お風呂回という名の水着回
健太郎は戦場の全てを包み込み、まるでそこに最初から何もなかったかのような更地へと変え、自宅に向かって車を走らせる。そして、何事もなく無事に自宅へと辿り着いた。
「ただいまー」
「お帰りー」
「お帰りぃー」
リビングの方から八重と梓の声が聞こえてくる。
「おお、来てたんだ」
「うん。お邪魔してまーす」
顔を出し、梓に声を掛けた。
「そりゃいいけど、今2人だけ?」
先程の件を両親、特に母親に報告しなければと思っていたのだ。
「うん。先生は遅くなるって。おじさんも外に出てて、いつ戻って来るかは聞いてないかな」
「そっか。まあ、先に報告書でも書いておくか……」
八重の言葉を受け、手洗いうがいのついでに風呂が洗ってあるか確認しようと健太郎はリビングを後にした。
「ふぅ……」
風呂を洗い、水を溜め、沸かす。その間に報告書を書き終えた健太郎は夕食前に汗や汚れを落とそうと、風呂に入ることにした。
「あぁー……」
生き返るぅー……。
湯船に浸かり、手足を伸ばす。温められたことによる血流の改善で、凝り固まっていた筋肉が徐々にほぐれていく。健太郎はこの感覚が何よりも好きだった。
今日も疲れたなぁー……。
目を閉じ、頭の中を空っぽにしてお湯にその身を預け、しばらくぼーっとしていると、
「失礼しまーす」
梓が突然入って来た。
「はあ!?」
目を開き、急ぎ体を起こす。湯気の立ち込める浴室に立っていた梓は長い髪を濡らさないよう纏め上げ、谷間を強調する清楚で可愛らしい白いビキニを着用していた。細くも肉付きの良い手足。くびれた腹。形の良いへそ。いやらしさを籠めて描かれた鼠径部。
ネットに溢れかえる情報を目にしてはいたが、生身から得られる刺激はまるで別物だ。その時なぜか『ミロのヴィーナス』、『ヴィーナスの誕生』が頭の中を過ぎる。
マズイッ!!
出番か? と顔を出した息子をあっち行ってなさい!! と諫め、落ち着かせている間に梓は迷いなく湯船に入ってこようとしていた。しゃがんだことで、Ⅰの字を描く谷間が目の前に飛び込んで来る。
「何してんだよ!!」
手の平を彼女の目の前に掲げ、行動を制止した。
「何って……。彼女としてお背中をお流ししようと思いまして……」
「そんなこと頼んでもないし、彼女でもない!!」
勝手に進化させるなと健太郎は非難する。
「そんなに強く否定しなくても……」
「うっ……」
目の前で露骨に気落ちした様子を見せられると、こちらの所為ではないはずなのだが、なんだか申し訳ない気持ちになってくる。
「さむい……」
そりゃそうだと思いつつも両腕を抱える彼女を見て、無下に追い返すこともできず、健太郎はしょうがないと口を開いた。
まったく……。
「ほら、早く入りなよ」
「え? いいの!?」
パァッとその表情が明るくなる。本当によくコロコロと表情が変わるなぁと健太郎は呆れ、そして感心した。
「いいよ。早くあったまんなよ」
「ありがと!! 失礼しまーす!!」
まったく……。子供かよ……。
わーいと入って来る彼女にそんな感想を抱く。
「…………」
「…………」
雫の落ちる音。互いに体育座りをし、触れそうで触れない、そんな微妙な距離感を保っている。
「……なんだか、こうして一緒にお風呂に入るの、幼稚園以来だね……」
えへへと、照れ臭そうに笑う彼女であったが、健太郎は素早く冷ややかに返した。
「いや、そんな事実はないだろ」
記憶を捏造するな。
「あれ? そうだっけ?」
キッパリと答える健太郎に梓は1人とぼける。
「そりゃそうだろ!! 母さんが許す筈ないんだから」
あれ? そうすると今の状況って……。
「…………」
サァーっと血の気が引いていく。マズイと思い立ち上がろうとするも梓に右腕を掴まれ、逃げられない。
「あ、すごーい。腕ツルツルー」
鍛え上げた太い腕を彼女の長く細い指先がスリスリと撫でてくる。
「……まあ、剃ってるからね」
まあ、帰ってこねぇだろ……。
逃げることを諦めた健太郎は再び湯船に腰を下ろした。
「私も今日剃って来たんだー」
見てみて―と、両腕をこちらに突き出してくる。どうしても彼女の方を見ると谷間が目に飛び込んでくる為、あまりそちらに目を向けないよう努力していたのだが、彼女はそんなことお構いなしに強調させて来た。
「あーほんとだー。綺麗、綺麗」
適当に話を合わせるも彼女は納得せず、さらに体を寄せてくる。
「ねー、ちゃんと触ってみてよー。頑張ったんだよー」
ほらーと、最終的には体を密着させてきた。
「ホントだー。すべすべ―」
…………何やってんだろ俺。
同級生の柔肌を撫でる自分が余りにも情けなく、そして間抜けに思えて仕方がない。
「でしょー」
えへへーと喜ぶ彼女は可愛らしいとは思うが、先程の戦闘以上にどっと疲れを覚え始める。
なんなんだ、今日は……。
1人でゆっくり入りたかったのに……。癒しのひと時を奪われたものの自分を好いてくれている梓にはやっぱり強くは怒れない健太郎であった。




