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#16:決着(大団円に)


―え! ……軽蔑だなんて。僕は、オオハシさんに感謝しているんです。前にも言いましたが、僕は子供の頃からのいじめられっこで、家族からも見放され、邪魔に思われてきました。


 人生は勝たないとクソになる、って初めの頃、言ってくれましたよね。それを聞いて思ったんです。僕に足らなかったもの、それは勝とうとする意志、勝つための努力をすることだったんだと。ケチュラは僕にとっての救世主です。この僕に、勝つためのきっかけを、チャンスを与えてくれたのですから。


 モトツグさんの姿を重ね合わせてくれたことは、光栄です。僕は人からそんな風に何かを期待されたことなんて無かった。無視されるか、見下されるか。天国のモトツグさんは、そんな僕を見かねて、オオハシさん、あなたという名セコンドに引き合わせてくれたんじゃないでしょうか。だから僕らはモトツグさんが決めたマッチングなんですよ。


 改めて言います。僕は軽蔑も同情もしません。僕は誇りと自信を持って、ただ勝つためだけのために、ケチュラのリングに上がります。オオハシさんから叩き込まれた、格闘の全てと、モトツグさんから受け継いだ、このマスクに込められた熱意を持って。


 そうそう、僕が何でマスクを新調しないで、このモトツグさんのガンフマスクを修繕して戦いに臨むか、言いますね。


 僕、『豆巻 丸夫』は音読みにすると、『トウ・カン・ガン・フ』……そう、僕もまた、『ガンフ・トゥーカン』なんです! これはもうモトツグさんの思し召しですって。こんなに心強いことはないです! だから僕と一緒に戦ってください。皆さんで一緒に僕と戦ってくださいっ!! ……あ、三郎太はジョリーさんに預けないとですけどね。


…………


<ガンフとオスカー、共に相手を見合ったまま動かないっ!! いや動けないのかぁー!? これまでリングで数々の対戦相手を秒殺で沈めてきたその女帝も、この極東からのマスクマンに対してはかなり、手こずっているっ!! 凱旋記念のこのケチュラのリングがっ! 思わぬ形でオスカーを苦しめているのかっ!? 珍しく苛立つような仕草と表情だっ!!>


 オスカー選手は、この試合、おそらくお遊び程度にしか考えていなかったはず。軽い蹴り一発で伸せる相手たちばかりだろうと。でもあいにく僕は異常に打たれ強いんだ。幼い頃から謂われない暴力を耐えてきたから。心が折れない限り、体は動く。


 そして、「ケチュラマチュラは体重無差別。よってガタイの大きさはイコール強さへ繋がる」。


 オスカー選手のしなやかだけど細身の体格からすると、どう考えても50キロは無いはず。倍くらいの僕の、この脂肪と筋肉がほどよく付いた体に効率よくダメージを与えるには、接近して腰を入れた蹴りが必要だ。先ほどからあまりやる気はないのか、舐められているのか、それともこんな所で怪我をするのを恐れているのか、見た目の派手さとは逆に、あまり芯に響くキックは食らっていない。


……その隙をつければ、あるいは。


<ガンフ突進だぁぁぁぁっ!! 打撃か? 組み合いか? オスカーはまたしても右ローでその出鼻を挫こうとするがっ!! 何とガンフ、両手両足を広げて大の字で跳躍っ!! 覆いかぶさるようにしてオスカー選手に体当たりだっ! これは不意を突かれたか? オスカー体を捻じるが、ガンフの巨体に飲み込まれるぅぅーっ!!>


 僕が会得したかった技。相手のアキレス腱を手首の骨で圧迫し、激痛を与えるこの技。痛みは凄いけど、足へのダメージはそれほど無いはずだから、この国民的英雄相手に使うにはうってつけだ。やはりガンフ・トゥーカンの名を継ぐ者、最後は渋いプロレス技で決め (極め)たいっ!!


<ああーっとお!! ガンフの両腕にオスカーの右足が巻き込まれた瞬間っ!! オスカー苦悶の形相だあぁぁぁーっと、降伏っ! 降伏の意っ!! け、決着ぅぅっ!! 何! という結末ぅぅぅ!! 第48回ケチュラマチュラ・ハヌバヌーイ・シラマンチャス優勝者はっ!! 極東からの鋼鉄のオオハシっ!! ガンフぅぅ、トゥぅぅぅぅぅぅカぁぁぁぁぁぁぁンン、だぁぁぁぁぁッ!!>


 凄まじい怒号だか歓声だかが、リングの上の、僕の周りを覆いつくす。


 うるさすぎて却って静寂にも感じるその真っただ中で、


 僕は両手を突き上げて勝利を、勝つことの意味を噛み締める。


 振り返ったコーナーポストには、オオハシさんの姿が。


 笑っているんだか、泣いているんだか、よく分からないけど。


 その両手には、モトツグさんと聡子さんの位牌が力いっぱい握られていて。


 高々とそれらが掲げられるのを見て、僕も笑いたいのと泣きたいのが同時にこみ上げてきて、ぐちゃぐちゃの変な表情になってしまう。


 マスクをつけてて良かったね。




初完結です。読んでいただいた皆様に感謝します。

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