第46話 絶世の美女に瑕
顔を上げるとそこには、腰に手を当てた美女の姿があった。
雰囲気が一瞬で変わるのがわかる。
これはあれだ。芸能人ってやつだ。
前世で見たような海外セレブみたいなものだ。
ハチミツのようにキラキラと光り輝き、腰まで届きそうなほど長く、ゴージャスとしか表現できない金髪。
緑がかった青い目。綺麗に通った名は筋。口角がクンっとあがった綺麗な唇。
芸術品のような顔だけじゃない。
高身長でグラマラスな体型。
そして惜しみなくボディラインを強調させる金糸のアクセントが入ったピチピチの白いミニ丈のドレス。
同じく真っ白なオーバーニーブーツ。
ドレスとブーツの絶対領域までが輝いていそうなほど、白い肌。
「あの・・・」
「あのさ!妖精は?居るって聴いてたんだけど!」
ご用はなんでしょうか?と口を開きかけた瞬間、顔や体型に似合わない声が紡がれた。なんだこのメスガキボイス・・・。
うわー。ギャップえぐいわー。
「えーっと。あの。えっと。その。どちら様でしょうか?」
「ナーシャのことはいいの!君たち、妖精とお友達なんでしょ?お兄ちゃんに聞いたよ!会わせてよ!」
あ、そうかそっち系か。
比類なき美貌に生まれたのに、話し方からにじみ出るメスガキ感。
「あ、はい。人違いです」
僕はそういうと、テオドラに向き直って「このパン、いい匂いするよね」なんて声をかける。
「ちょっと!なんでナーシャに嘘つくの!」
「バターというのがあってね。手にいれたらパンに塗りたいんだよね」
「へぇ、シュンくんは物知りさんだねぇ」
そのまま聞こえないフリに突入した僕に、隙はない。
テオドラは僕とその絶世の美女を交互に確認している。
ダメだ。テオドラ。その人と目を合わせちゃいけない。
「もう!なによ!ナーシャが話してんじゃん!こっち見なさいよ!」
「バターだけじゃないんだ。パンには生クリームとあんこもよく合うんだよ」
「うんうん。シュンくんは、すごいね。えらいね、よしよし」
「ちょっと!お子様同士でイチャイチャしてないで、ナーシャの話しを聞きなさいってば!」
両手をバンとテーブルに叩きつける。
「あの、本当に人違いで・・・」
ですからと言い終わる前に、その残念な絶世の美女の両目から一筋の涙が零れて声が止まった。
「お兄ちゃん!こいつらがナーシャのこと無視する!もうヤダ!」
え。泣いてる?え。なんで?
「、、、シュン。俺の妹だ、、、」
残念な絶世の美女の横には、先ほど話していた美術彫刻のような美青年シモンが立っていた。
4人がけのテーブル。
僕の左にテオドラ。テーブルの上でハチミツ酒を飲んでるミレイユ。僕の正面にはシモンさん、そしてその隣に妹のナーシャさん。
ナーシャさんの目線は、ずっとミレイユに向いている。
「、、、すまなかったな」
「え?あ、あぁ。大丈夫ですよ?」
「ちょっと!君たち、やっぱり妖精の仲間じゃん!なんでナーシャに嘘ついたのさ!ね!お兄ちゃん!」
「そうだな、、、」
うわー、このメスガキボイスと容姿が一致しなさすぎて頭がバグりそう。
「ねぇねぇ!お兄ちゃん!見て!動いてるよ!何か飲んでる!可愛い!お兄ちゃん!ホラ!見て!」
ナーシャは隣に座っているシモンをユサユサと揺さぶりながら、その目はミレイユから離れない。
「まぁ、ミレイユは妖精ですから小さくても淑女たる年齢ですよ?それにテオドラはお子様じゃないですね。一応、成人して・・」
「うそー!お兄ちゃん!こっちの子、成人だって!エルフかな!」
「、、、そうだな」
「やっぱり!エルフだと思った!ね!お兄ちゃん、ナーシャ偉い?」
「ああ、、、そうだな、、、」
「いやいやいやいやいや!そうだな!じゃありませんよ!僕はともかく、テオドラはエルフでもなく人間ですって!」
ちょっとはテオドラも何とか言ってよ。ってニコニコ笑ってる。
僕が子供扱いすると怒るくせになぜだ?
「お兄ちゃんがエルフって言ったよ?」
「いえいえ、あなたがエルフだと言って、彼は面倒くさそうに適当に答えただけでしょう?」
「え?なにそれ・・・。お兄ちゃん、ナージャに適当に返事してるの?」
「、、、いや、それはない。俺はナーシャを信じているからな」
「ねぇ、お兄ちゃん、本当?」
「、、、、。俺はナーシャには嘘を吐かないだろ?」
「そだね!」
ナーシャは屈託ない笑顔でシモンの腕に絡みついて、ヘラヘラ笑ってる。
これはあれだ。噂に聞く、ブラコンってやつだ。
それもかなり重度のやつ。
やれやれと思っていると、ハチミツ酒で上機嫌になったアホがブラコンメスガキボイスに話しかけたんだ。
「アンタさぁ、アタシがそんなに珍しいわけ?アタシって有名人?もしかして」
いや、それはないだろう。どう見ても飲んだくれたダメな人にしか見えない。
「うん。ナーシャは初めて見たよ!ね、お兄ちゃん!」
「、、、、そうだな」
「そう。ついにアタシを見つけたわけね?いいわ。あんたはアタシのベストフレンドよ」
「やった!聞いた?お兄ちゃん!ナーシャに妖精さんのお友達ができたよ!」
「、、、よかったな」
なんなんだ、一体、この状況は・・・。
隣に座ったテオドラは、コップに入ったホカホカと湯気の出るお茶を美味しそうに飲んでいた。




