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神牛一刀流〜近未来剣客浪漫譚〜  作者: ひろひさ


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20/24

未登録能力者を追え!!

 ナインヘッド解体後、大方の予想通り、その後釜を狙って中小の犯罪組織の動きが活発になっていった。


 それに伴い当然、藤村家を含むハンターたちの活動も忙しくなり、落ち着きを見せ始めた頃には双方共に骸の山が築かれる結果となる。


 健太郎と八重は再び行動を共にするようになり、人と獣、2つの首を撥ねて回る毎日を送っていた。


 そんな中、市内で未登録の能力者が逃走したとの一報が入る。






 クソッ!! クソッ!! クソッ!! クソッ!!


 4月17日、日曜日。駅の北側、県庁や区役所、お堀やオフィス、商業施設が立ち並ぶいわゆる『おまち』を17歳の少年がジャングルを縦横無尽に飛び回るサルのように駆け抜けていた。


 ヤバい!! ヤバい!! ヤバい!! ヤバい!!


 首から下を黒い筋肉のようなスーツで覆い、ビルの外壁や街灯を足場に手首からワイヤー状の物体を射出。重力を感じさせない跳躍を見せるのであった。


 そんな彼を警察のドローンが見失わないよう必死に後を追い掛ける。


 ツーブロックの短髪にギョロリと爬虫類じみた大きな三白眼。素行の悪さが染み付いた顔をしている。


 能力を使用しなければ能力者には見えない彼がなぜバレたのか。それは午前10時48分まで遡る。






 彼は高校には進学していなかった。それどころか学校という教育機関にまともに通ったことさえない。


 親は放任主義という名の育児放棄をしており、家にいることの方が稀であり、そんな彼はいつの頃からか強盗、傷害、恐喝、強姦など罪を重ね、遂には少年刑務所に入所。そしてなぜか能力に目覚めた。


 彼の能力は身体強化。超人的な身体能力だけでなく、銃弾を弾くこともできる変幻自在のスーツを纏うことで防御面でも優れていた。


 力を手にしてからは何ができるのか夜な夜な研究し、本日突発的に脱獄。今に至るという訳である。しかし逃げ込む先も頼れる仲間もいない彼はとにかく街中を走り回り、追跡を逃れることしか頭になかった。


 クソッたれ!!


 まずは鞭のような物を作り伸ばして、煩わしいドローン2機を破壊。続いて、けたたましいサイレンと共に後ろを付いて回るパトカー2台も叩き潰した。


 これで少しは—―。そう思ったところで県庁前の大通りに1人佇む見知らぬ美少女、八重と目があう。


 なんだ?


 封鎖された地区にいるのだから只者ではないと分かりそうなものだが、彼にそんなことを考える知能はない。


「邪魔だッ!! ボケェッ!!」


 少年は相手との力量差、その能力などを考えることなくただ自分の進行方向におり、妨害されそうだったからという至極単純な理由で力任せに突っ込んでいく。


 跳躍後、振り上げた右腕を振り下ろし、黒の拳が一気に伸びる。当然、男は八重を叩き潰すつもりであった。だが、それは宙の中ほどで何かに衝突する。見えない壁に防がれた。


 は!?


 少女は両手をポケットの中に入れている。


 なんだ!?


 ようやく彼女が只者ではないと理解し、弾かれた手の反動を利用し、地面へと着地する。


「はぁ……」


 弱い。


 通常であれば姿を現した時点で攻撃を食らわせるところではあるのだが、未成年者である為、殺しは不味いと警察からストップが掛かり、能力者が1人出たことから他の逃げた子供らも能力者の疑いがあるとして健太郎ら能力無力化の能力者たちが捕縛に奔走する羽目になった。こうして八重は健太郎らがここに来るまで彼をこの場に留めて置かなければならなくなったのだ。


「オラァッ!!」


 気合のみ。考えなしの伸びる右ストレートを見えない拳で相殺する。


 人々の営みが失われた空間に響く衝突音。「チッ」と男は舌を打ち、「邪魔すんじゃねぇよ!! ゴラァッ!!」と叫ぶ。


 うるさいなぁ……。


 そして叫びと共に始まった突然の連打に付き合いながら、ふと考える。


 今日帰れるのかなぁ?


 早く帰りたいと思いながら相手のスピードに合わせて拳を振るい続けた。


 なんなんだ、コイツ……。


 先程から1歩も足を動かさない彼女にようやく違和感を抱き、その歴然とした力の差を理解する。


 クソッ……!!


 コイツはヤバいと思いながらも連打を止めることができない。速度も徐々に上がり始め、下手に止めれば拳を打ち込まれてしまう。仕掛けた側だった筈がいつの間にかこの場を完全に掌握されてしまっていた。


 逃がさないよ――——。


 少年は彼女の能力、宙に浮く透明な2つの手が持つそのスピードと精密なコントロールにより造り出された蟻地獄から逃れることができない。


 このアマ……。舐めやがって……ッ!!


 先程から仁王立ちのまま動くことなく自身の本気を軽くいなし続け、かといって制圧しに来る訳でもない。誰の目から見ても足止めが目的なのは明らかであった。この苛立ちはそれを許してしまっている自分の弱さへの怒りもある。


 ぜってー殴る!!


 気合だけは一人前ではあるが、ただそれだけでどうにかなる問題でもない。


「はぁ……」


 いつまでこうしていればいいのか。いい加減、衝撃波も音もうんざりしてきた。


「!!」


 その時、ポケットの中のスマホが着信を告げる。


 来た!!


 「健太郎!!」


 スマホを取り出し、通話を開始した。


「てめッ……!!」


 しかし、そこで言葉が詰まる。ここまで長時間能力を使い続けたことのなかった男は限界を迎えた能力者がどういう状態になるのか身をもって知ることになったのだ。


 目はぼやけ、周りの音は遠くなり、代わりに自身の心臓の鼓動を直接聞いているような感覚に陥る。それに呼応し、呼吸も早くなり、酸素が足りないと脳が叫ぶ。


 ざけんじゃねぇ……。


 震える足でなんとか踏ん張り、飛びそうになる意識を根性で押し留め、もう既に敗北していることは理解していたが、それでも男は負けを認める、諦めることはできなかった。それをしてしまったら2度と立ち上がれなくなる。そう直感的に感じたからだ。


 しかし現実という魔物は非常で、とても残忍である。少年の心を情け容赦なくへし折りに来るのであった。


 健太郎がこちらに来ていると分かった八重はパワーと速度を上げ、少年の拳を押し破り、その顔面へと叩き込む。この一撃で彼の意識は飛んでいたが、今までの鬱憤を晴らすかのように連打、連打、連打、連打する。


 オラオラオラ、オラァッ!!


 こうして少年の体は宙を舞い、地面に落ちる。彼女の戦いは終わりを告げた。

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