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「あ、あいはらくん…」
「ゆみ、ここなんかどうだ?」
見られた見られた見られたー!
タクマと一緒にいるところを知り合いに見られたショックで挙動不審になるあたしに気付くことなく、むしろ相原くんの存在にすら気が付いてないタクマは、なんだか知らないが嬉しそうにデートの行き先を提案してくる。
「…中原さん…もしかして……彼氏…?」
「ん?あれお前誰?ゆみの知り合いか?今いーとこなんだから邪魔すんなよ」
「タクマ黙って。相原くん、こいつが彼氏なんてあり得ないから」
ようやく相原くんに気付いたタクマが見当違いの威嚇をするものだから、狼狽えている場合ではないと、自分を取り戻して否定の言葉を発する。タクマなんかと付き合ってると思われるのは心外だ。
「じゃあどうゆう関係?」
「お前に関係ねーだろ」
笑顔で追及してくる相原くんに若干鬼気迫るものを感じ、思わず口ごもったせいでタクマに先を越されてしまった。だから威嚇するなっての!
「ただの幼なじみだから!あ、相原くん友達待ってるよ。行ってあげたら?」
「そーだ。邪魔するな早くどっか行けよ。なぁゆみ、ここなんかよさそうだろ?」
話を聞いてほしくて仕方ないタクマが、しっしっと追い払うような仕草をしたのを引き攣った表情で見やり、相原くんに控えめな笑顔を向ける。
「ごめんね、感じ悪い奴で。明日のデートがよっぽど楽しみみたい。相原くん、また来週。よい週末を」
最後に小さく手を振ると、相原くんは何故か血の気の引いた愕然とした表情でふらふらと出口に向かった。友達ほっといていいの?首を傾げるあたしの前では、タクマが嬉々として一人で喋り続けていた。
日曜日、部屋でだらだらしていると、タクマと真吾がやってきた。
「ゆみ、これお土産」
「わぁありがとー!昨日はどーだった?」
「最高だった。まず、真吾の服装が可愛くて可愛くてこのまま閉じ込めてやろうかと…ぐぁっ」
「はいはいストップ。そんな話は聞いてないから」
突然始まりかけたタクマの惚気を力付くで蹴り飛ばして止め、真っ赤になっておろおろと視線を彷徨わせる真吾の頭を撫でてやる。
「真吾はどーだった?」
「おい!俺の話を聞け!」
「やだねー。亭主関白なんて今時流行んないわよ。あたしは真吾に聞いてるの!ほら、飲み物でも持ってきなさいよ」
「チイィッ!」
盛大な舌打ちのあと、ドカドカと部屋を出ていくタクマに構うことなく、真吾と向かいあって座る。
「あ、あのねっ、まず駅で待ち合わせして、タクマのほうが先に来てたんだけど、タクマの服装がすっごく格好良くて…」
「だから服装の話はいーから」
「あ、そっか。でね、最初に動物園に行って、それから………」
とても楽しかったのだろう、真吾は緩んだ表情でいつもより良く喋った。タクマがこう言った、こんなことをしてくれた、嬉しかった、楽しかった、また行きたい。そんな言葉が幾度も飛び出した。自然とあたしも笑顔になって、真吾が話しやすいように相槌を打つ。
ふと、タクマが遅いなと思って、様子を見に行こうと、真吾に断ってから立ち上がりドアを開ける。そこにはタクマがいた。にやにやと締まりのない顔をしたタクマが。
「…タクマ、盗み聞きなんて嫌われるよ」
うん、まぁ想定はしてた。真吾が自分と出掛けた時のことを嬉しそうに話すのを聞いていたかったのだろう。でもねぇ、その顔はヤバイよ。いくら美形でも。
突然ドアが開いて慌てたタクマが、お盆の上の紅茶を溢したので、奪い取って入れ直しに行くことにする。「ハウス!」と部屋を指差してタクマに怒鳴ったら、すごすごと中に入っていった。
続く
誤字等ご容赦ください。