表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いちにの華  作者: ゆず華
覚醒編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/83

第32話 ブレスレット

魔王ハオがシンとの魔力通信を終えた直後、玉座の間は静寂に包まれた。

ハオは玉座から立ち上がり、隣に控えていた妻、アズサに視線を向けた。


「アズ。一華の安全に関わる緊急の依頼だ。」


アズサはすぐに立ち上がり、魔王ハオの意図を察する。


「ブレスレットの製作ですね。すぐに手配いたします。」


「形状は一華の希望通り、魔宝石を連ねたカジュアルなブレスレットとする。そして、単に結界を張るだけでなく、共鳴の魔力を任意のタイミングで遮断できる、制御機能を付与させろ。一華の心が消耗しすぎる前に、その力を使いこなすための補助具が必要だ。」


深く頷くアズサ。


「承知いたしました。一華があれほど欲しがったものです。最高の結界と制御機能、そして何よりも『おしゃれさ』を兼ね備えた、完璧なものを最短で仕上げさせます。」


アズサはその場で魔界随一の宝石職人兼魔術工学者を魔力通信で招集する。

アズサはブレスレットに使用する魔宝石を、一華のペンダントに使われていたものと同じ最高級の瑠璃石から選定した。職人たちには、昼夜を問わず作業を急がせた。



◇◆◇



三日後の夜明け前。魔王城の工房で、ブレスレットは完成した。


それは、細かく研磨され、丸く成型された数十個の深い瑠璃色の魔宝石を、細い銀の鎖で一つ一つ丁寧に繋ぎ合わせた、繊細かつ堅牢なブレスレットだった。一見すると、人間界の高級ジュエリーに見えるが、それぞれの石の中には魔王ハオの魔力技術が組み込まれている。


アズサは最終調整として、優しく、そして誇らしげにブレスレットに語りかけた。


「これで一華を守りなさい。そして、もし共鳴の魔力が発動しそうになった時は、一華の意思とは無関係に、感情の波長を遮断するように。」


ブレスレットの主たる宝石一つが、微かに青い光を放ち、魔力の注入が完了したことを示唆した。

アズサは完成品を手に、すぐにシンに魔力通信を行った。


「シン君、ブレスレットが完成しました。すぐに送ります。一華には内緒で、彼女が目覚める前に受け取ってください。ハオ様と私の魔力は既に注入しています。最後にあなたの結界の魔力を注入しなさい。」


シンはパジャマ姿でリビングへ急いだ。深夜にもかかわらず、シンの表情は極めて真剣だ。


シンは通信越しに感謝をする。


「ありがとうございます、アズサ様。」


アズサが魔力を込めてブレスレットを空間に放つと、シンの目の前の空間に青い亀裂が走り、美しいブレスレットがきらめきとともに落下してきた。


シンはそれを受け取り、その精巧さと、満ちている強力な魔力に息をのんだ。そして、このブレスレットが、一華の安全と、自分自身の護衛任務の助けになることを確信した。


シンはブレスレットを握りしめ、通信の切れた空間に向かって言う。


「必ず、一華を守り抜きます。」


シンは精神統一した後、受け取ったブレスレットにも、結界を張る魔力を最大限に注入した。


シンは自己の回復のため、もう一眠りすることにした。



◇◆◇



シンは、アズサ様から転送されたばかりの瑠璃色のブレスレットを手に、早朝から一華が起きてくるのを待っていた。


昨夜受け取ったブレスレットは、細かく研磨された魔宝石が連なり、夜明けの光を受けて静かに輝いていた。その一つ一つの石には、魔王ハオの高度な技術と、シンの結界魔力が込められている。シンはそれを厳重に保管し、一華が目覚めてリビングに入ってくるのを今か今かと待ち構えていた。シンは早くブレスレットの性能を一華に確認させ、彼女の不安を取り除きたい一心だった。


いつも通りの時間に目覚めた一華は、顔を洗い、着替えてリビングへ入ってきた。


「おはよう、シン! 今日は天気いいね!」


シンはダイニングテーブルで待機しており、立ち上がる。


「おはよう、一華。」


一華はテーブルに着き、いつものように朝食を待つ体制に入った。しかし、シンの表情がいつもより少し厳しく、手元を隠していることに気づく。

一華は不思議そうに聞く。


「どうしたの? また何か問題が起きた?」


シンは隠していた手を一華の前に差し出す。


「問題ではない。むしろ、解決策だ。」


シンの開かれた手のひらには、光を受けて鮮やかに輝く瑠璃色のブレスレットが乗っていた。それは、一華が希望した通りの、丸く成形された魔宝石を連ねた、繊細で美しいデザインだった。


驚きで目を見張る一華。


「え……!? これ……! もう出来たの!?」


表情を緩めるシン。


「ああ。昨夜、アズサ様から転送された。一華の希望通りの形状だ。ペンダントよりも遥かにカジュアルで、体育の時も邪魔にならないはずだ。」


一華は信じられない思いで、そのブレスレットをそっと受け取った。手にした瞬間、ペンダントと同じ、いや、それ以上に強く安定した魔力の波動が、一華の手に伝わってきた。それは、シンの結界の魔力そのものだった。


「すごい……本当に、こんなに早く……。パパとママ、シン、ありがとう……!」


「一華。これは単なる結界ではない。叔父上とアズサ様が、共鳴の魔力を任意のタイミングで遮断するための制御機能も付けてくださった。」


一華はブレスレットを眺めながら呟く。


「制御機能……。」


「それを左手首に着けてくれ。肌に密着している方が、魔力の制御が正確になる。」


一華は、大切にそれを左手首に巻いた。シンがそっと留め具を固定する。瑠璃色の魔宝石は、一華の白い肌によく映え、まるでファッションアイテムのように馴染んでいた。


シンは一華の手首を優しく持ち、確認するように、

「これで、一華の体は常に最高強度の結界で守られる。そして、もし共鳴が始まったら、一華の意思でその魔力を遮断できるはずだ。これで、もう眠っている間に悲痛な声を聞くことも、学校で外す心配もない。」


一華は深く頷き、ブレスレットをなでる。


「うん……これで安心だね。もう誰にも、心配かけずに済む。ありがとう、シン。」


安堵から、心底優しい表情になるシン。


「それにしても、ペンダントよりはカジュアルっぽいけど、ラグジュアリーっぽくない?」


「プリンセスだからな、それぐらい普通だろ。」


「今はただの高校生だから、学校では隠しておかないと目立ちすぎだよ。体育とかで腕をまくったら絶対バレちゃう。先生に注意されるかも……」


(注意されたら、俺がお守りだと洗脳するか。)


「とりあえず、朝食にしよう。」


魔王ハオとアズサの手によって完成した瑠璃色のブレスレットは、一華に最高の安心感をもたらした。しかし、これほど強大な魔力を秘めた、そして何よりも目立つ「魔宝石」を、学校という人目に晒される場所でそのまま身に着けるわけにはいかなかった。


一華はクローゼットを探し、制服の袖口からチラリと見える程度で、全体を覆い隠せるアイテムを見つけた。

一華は紫色の太めのシュシュを手に取りブレスレットに重ねて着けてみた。


「これならどう? ちょっと袖をまくっても、これがあるからブレスレットは見えないでしょ?」


そのシュシュは、髪を束ねるためのものだが、適度な厚みがあり、左手首に巻くと、ブレスレットの繊細な輝きと、魔宝石を完璧に覆い隠すことができた。


「ああ、それなら物理的なカバーとしても機能しているな。ブレスレットが結界となり、シュシュがブレスレットのカモフラージュとなる。二重の守りだな。」


一華は制服の袖を下ろした。これで、手首を動かしても青い宝石が見える心配はなくなった。



学校での一日は、順調に過ぎていった。


午前中の授業中、一華は左手首に巻かれたシュシュの下にある冷たい感触を常に意識していた。それは、一華の魔力と共鳴し、絶えず微かな安定した波動を送り続けている。


(これなら大丈夫。もし誰かの悲痛な感情が流れ込んできても、このブレスレットが遮断してくれる……)


一華の心は、月華草茶を飲んでいた頃よりも遥かに落ち着き、授業に集中することができた。特に、体育の授業で腕を大きく振る際も、ブレスレットを外す必要がないという安心感は大きかった。以前はペンダントを外す際に無防備になる不安があったが、今はその隙がない。


休憩時間、理那や真由と話す際も、一華の左手首に巻かれたシュシュは、ただのカジュアルなヘアアクセサリーのように見えているだけだった。


理那が一華のシュシュに気付く。


「あれ、一華、今日はそのシュシュ手首に着けてるんだね。可愛い。」


「うん、ちょっと手首が寂しかったから!」笑顔で答える一華。


内心では、(これはパパママ特製の「最終結界」なんだけどね!)と、秘密の優越感に浸っていた。


シンは、終日、一華の魔力の波長を監視し続けていた。


(ブレスレットは完璧に機能している。共鳴の魔力を抑え込みつつ、一華自身の魔力は成長を妨げられていない。叔父上とアズサ様の魔力工学はやはり驚異的だ。)


シンは、一華の左手首に巻かれたシュシュをチラリと見やり、カモフラージュが効果的に機能していることに満足した。一華が安心して笑い、友人と会話している姿は、シンにとって何よりも任務の成功を意味していた。


ブレスレットとシュシュという「二重結界」のおかげで、一華は再び、普通の女子高生としての穏やかな日常を取り戻すことができたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ