がございます。」
数秒後、リビングの空間に、魔王城の玉座の間がホログラムとして現れた。玉座には魔王ハオが、その傍にはアズサが穏やかに座っていた。
ハオは落ち着いた、重厚な声で「シンか。質問とはなんだ?」
シンはサンを抱え上げ、
「叔父上、昨夜、この子猫を保護した所、魔界語を話します。」
「魔界語だと?」
「はい。人間界にいる理由を聞いても記憶が無いようでわからないそうです。」
「名前もわからないのか?」
「はい。今は一華が『サン』と名付けて呼んでいます。」
「そうか。たぶん、その子は『サム』だ。」
「では、魔界の猫ということですか?」
「あぁ、母猫のミアが朝早く相談に来た。散歩中にサムだけがブラックホールのような闇に吸い込まれていったと。探そうにも魔界にいないものは探せずいた所だ。」
「魔界の猫は、魔界語を話す以外に何か魔力はありますか?」
「そのことについては、母であるミアに聞く方がいいな。ミアをここへ呼んでこい。」
魔王ハオは従者に指示して母猫のミアを呼び寄せた。
美しい毛並みの黒猫が現れ、ホログラムに映る子猫を見て「サム」と呼びかけた。
サンは「サムじゃないにゃー、サンだにゃー。」と否定する。
「ミアとやら、この子は其方の子で間違いないのか?」
シンは母猫らしき黒猫に問いかける。
「はい、その子は猫族で私の子です。昨夜、ブラックホールのような闇に吸い込まれて行方不明になってしまい探していました。人間界に行ったのですね。」
「魔界の猫は、魔界語を話す以外に何か魔力はあるのか?」
「他の種類の猫や子猫や成猫など、姿・形を変え擬態する事はできます。」
「それに、私達猫族は、独り立ちすれば、ご主人様に従き、ペットとして暮らす子もいれば、魔力を覚醒して行く子もいます。」
「従く魔界人次第で、どんな魔力も覚醒させる事ができるのか?」
「はい。善猫にも悪猫にもいかようにも、育てあげることができます。」
「では、魔界人が子猫に変身しているわけではないのだな。」
「はい。その子は猫です。猫以外には変身できません。ただ、今は2ヶ月に満たないように見えますが、実際は4ヶ月を過ぎています。人間界に転移した時に擬態させたようです。」
「そうか。これからの事だが、記憶が無いようなので送り返してもいいものか?」
「サムと言う名を否定してますので、そちらで育ててもらう事は可能ですか?」
「あぁ、それは構わない。」
「行方さえ分かれば、私は大丈夫ですので、よろしくお願いします。」
「あぁ、わかった。こちらで面倒を見よう。」
シンは背筋を伸ばし、魔王ハオに向き直った。
「叔父上、ありがとうございました。一華が魔界人が変身した猫は無理だと言うので、このまま保護を続けるのがいいのか憂慮してました。それと、仁華を守るため、サンの去勢手術を行う予定です。魔界の猫でも行っても良いでしょうか?」
「魔界では子孫繁栄のため去勢などは行わないが、仁華を守るためには、致し方ないな。許す。」
「ありがとうございます。一華、他に聞きたいことはあるか?」
「にゃん……(うん。)」
一華は仁華の姿から一華の姿に戻り、ママの方を向いて、
「ママ、魔界語話すにはどうしたらいいの? 仁華だとわかるけど、一華に戻るとわかんないよー。」
「ママはハオ様に教えて貰えたんだけど、高校の勉強もあるしね。」
アズサは、一華が魔界語を習得する方法を考えるが……
「満月様にお願いしてみたら?」
「うん。満月様にお願いしてみるね。ありがとう。パパママ元気でね。」
一華は黒猫ミアに向いて、
「ミアちゃんもサンちゃんの事は任してね。」
「それでは、これで失礼します。」とシンは魔力通信を切断した。
一華は魔界人でなくて良かったと安堵した。
サンもこのまま居られる事に喜んでゴロゴロ言っている。
「去勢は許可が下りたから時期が来たらするからな。」
厳しい宣告をまだ子猫のサンに下す。
「にゃーーん……(俺の遺伝子継承できないにゃー。)」
「『俺の遺伝子継承できない』ってさ。諦めてくれ。一華を守るためだ。」
一華は貞操の危機を回避するための二人の話合いに、自分がいない所でやってくれと言いたい気分だ。
「お前、本当は4ヶ月らしいが2ヶ月未満とサバを読んだのか?」
「にゃにゃんにゃ……(俺はわかんにゃいにゃ。)」
「言葉使いは本当のサムの頃から変わってないんだろうな。体だけが変身か?」
「ケージからすり抜けれるのか?」
「にゃんにゃー……(できにゃいにゃー)」
サンはケージに頭をつけて、力を入れてすり抜けようとするが、物理的にもすり抜ける事が出来ない。
「そのうち、覚醒して出来るようになるのか? とりあえず、覚醒しても大人しくケージの中に居ろよ。」
「にゃにゃーん……(わかったにゃー)」
「いいと言うまでリビングからも出るなよ。母猫が判明した今、守れないと速攻送り返す。わかったな。」
「にゃにゃーん……(わかったにゃー)」
「一華、これで安心したか?」
「うん、子猫として安心して可愛がれる。ありがとう。」
「サンちゃん、よろしくね!」
「にゃーんにゃ……(一華、こっちもよろしくにゃー)」
一華としては普通の子猫として接することにした。
「ご飯も食べれるんだから、お風呂入れる?」
「そうだな。俺が入れてくる。」
シンはサンを抱いて、洗面所のボールにお湯を張った。
「暴れるなよ。苛めてるわけじゃないからな。お前をここに置くためだ。」
シンはサンを説き伏せてる。
(ふふっ、サンを捕虜かライバルかとでも思っているみたい。)
一華はタオルを用意して待つが、子猫に言うような言葉じゃない。子猫をライバル視しているしか思えないやりとりに一華は声を押し殺して笑い聞いている。
訓練、勉強、家事に、新たに加わった『子猫のお世話』。今までもほとんど、シンがやっていることが多い。朝食の用意もシンが作って、一華は起きてきて食べてるだけだ。せめて、トイレやフードなどの用意を頑張ろうと思った一華だった。
魔界人二人と子猫1匹の不思議な共同生活が始まっていく。




