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神牛一刀流〜近未来剣客浪漫譚〜  作者: ひろひさ


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13/33

決戦前夜

 この日のアジトは暗澹あんたんたる雰囲気に包まれていた。


 堅牢な要塞がハリボテと化していく。先輩たちと築き上げてきた物が崩壊していく様は天木にとって耐え難い苦痛でもあった。


 すみません、皆さん……。守れませんでした………。


 判断を誤った自分に謝罪の言葉など口にする資格もないのかもしれないが、口に出さずにはいられない。


 幹部を1人失い、貸し出されていた工作員が帰国する。佐伯の敗北をの国はどう判断したのか。大規模な浄化作戦が再び始まるのか。天木の耳にはもう、情報は入ってこない。


 ここまでか…………。


 1人の少年にしてやられた。流石は藤村の息子かと自嘲した笑みを浮かべる。


 そもそもメンツを気にしていたのは何も天木だけではなく、彼の国もそうであり、問題の早期解決を天木に求めてきたのであった。


 どこで間違えたのか。そもそもやはり、藤村には手を出すべきではなかったのか。自分の代で組織を終わらせてしまうことへの悔しさが天木を後悔の沼へと沈めていく。


「…………」


 しかし、それで終わる天木ではない。


 弔い合戦と行こうじゃないか…………。


 天木は至急、残った3人の幹部を招集した。


「————もう知ってるかとも思うが、佐伯の死に伴い、借りていた兵士たちが今夜引き上げる。お前たちも逃げたければ今すぐ逃げろ。金目の物をありったけ持って行ってな」


「…………」


 それはナインヘッドの解散を意味する。全てを語らずとも、彼らは理解した。


「————閣下は、これからどうするんですか……?」


 聞かずとも想像は付くが、正直な思いが口から零れ落ちる。


「……もちろん、居住地域に強襲を掛ける。戦いの中で死んでこそナインヘッドだ!!」


「…………」


 天木の決断に残りの幹部たちは何も言えなかった。


 冗談じゃない!! こんなところで死んでたまるか!!


 40代。中肉中背の男、戸塚はそう強い想いを内に秘める。


 さっさと金目の物を持ち出して、逃げたかった。


「…………閣下。自分は最後まで、閣下に付いて行きます……」


 最年少の鈴木は、曇りなきまなこを天木へと向ける。


「————自分も……!! 自分も最後まで、閣下と共に……!!」


 ナインヘッドの盾と呼ばれる佐藤が後に続く。


「————そうか…………。ならば、共に死のう」


「はい!!」


「喜んで!!」


 3人が固い絆を結ぶ中、戸塚だけが心の中で頭を抱えていた。


 なんなんだ、こいつらは!!


 「……」


 戸塚は何があっても口を開くまいと唇を堅く結び、目の前の壁をじっと見つめ続けていた。


「————戸塚」


「はッ!!」


 来たッ!!


 天木の呼び掛けに心臓がギュッと縮み上がる。


「お前はどうする」


「え……。私は……」


 言え……。言うんだ……。言うんだ、俺!!


 そう男は覚悟を決め、重い口を一気に開く。


「申し訳ありません!! 私は逃げたいと思います!! お恥ずかしながら、私の能力ではなんの役にも立ちません!! 逃げて生きながらえたいと思います!! どうかお許しください!!」


 そう捲し立て、戸塚は頭を下げた。


「…………」


 殺されるのか…………。


 沈黙が重い空気となって圧し掛かって来る。


「————そうか」


 どっちだ!! 


 戸塚の脇から一雫の冷たい汗が、つうっと流れ落ちた。


「——解った。今までご苦労だったな」


「は……。閣下…………」


 そこでようやく、戸塚はまともに天木の顔を見る。


「女たちと使えそうな男を何人か連れていけ。向こうの金持ちが女を欲しがっている。精々高値で売り付けてやれ。後は適当に女たちを売らせておけば、当面の生活に困ることはないだろう。落ち着いたら詐欺でもなんでも始めればいい……」


「あ、ありがとうございます!!」


 戸塚はもう一度頭を下げた。


「それじゃあ早く支度しろ。船が行っちまうぞ」


「はい!! 失礼致します!!」


 そう言って再度頭を下げ、戸塚は部屋を後にする。


「……いいんですか?」


 鈴木は問う。しかしそこに戸塚への侮蔑や非難の含みはない。


「——ふっ。構わんよ、別に。もう、どうでもいい…………」


 死を目前にし、全てがどうでもよくなっていた。興味があるとすれば明日、己がどう散ることになるのか。ただそれだけである。






「急げ……!! 急げ……!!」


 戸塚は金庫を開け、現金や宝石、表に出て来ては困る政治家や有名活動家、宗教家たちのスキャンダルなどを荒々しく右手で掴むと、左手で服の腹周りを引っ張ってできた異次元空間へと放り込んでいく。これが彼の能力、通称『4次元ポケット』だ。人や物をなんでも吸い込み、いつでも取り出すことができる。戦闘能力に劣る彼が幹部にまで上り詰めることができたのもこの能力のお陰だ。


 すると誰かが足音を立てて、こちらへとどんどんと近付いてくる。


 絵美か!?


 戸塚はすぐさま自分が呼び出した女性ではないかと思いはしたが、念の為、息を潜めた。


「戸塚さん?」


 だがそれは、杞憂に終わる。ドアをノックし、入って来たのは茶髪で20代前半の女性であった。


「ああ、絵美……」


 その丸い大きな瞳を前に戸塚は安堵の表情を浮かべる。


「何……やってるんですか……?」


 聞いていいものかどうなのか。迷いながらも彼女は疑問を口にした。


「ああ、今からここを逃げるんだよ。ナインヘッドはもうお終いだ。天木さんも明日、死ぬつもりだ」


「ん? え? 死ぬ?」


 絵美は事態をまるで飲み込めていない。当然だ。今日まであって当たり前の場所が突然なくなると言われ、はいそうですかと受け入れられる彼女ではない。それは理解できる。だが、今は急を要する状況であった。


「悪いけど、ゆっくりと説明している暇はないんだ。急いで船に乗らないと……。絵美は急いで、荷物と女の子たちを集めて、下で待っていてくれ。俺は船に乗せて貰えるよう交渉してくる」


「え? でも、いま何人か、愚連隊の人たちの相手をしてて…………」


 愚連隊というのはなんの能力も持たない10代から20代の若者たちで構成されたグループである。全員、黒い特攻服を着ているのが特徴だ。


「チッ。あのガキども……」


 なんと言って誤魔化すか……。騒がれても面倒だな…………。そうだ!!


「天木さんが明日行う極秘作戦の為、至急部屋に戻るように言っていたと伝えてくれ。それで班長は点呼し、消灯と言えば大人しく従うはずだ」


「う、うん。解った……」


 これでよし…………。


 絵美を見送り、戸塚も交渉へと急ぐ。時刻は午後11時18分。決戦当日まで、残りあと42分————。

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