第26話 願い
休日の前夜、22時ごろ。一華はペンダントを外し、黒猫仁華になった。
シンに首輪とリードをつけてもらい、二人は静かに家を出た。テストも終わり、気分は弾んでいる。
(黒猫になって夜に出歩くことが増えたけど、昼間の緊張感から解放されて、夜の散歩が一番好きにゃ。)
仁華は、微かな音を拾い、気配を感じながらも、しっぽをゆらゆらと揺らし、その緊張を紛らわせているようだった。
今日も住宅街では誰にも出会うことなく、公園まで来た。
シンはブランコに腰掛け、仁華を膝の上に抱き上げる。
仁華はいつものように、満月ではないが明るい月に向かってバンザイするよう前足を伸ばした。
シンは仁華の頭を優しく撫でている。
「今日は、どんなパワーを注入してるんだろうか?」
「にゃにゃ~ん……(パワー注入!)」
シンは独り言のように希望を口にする。
「次は自己回復する魔力が覚醒するといいのにな。」
「にゃにゃ?……(自己回復にゃ?)」
「ああ。仁華の時に人間と出会うと、心が消耗するだろう。この世界で人間と一切出会わないというのは無理がある。現状は寝て、浄化をしなければ回復できない。」
(この浄化プロセスは一華の精神を深く癒すが、俺の負担も大きい。そして何より、俺が勝手に一華の魂に触れている事実は隠したい。)
「自己回復する魔力を覚醒させないと、一華に戻ることをためらうようになる。」
「にゃにゃ~にゃん……(この前の満月の時は、戻ることをためらったにゃ。)」
「だろうな。仁華のままの方が、勉強もないし、自由に動けるから楽だと思うんじゃないか?」
「にゃ~んにゃ……(それは嫌にゃ!)」
首を横に振る仁華。
シンは少し意地悪く言う。
「勉強もないし、いろんな所に自由に行けるのにか?」
「にゃにゃにゃ……(勉強しにゃいで済むのはいいけど、高校には行きたいにゃ。シンとの婚約も破棄ににゃるにゃ!)」
シンは、仁華が「婚約破棄」を懸念したことに予想外の衝撃を受け、暗闇の中で顔を赤らめる。
咳払いをして、声の動揺を隠すシン。
「おぉ……。それはいけないな。では、今度の満月では、自己回復の魔力が覚醒するように、お願いしながらパワーを注入したらどうだ?」
「にゃぁにゃぁ~ん……(それはいい考えだにゃ。次はそうしてみるにゃ!)」
「そうと決まれば、もう遅い。誰かに出会う前に帰るぞ。」
仁華を抱き上げ、ブランコを下りる。
「にゃにゃにゃ。……(下ろすにゃ!)」前足を突っぱねる。
「今日も遅いから、このまま抱いて帰る。」
「みゃっ……(ラジャー!)」
シンは仁華を抱いたまま急いで帰路についた。何事もなく家に着き、仁華は一華に戻った。
一華は伸びをしながら「疲労感は感じないよ。」
シンは、今日のように人間と出会わず、精神的な負担がなかったことで、浄化儀式をする必要がなく安堵した。二人は、心地よい疲労感と解放感に包まれながら、それぞれのベッドに潜り込んだ。




