第22話 ア・ロア遺跡
旅を始めて三日目の朝。遂に僕たちは、目的地であるレオノア高原の遺跡に到着した。
その日は、深い霧が出ていた。霧の中に浮かんでいるように見える遺跡は、まるで天空の城のような幻想的な雰囲気を湛えていた。
此処が、ルマの時代よりも古い文明時代に築かれた遺跡か……
僕が思わず遺跡に見とれていると、マテリアさんが引き締まった面持ちで僕たちに声を掛けた。
「此処が、今回調査することになっているア・ロア遺跡よ」
「如何にも何かお宝が眠ってそうな遺跡だねー。楽しみ」
フラウは遺跡を見つめてうきうきと肩を躍らせている。
僕たちは遺跡調査に来ただけだってこと、忘れたわけじゃないだろうな、こいつ。
「早速調査を始めるわよ。調査はできれば一日で終わらせたいから、時間は有効に使いたいわ」
マテリアさんはそう言って、僕の肩を叩いた。
「先頭はシルカ君、貴方よ。宜しくね」
……はい?
僕は自分の耳を疑った。
今、僕が先陣を切って遺跡に入れっていう風に聞こえたんだけど……
僕はちゃっかり僕の背後に回っているマテリアさんの方に振り向いた。
「……僕が先頭? 何で?」
「何でって……この中で男の子は貴方一人だけだもの。何か不都合かしら?」
「いやいやいやいや。ちょっと待って」
僕はぶんぶか首を振った。
「僕は戦えないって散々言ったでしょうが。中で魔物が出てきたらどうするつもりなんだよ」
「大丈夫よ。私は今回でこの遺跡は七回目だけど、一度も魔物に遭遇したことなんてなかったから」
「そんなの何の保障にもなってないじゃないか!」
微笑むマテリアさんの肩をがしっと掴んで、僕は顔を彼女の顔に近付けた。
「六度大丈夫だったからって七度目も大丈夫だとは限らないんだよ! 僕は嫌だぞ、こんなダンジョン紛いの場所を先頭で歩くなんて!」
「シルカ、オクトラーケンにトラッパー投げつけた時の勇気を思い出せば大丈夫だよ。あれより凶悪な魔物なんて出て来ないから。多分」
「あの時は無我夢中だったからできただけだ! それに多分って何だ多分って! 全然大丈夫に聞こえないんだけど!」
気楽な様子で会話に割って入ってくるフラウに叫び返し、僕はぐじゃぐじゃと自分の頭を掻き毟った。
「やっぱり引き受けるんじゃなかった、この仕事! 帰りたい! 帰る!」
「男の子が情けない声出さないの。さあ、行くわよ。フラウさんもそれでいいわよね?」
「意義ないでーす」
「意義大あり! 一般人を先頭にするなんて何考えてるんだ! 契約違反だ!」
「シルカうるさい。入っちゃえば案外大丈夫なもんだよ。観光だと思って気楽にいこうよ」
「人の話を聞けー!」
火の入ったランタンを押し付けられ、僕は二人に強引に背中を押される形で遺跡の中に足を踏み入れた。
やっぱり探索とか調査の仕事ってろくなものがない。
もう二度とマテリアさんの依頼は引き受けるものかと胸中で毒づきながら、僕は石の通路を進んでいった。




