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会社なんて行ってられねぇ!

 結局、棚からぼたもちてきな金儲けはできそうにない。


 新物質で金が稼げればいいが、そもそも、あの白い粉が本当にまったく新しい物質なのかどうかも確定してない状況では、それだけに期待するのはまずい。


 そして2億を一月で稼ぐには、俺も本腰を入れる必要があるだろう。


 だから俺は翌日に出社してすぐ、山田の席に向かった。


「山田さん、ちょっと話があるんですけど」


「なんすか?」


「ここじゃまずいので、ちょっとトイレまで来てもらっても?」


「……良いっすよ」


 トイレに移動して、手洗い場の前に立つと、俺は本題を切り出した。


「山田さん、今日から一月、休みを貰えませんか?」


「……はぁ? いきなりなに言ってるんすか?」


「訳あって、どうしても一ヶ月の休みが欲しいんです」


「病気かなんかっスか? 先輩は奥さんもいませんよね?」


「友達が病気で……その、彼を助けるためにどうしても休みが必要なんです」


「先輩、社会ジョーシキってものが無さすぎますよ。身内が病気になったならまだ分かるっすけど、赤の他人が病気になったからって、1ヶ月も休めるわけないでしょ?」


「……すみません」


「急に会社休んで、その分の仕事はどうなると思ってるんスか?」


「あの、だから山田先輩のお力で、なんとかして頂けませんか?」


 そして俺は、懐から100万円の札束をこっそり取り出した。

 社内の些事に囚われている時間は、俺には無い。

 時間を金で買った方が、結果的に金も稼げるだろう。


「……え、これは?」

 山田の動きが固まった。


「100万あります。このお金は全て山田さんに差し上げますから、俺が休めるように、部長や他の人達に根回ししておいて貰えませんか?」


「……」

 山田は、信じられない。という目つきで俺の顔をじっと見てきた。

 それも当然だろう。山田から見ておれは部下。自分よりも安い給料で働いているはずの俺がそんな大金を余らせているはずがないと思っているだろうからな。


「どうですか? 急いでいるので、早く結論をだして欲しいんですけど」

 俺が圧を掛けると、山田は渋々という様子で頷いた。


「……良いっすけど、どういう理由で休むつもりっすか」


「それは山田さんが考えてください。それを含めての100万円ですから」

 俺は100万円の札束を半分にわけて、片方を山田の胸ポケットにつっこんだ。

「これは前金の50万円です。問題なく休みが取れて、一ヶ月後に会社に復帰できたら、その時にもう半分を渡します。どうですか? そう悪い話でもないと思いますけど」


「……まあ、良いっすけど」


 山田はまんざらでもなさそうに、胸ポケットの中の現金を取り出すと、それを自分の財布の中にしまった。


 なるほど、現金ってやつはこうやって使うんだな。まったく、金持ちっていうのはいい気分だな。


 ともかく、これで一ヶ月の間は会社のことを考えなくても良いだろう。



 会社からダンジョン協会に戻ると、ミカンと凜音が話しこんでいた。


「うう……かわいそうに、凜音さん……」

 ミカンの目には涙が浮かんでいる。

 うん、どうやらミカンの様子から判断するに、凜音から「幹人」についての話を聞いていた最中だったらしい。


「二宮さんっ! なんとしても2億円を集めてあげましょうよ!」

 そして俺の姿を見つけるやいなや、そう叫んできた。これは話が早いな。


「俺ももちろんそのつもりだ。そのために今日から1ヶ月、会社を休むことにしたからな」


「え!? そこまでしてくれなくても……」


「さて、それじゃあ早速、会議を始めよう。時間がないんだろ? 凜音」


「それは……そうっスね。ふたりとも、本当にありがとうございますっス」

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