切っ先の行方
時は再び、健太郎へと戻る。
もう、駄目か…………。
死力の限りを尽くし、もう何もできない。そんな状況が彼を精神的に追い詰めていく。
「…………」
しかし、勝ち誇っていた天木の顔が段々と険しく、苛ただしげなものへと変わっていった。
なんだ?
健太郎にはその理由は解らない。仕留めそこなったというのが理由という訳でもなさそうである。
こんな死に掛けに…………、何を今更…………。
辺りを見回す気力すらなく、ただぼんやりと自身の死を待っていると、突然ごう、と一陣の風が吹いた。
「…………」
あー…………、いてぇ………………。
舞い上がる砂に、当たる小石。鬱陶しいだけの砂粒が、今はやけに体に響く。
「————————」
その時であった。耳が波紋を広げる金属音を拾ったのは。
―—————なんだ?
見れば、右手の平が雲水の柄に触れていたのだ。
―———ああ…………。そういえば………………。
ようやく自身の取った行動を思い出す。健太郎は斬り掛かる直前、すっぽ抜けては困ると、粘土で手の平と刀をくっ付けていたのだ。
はは…………。忘れてたわ…………。
今だ手足は健在。動きはせずともこうして敵への牽制ができている。
―———まだ……諦めるのは…………、はえぇかもなぁ…………。
太陽の光が刀身に当たり、光輝く。
あのクソガキ…………。ナメたマネしやがって…………!!
天木は未だ剣を握るその姿に苛立ちを覚える。窮鼠、猫を噛む。その言葉通り、何か秘策があるのではないかと思い、最後の一撃を放てないでいた。
死にぞこないがァッ…………!!
そう息巻くも、攻め手に欠ける自身の能力が恨めしい。
それにあの刀…………!!
天木はその白い刀を睨み付ける。
弾いたと思ったら、俺の手をパックリ斬りやがって!! 気を纏っている様子は微塵もなかった!! なのに!! なんで俺の手が斬れるんだ!! ふざけんじゃねぇッ!! なんなんだッ!! なんなんだあの刀はッ!!
傷は完全に癒えてはいるが、あの切れ味は警戒すべきだ。そう思ったが為に刀を持ったまま倒れている健太郎の存在が面白くないのである。
どう殺す? このまま放置していても、ヤツはいずれ死ぬか? ―———いや…………。ヤツの頭を叩き潰し、確実に殺さなければ、俺の気が済まない…………。
「…………」
とはいえ、能力の相性は最悪。このまま不毛な睨み合いを続ける意味もない。
クソッたれぇ…………!!
奥歯を噛み締め、眉間に皺を深く刻む。————その時であった。ぽんっと地面から飛び出した、小さく丸い粘土が一つ、頭の兜、その右側に当たり、べちゃりと貼り付く。
あ?
なんだ? と迂闊にも触ろうとした瞬間、しまった!! と攻撃を受けてしまったことを後悔する。
何が起こる!!
爪で粘土が外れればいいが、絶対に取れないという確信が天木にはあった。
引っ付いた!! 粘土が引っ付いたぞ!! ヤバい!! 攻撃が始まる!!
足元に目をやり、何が始まるのか。天木は急ぎ、警戒態勢を取る。
「…………」
風が鳴く。砂が流れる。天木は全身の感覚を研ぎ澄ました。
「…………」
だが、何も起きない。健太郎もうつ伏せのまま動かなかった。
…………死んだのか?
そんな思いがよぎり、天木の足が半歩、右へと動く。————その時であった。
「ッ————!!」
天木の脳を一振りの刀が貫いた。刀神より生まれし一振り、分厚い刀身に炎を思わす刀文、『炎王』である。健太郎は炎王を包んでいた粘土を地中へと潜り込ませ、天木のところまで移動させたのだ。まさか本当に当たるとは思っても見なかった。
「うぎぎぎぎぎぎ…………!!」
おいおい…………。まだ死なねぇのかよ…………。
実際のところ笑う気力など残ってもいないが、頭の反対側まで貫かれているにも関わらず、動こうとするその胆力に呆れ、へんな笑いが込み上げてくる。
それじゃあ、もう1本……。頼むぞ、『星月』————。
丸めた粘土は地中を走り、天木の背後を取った。
行け―———!!
粘土は天木の背中、心臓目掛けて真っ直ぐ飛んで行く。
「ぬあぁぁぁぁぁぁぁーッ!!」
天木は叫び、なんとか粘土玉を弾こうとしたが、右手の甲に貼り付き、そのまま手の平を貫かれる。
「がッ………………」
この動きで、天木は完全に停止した。最早、命のロウソクは消えようとしている。
それじゃあ…………。こいつで最後だ…………。
震える手で雲水を掴み、その切っ先を天木へと向ける。そして、僅かに残る気を振り絞り、なんとか刀へと力を籠めていく。
当たんのか、これ?
手の震えが止まらず、なぜだか急に笑えてきた。
ぜってぇー当たんねぇ…………。
何やってんだろ、俺……。とは思いつつも外したら外したで、その時はその時だと割り切り、思い切って刀を飛ばした。
行け―———。
放たれた刀は矢の如く風を切り、重力に抗い、そして、天木の胸にその刀身を突き立てる。
マジかよ…………。当たったよ………………。
すげぇや…………。そう自分を褒め称え、健太郎は眠りに付くようにその目を閉じた。
……。
…………。
……………………。
……………………。
まだかな…………。
……………………………。
……………………………。
意識があるのも…………、なかなか辛いんだけど…………。
………………………………。
………………………………。
しぶといね、俺も…………。
こうして健太郎は程なくして到着した義人らによって運ばれていく。八重と同じ病院であった。その間、意識があったことに驚かれ、その頑丈さに義人はホッと溜息をつく。
ナインヘッド、壊滅————。翌日の世間は、この話題で持ち切りだ。巨大組織の崩壊によって、中小組織による派閥争いが起こるのではないかと世間は騒がれたが、そんなことを気にする健太郎ではなく、昼近くまで静かにゆっくりと、病室のベッドで眠るのであった。




