第20話 冒険者は発見を求める
翌朝。雲ひとつない見事な晴天の下、マテリアさんは馬車に乗って僕とフラウが待つよろず屋の前にやって来た。
おそらく旅の途中で食べる食事などの物資が入っているのだろう、巨大なバックパックを持っている。
停車した馬車を降りて、マテリアさんは笑顔で挨拶をした。
「おはよう。晴れて良かったわね」
僕に向かって微笑んで、それから隣にいるフラウに視線を移した。
「そっちの人は──」
「あたしはフラウ・サンブルグ。シルカの護衛でね、一緒に来てほしいって頼まれたんだ」
僕が頼んだんじゃなくて、あんたが来たいって言ったんでしょうが。
ふうん、とマテリアさんはフラウの全身を観察した。
「冒険者さんね。遺跡は何があるか分からないから、冒険者さんの協力があるのは有難いわ」
どうやら、フラウの同行は問題なく許可が下りたようである。
「さ、乗ってちょうだい。遺跡までは三日かかるけど、ちょっとした旅行だと思って楽しんで」
僕とフラウは馬車に乗り込んだ。
馬車の座席には、長旅にも耐えられるようにクッションが置かれていた。これは有難い。
マテリアさんが馬車に乗って席に着くと、御者がゆっくりと馬車を発車させた。
がらごろと、音を立てながら馬車は一路遺跡を目指して走る。
道中、何もありませんように。
天に祈りながら、僕は流れ行く景色を窓から眺めていた。
それにしても、女というのはよく喋る。
マテリアさんとフラウは、意気投合したのか楽しそうに会話を繰り広げていた。
それに興味がない僕だけが、まるで蚊帳の外に追いやられたかのようにぼんやりと窓の外を見つめている。
とはいえ、距離が近いから嫌でも彼女たちの会話が耳に入ってくる。
今は、僕たちが冒険者になりたての頃の話をしているようだった。
「……シルカってね。今じゃ結構丸くなったけど昔は針みたいな奴だったんだよ。パーティのあたしたちとも馴れ合わないで、いつも一人だけ別方向見ててさ」
……勝手に僕を話のネタにしないでもらいたいものだ。
「魔物を見つけたら問答無用で燃やす、罠はわざと填まって踏み潰す、仲間が傍にいても平気で爆発魔術を使う、だから付いた二つ名が灰燼の魔術師。まるで危険物だよね。取り扱い注意の貼り紙したくなるくらいだったよ」
「それは、随分と……、……過激な人だったのね」
マテリアさんの僕を見る目が微妙に可哀想なものを見るような目になったのは気のせいだろうか。
「それだけの力があったのに……どうして、冒険者を続けないであんな街外れで商売人をやってるのかしら」
「さあ? ある時急に魔術師をやめるって言い出して、あたしたちの説得も聞かないでアメミヤに帰っちゃったんだよ。理由なんてこれっぽっちも教えてくれなかったよ」
フラウの視線がマテリアさんから僕へと移った。
「ねえ、シルカ。あんたが冒険者をやめた理由って何なの?」
「……別に何だっていいだろ」
僕は窓の外から視線を動かさずに、ぶっきらぼうに答えた。
「人には色々事情があるんだ。あんたが今でも冒険者を続けてるのも、僕が冒険者をやめたのも、事情があってのことだ。だろう?」
「それは、そうだけどさ」
微妙に腑に落ちない様子で、それでも一応は答えが聞けて納得はしたのか、フラウはふぅと深く息を吐いた。
こめかみの辺りを指先でかりかりと掻きながら、彼女は、
「あたしは、シルカともっと色々な場所を一緒に見て回りたかったよ。単純にダンジョンに行くだけじゃなくてさ、綺麗な景色の見える場所に行ったり、遠くの街に行ったり、色々」
……おそらく、彼女はそれを今でも諦めていないのだろう。
だから色々理由を付けて、僕をアメミヤの外に連れて行こうとするんじゃないかって、思う。
彼女の気持ちは、理解できないでもない。今はこんな関係でも、僕と彼女は付き合いが長いから。
でも、それでも。僕が彼女の望みを叶えることは、これから先もおそらくはないだろう。
僕は、アメミヤの街でよろず屋を経営する一般人だから。
彼女とは、生きる世界が根本的に違うのだ。
「この世界には、凄いものがたくさんあるんだよ。数え切れないくらい」
フラウは遠くに目を向けた。
彼女の碧眼に、空の青が映り込んでいる。
それは、宝石のように、美しかった。
「シルカにも、それを知ってほしかったな」
──ごろごろと、馬車は街道を走っていく。
遺跡への旅は、まだまだ始まったばかりだ。




