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いちにの華  作者: ゆず華
高校生編

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第21話 散歩

夕食を終えた一華は、今日買った首輪とリードを使うべく、シンを散歩に誘った。


決意の表情で「シン! 準備万端。変身するよ!」


窓を開け、夜空を見上げる一華。


シンがその場で見守る中、月の光を浴びた一華は、体内の魔力が弾け、黒猫仁華に変身した。


「にゃ、にゃぁ~ん、……(シン、首輪とリード付けてにゃ。)」


シンは頷き、仁華に赤い首輪を着けるが、リードは持ったまま装着しない。


「リードはいるのか? 今日もパーカーの中に入って散歩だろ。」


「にゃにゃにゃ、にゃぁ、……(せっかくリード買ったんにゃから、歩くにゃよ!)」


(今日は抱けないのか……。)


「にゃにゃ。……(リードの練習も必要にゃよ!)」


「わかった。」


シンはしぶしぶリードを装着する。


「にゃ、にゃにゃぁ~ん、……(シン、さあ行くにゃぁ~!)」


シンは鍵をかけて仁華と一緒に家を出た。


「この前の公園まで歩いていくぞ。」


「にゃ。……(わかったにゃ)」


仁華はシンの隣をトコトコと、しっぽを上げてゆらゆら揺らしながら前を歩いていく。シンは仁華の姿を確認しながら、ゆっくりとした速さでリードをゆったりとさせるぐらいの距離を保っている。


(この距離では、仁華の魔界語の返事を人間界の言葉で返すのは不自然だ。会話しながらは無理だよなぁ……。)と思いつつ歩いてついて行く。



中学生が飛び出してきた住宅街を何なく抜け、あの公園までやってきた。夜も遅いので誰もいない。


シンは仁華を抱き上げてブランコに座った。

仁華は月に向けてバンザイするように、お腹を出して前足を高く伸びをした。


「何してんだ?」


「にゃぁ~ん、……(月のパワーを注入してるにゃ。)」


シンは面白がって「月のパワー注入したら、今度はどうなるんだろうなぁ。」


「みゃ、にゃぁにゃぁ、……(ね! シンみたいに、いろんな魔力が使えるかにゃぁ)」


パワー注入が終わったのか、仁華はシンの方に向き直り、膝の上にちょこんと座った。シンが仁華の背中を撫でていると、その時。


仁華の耳がピクッと向きを変えた。わずかに音がした方へ向いている。その音を頼りに仁華は膝の上から飛び降りて、駆け出した。

シンはリードに引っ張られて仁華についてゆく。公園を出ると、誰かが道路の中央を歩いているのが見えた。


(魔力ではない。ただの人間だ。だが、なぜ道路の真ん中を?)


顔が確認できるまで近づくと、それは白髪の高齢のご婦人だった。


「仁華、どうした?」


「にゃんにゃにゃ~ん……(あの、おばあちゃん、靴はいてにゃい。裸足で歩いているにゃ。)」


シンは、初めてそのことに気づいた。靴音がしていなかったのだ。


「にゃにゃん。……(きっと徘徊じゃにゃいかと。)」


「徘徊?」


シンはその単語を脳内データベースで検索する。


仁華はご婦人まで近づき、「にゃぁん。にゃ……(おばあちゃん、どうしたにゃ?)」と問いかける。


おばあちゃんは「ネコちゃん、どうしたの? 迷子なの?」と仁華を心配しているようだ。


「にゃ~ん。……(おばあちゃん、靴はどうしたにゃ?)」


おばあちゃんは「そうなの、迷子なの。 お家に帰りましょ。」と仁華を抱き上げようとする。


シンは前に出て「すみません。迷子じゃありません。おばあちゃんを心配しています。」仁華の代わりに答える。


「にゃ~ん。……(心配だにゃ)」


「あら、そうなの? 帰らなくちゃ。あら、ここはどこかしら。」


「帰り道わかりますか?」


「帰り道? おうちはどこかしら? わからないわ。」


「にゃにゃにゃ~ん……(シン、警察に電話してにゃん、保護してもらおうにゃ!)」


シンはスマホを取り出し警察に電話する。ほどなくしてパトカーが滑り込んできた。


「お巡りさん。このおばあちゃん、靴を履いてなくて、帰り道がわからないそうです。自分も最近引っ越してきたもので、ここら辺は詳しくないので電話しました。」


シンはおばあちゃんをお巡りさんに保護してもらった。

パトカーが遠くなるのを見て、シンはリードを引いた。


「もう帰ろうか。」


「にゃんにゃ~……(仕方にゃいにゃ、今日もここまでにゃ)」


仁華は早い帰宅を残念がった。

シンは少し期待して聞いてみた。


「抱くか?」


「にゃぁ……(歩くにゃ)」としっぽをピンと上にあげ、ゆらゆらと揺らしながら歩きだす。


(今日は抱っこ拒否か……)と項垂れ、仁華の後について帰路についた。


「仁華、一人で飛び出してたら、迷子と間違われて連れ去られるぞ。」


「……」


「飛び出す前に、せめて話してくれ。」


「にゃん……(わかったにゃん。)」



◇◆◇



家につくと、仁華はペンダントに手をかざして数回深呼吸をする。


「すーはぁー(すぅにゃぁ)」……人間一華へ戻った。


人間に戻った瞬間、体を抱きしめる一華。


「はぁ……やっぱ体が重い……。」


一華は、仁華から一華に戻ると、一気に体力が奪われていることを自覚する。シンは心配して駆け寄る。


「今回も共感の魔力が発動したのか? 金色の光の粒子は見えなかったが。」


「今日は魔力は発動してないのに、どうして……。」


シンは即座に結論を出す。


「魔力が発動しなくても、 一華が黒猫の姿で他者の感情(不安や混乱)に触れただけで、共感の魔力が身体に負荷をかけているのかもしれないな。」


シンは、一華をふわりとお姫様抱っこにして、「今日はこのまま休め……」と廊下を進んでいく。


(ちょっ、近い!)「だ、大丈夫だよ。自分で戻るよ!」と心穏やかでない。


(軽い……な)


シンは一華の部屋まで来たが、両手が塞がっているため、やむを得ず一華を抱いたまま魔力でドアを擦り抜けてベッド横まで行き、一華をベッドにおろした。


一華は羞恥心と疲労でぐったりして声が出ない。


「……。」


シンは静かに部屋を出る。


(『自分で戻れる』と言われたが、一華の魔力感知が不安定な今、リスクは取れない。彼女を横抱きにしたのは、護衛として最短かつ最も安全な搬送手段だ。しかし、魔力で壁を通り抜ける必要があったとはいえ、婚約者を横抱きにして寝室に運んだという事実は……)


廊下で立ち止まり、頭を抱えて真っ赤になるシン。


「うぐっ……! 任務だ! これは任務遂行のためだ! 次からは、抱く前に必ず許可を得る必要がある。」


(しかし、共感の魔力が、仁華の姿である限り、一華の意思とは無関係に消耗を引き起こす。この消耗を魔界製ベッドだけで回復しきれるのか、ハオ様に確認しなければならない。)


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