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神牛一刀流〜近未来剣客浪漫譚〜  作者: ひろひさ


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12/22

包囲網を突破せよ

 くそ……。完全に囲まれちまったなぁ……。


 土の中から僅かに顔を出し、目視と気探りで状況を確認する。相変わらず銃で武装した民兵は気をまったく感じさせないが、東西南北に分かれた4つの気配は一目で能力者のものだと理解した。


 あの1つはモグラで、残りの3つはやけにか細いな……。


 他がどんな能力か解らない以上、下手なことはできないが、そんな悠長なことも言ってられない。


 早いとこ頭を潰して、ここから逃げないと……。


 あくまでも手ぶらでは帰らないつもりの健太郎である。ここまでされて逃げるのは癪だということもあるが、タネは解らずとも面倒な能力者を放っておく訳にもいかず、さらにふと妙案を思い付いたからでもあった。


 そうだ。地面を粘土にしよう……。


 こうして、健太郎は反撃の狼煙を上げる。






 ぐにゃり。


「!!」


 口元を黒い布で覆い隠し、長い左右の袖口から握り拳大の鉄球が付いた鎖を地面へと垂らす20代後半の女性、ダウジング・クイーンは健太郎が攻撃を仕掛けて来たことをすぐさま察知し、後方へと跳躍。粘土化した地面を回避し、鎖を高く直立させ、その上から戦況の変化をつぶさに観察する。


「——マスター。目標が攻撃を仕掛けてきました」


「なにッ!!」


 インカムを通して状況説明をしている間にも廃屋や非能力者たちは次々と地面の中へと飲み込まれていく。


 どこにいる……。


 視界には映らない。であれば—―——。


 そこッ!!


 地中の中で僅かに揺れた魂の気配目掛けて、鉄球が放たれる。


 気を纏った鉄球は液状の粘土を貫き、地面を砕く。そして狙い通り、虫ほどの小さな気配を叩き潰した。


「……………」


 感触が違う……。謀られたか?


 手に馴染んだものとは違う感覚に戸惑い、急ぎ右腕を動かす。しかし、鎖が音を立てるだけで、鉄球はピクリとも動かない。


 なるほど……。


 その瞬間、潜んでいた健太郎は地上へと飛び出し、ダウジング・クイーンと同じ高さまで跳躍。弓を手に持ち、矢を引き絞っていた。


「……」


 この距離であれば、矢の速度が勝るとでも思ったのか……。


 彼女は切れ長の目を右側へと流し、放たれた矢を難なく鎖に変えた舌で受け止める。


 彼女の能力は気を鎖に変える。体を鎖に変える。体から鎖を出す。であり、普段は両腕に付けた腕輪から出る鎖でけん制し、舌は奥の手として使うことの方が多かった。


 つまり奥の手を晒した彼女ではあったが、能力の全貌が明らかにされた訳でもない為、焦ることもなく、まだ手はあると落ち着き、次の行動を開始する。


 その為、受け止めた矢が粘土へと変わり、鎖を丸め固めたところで冷静に切り離し、舌を再生。そして、重力に敵わず落ちていく健太郎を彼女の右手親指の鎖が一直線に飛んで行き、その腹を貫いた。


 ぐにゃり。


「!!」


 しかし、それも粘土かと驚いたところで、本体の健太郎が背後から上段で彼女に斬り掛かる。手に持っていたのは粘土で作った刀ではなく、刀神から手に入れた白い刀、名は捉えることのできない雲であり、流れる水のようでもある。己の技はそうでありたいと願い、この刀を『雲水うんすい』と呼ぶことにした。


 稲妻斬り―ッ!!


 振り下ろした瞬間、上がったのは血しぶきではなく、火の花。彼女の首の周りにはいつの間にか1本の鎖が丸い円を描いてその身を守っている。耳障りな金属同士の衝突音が崩れ行く世界に響き渡る。


「チッ!!」


 健太郎は一度距離を取るかと思いきや刀に纏う気の量を一気に上げていく。それと共に風が唸り、気が叫ぶ。


 稲妻、落とし――——ッ!!


 刀を押す推進剤となる気の刃。健太郎は強引にクイーンの体を地面へと叩き落とした。


 グゥッ!!


 鎖と粘土がクッションにはなったが、衝撃を殺し切れない。


 マズイッ!! 粘土が!!


 硬直した彼女の体を白い粘土がその身に纏わり付いていく。


 早く逃げ————。


 体を動かそうとしたその瞬間、1本のいかづちが走り、地に落ちる。それは白き刀を逆手に持ってその鎖を断ち切り、白銀の刃を腹に突き立てる健太郎であった。


 あ……。


 何もできない。抗うことも受け入れることも頭にはなく、ただ単純に死だけが脳を支配する。


「…………」


 健太郎はすぐさま刀を持ち換え、一閃————。腹から左肩までを一気に斬り裂いた。


「クイーンッ!!」


 誰の叫びか。見れば、声を上げたのはいつの間にかやって来ていた佐伯であった。彼にとってクイーンはデッドマンズの中でも特にお気に入りで、あの天木も彼女の虜であった。


「…………」


 棒立ちの男の首を撥ねるなど健太郎にとっては朝飯前。呆然とした顔のまま、頭が地面へと転がっていく。それに呼応し、主を失った偽りの生者たちも次々とその身を崩していった。


 負けた……。


 なんてことだと土井は驚愕する。


 どうする? これから……。


 土の中で今後の身の振り方に頭を悩ませた。アジトに帰る選択肢はあり得ない。自分1人だけおめおめと帰れば、間違いなく天木に殺されるだろう。


 どこかに逃げるか……。


 東京、名古屋は論外だ。それぞれにホッグ・ノーズ世代の能力者が東京には2人、名古屋には1人いる。


 とりあえず北陸の方に逃げるか……。


 そこまでどう逃げるのか頭が回らない中、一先ずこの場を離れようと土の中を移動した。


 まさか、ここまでやれるとはな…………。


 なんてガキだと溜息をつき、暗闇の中、北に真っ直ぐ掘り進んでいく。


「逃がさねぇよ」


 それは誰の声か。耳にしたのは気のせいか。地面が豆腐のように2つに割れ、地上の光が降り注ぐ。土井はその光を目にすることはなく、土の中に己の臓物をぶちまけて、分かれた体はまるで双子の赤子のように背中を丸めている。


「…………」


 周囲の気を探り、健太郎は敵の殲滅を確認した。


「————ふぅ」


 終わったか…………。


 血は付いていなかったが手首で刀を振り、白い鞘へと刃を戻す。


 さて、片付けだ……。


 やってられんとは思いつつも健太郎は死体の回収を始めた。


 なんとか勝てたな……。


 最後は敵の大将に助けられたなと思い返す。


 恋人だったのかな……。


 そう考え始めると、なんて気に入らない終わり方だと表情に鬼が宿り始める。


 あの間抜けのせいで戦いに水を差されたと、面白くない健太郎であった。


 他のヤツともやりたかった…………!!


 なんで前に出て来た!! 1人ヤラレても包囲網を狭められただろう!!


 最後の行動が理解できない。なぜこんなにも腹が立つのか……。馬鹿にされたように感じて仕方がなかった。これまでの自分の鍛錬、実力を否定されたような気分だ。


 情になんか流されやがって…………。俺が叩き潰してやる…………!!


 憤怒の表情に支配され、煮えたぎるはらわたを抱えながらとても勝者には見えない面持ちで歩く健太郎であった。

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