第20話 お洒落
ゴールデンウィーク初日。朝食を終えた一華は、さっそくシンを誘った。
「シン! 今日は朝から出掛けるよ。食材の買い出しと、もう一か所、行きたいところがあるの。」
シンはすぐに反応しつつ、ゴールデンウィークの課題を思い出す。
「勉強するんじゃなかったのか? 何を買いに行くんだ?」
「勉強は戻ってからする! まずは欲しいのは首輪。」
「首輪? 仁華のか?」
「そう、仁華の! 野良猫と間違われると面倒じゃない?」
シンは真顔になり想像した。
「そうだな。そのまま誰かに連れさられて、人間に戻ったら……考えただけで恐ろしいな。」
「でしょ! だから、首輪と猫用リードを買いにペットショップに行きたいの。」
「ペットショップ、ペットショップ」とスマホを取り出し、検索し始める。
「あった。駅の近くだな。」
「じゃ、先週借りたDVDもついでに返さないと!」
DVDを袋に入れて持ってくる一華。
一華・シンともに着替えを済ませて玄関を出る。
まずはDVDを返却し、二人はペットショップまで歩いていく。
ペットショップに入った二人は、陳列棚を探して首輪を見る。
「首輪って、いろんなのがあるんだね。鈴付きに、名札付きに光るタイプもある。」
「名札は個人情報漏洩になるから不要だな。光るタイプだと夜道で確認しやすいし、鈴付きだとチリンチリンかわいいな。」
一華は笑いながら探している。
「どっちもひっそりとは歩けないね。」
「そうだな。一華の安全には両方欲しいが、あえて何もない普通のにするか?」
「仁華ね」と言いながら、一つの首輪を手に取り、シンに見せる。
「これ、引っ掛けたらすぐに外れるんだって。赤いリボンの首輪。これにするね。あとはリードは必要かな。」
シンは別の棚を指差して、「これなんかどうだ?」と、スカートのようなフリルと大きなリボンが付いた、とってもかわいらしいハーネスを見せてきた。
一華は目を丸くして仁華の姿を浮かべる。
「うわ、かわいいけど……仁華に似合うかなぁ?」
シンは真剣な顔で、ハーネスを一華の体に当てるように、
「似合ってるよ。仁華は黒いから、この赤が映える。」
一華は赤面しつつも、実用性を指摘する。
「かわいいけど、着替えずに人間に戻ったら、服がビリビリに破れるんじゃ……?」
ハッとして、魔力暴走の危険を再認識するシン。
「家に帰り着く前に戻ったら……ダメだな。」
二人は、結局、簡単に外れる赤い首輪と、シンプルなリードだけを買って店を後にした。
一華は、食材を購入するためのスーパーまでの道のりで、先ほどのシンの趣味について指摘した。
「シンって、飼い主役なんだから、あのハーネスは他の人から見たらシンの趣味と思われるよ。」
シンは想像して、顔をみるみる真っ赤にする。シンは自分が「かわいい趣味」の持ち主に見られるという事態を全く想定していなかった。
「う、うう……!」
言葉にならないシンに、一華はクスクス笑いながら、
「シンって、第一印象と違って、かわいい趣味してるよね。」
シンは言い訳をするが、声が上ずっている。
「俺がかわいい趣味っていうわけじゃなくて、つける側がかわいいからだろ!」
一華は面白がって、核心に迫ってみる。
「仁華って、かわいい?」
「あぁ」
即答するシン。そして、感情を抑えきれずに続けた。
「初めて散歩に出かけた日、ずっと抱いていただろう。」
一華はその日のことを思い出す。
「うん、パーカーの中にいたね。」
「ずっと抱いていたかった。」
シンは、仁華のふわふわした温かさと、微かな魔力の安心感を思い出していた。
「……」
一華は、シンの純粋な「抱っこ願望」を理解したが、同時に(私が黒猫の時、無意識に抱かれていたけど、考えてみれば、今抱かれているのと変わんないのでは……!?)との考えに至り、顔が真っ赤で言葉を失った。
一華の突然の沈黙に焦り、自分の発言を反芻する。
(俺の言葉に何か人間界のルールに反する誤解があったか? 黒猫を可愛いと言っただけだが……なぜ一華は赤面した?)
シンは自分が何かまずいことを言ったのかピンと来ていなかったが、一華の赤面が収まらないため、それ以上話しかけるのはやめた。
二人は3日分の食料を買い込み、静かに帰宅した。




