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42. アメリカ艦とのランデブー(アイオワ登場)

.......ワールド・パワーとワールド・レスポンシビリティを、ふたつの国がアメリカに強要した。ドイツと日本は、両方を強く望んだ。現在、これらの国はアメリカのもっとも強固な同盟国の中にあげられている。……サミュエル・E・モリソン, 大谷内一夫(訳)『モリソンの太平洋海戦史』62頁より。



(前回からの続き)アメリカ艦とランデブーするため異界と人間界の境界にあるバミューダ海域に浮上した我が異界艦隊。


浮上するや突然に謎のドローン部隊の襲撃を受け、これを退けた後にその正体について考えていると……突然水平線の向こうから四隻の戦艦が接近してきた。


甲板には水兵の代わりにダンサーが並んでド派手なアメリカンショーを見せつける。


「「ようこそアドミラル!ワタシたちアイオワシスターズはアナタを歓迎するワ!」」」」


わたしがイギリス戦艦マレーヤの甲板で呆然としているて、各艦から四人の女性がシュタッとこちらに飛び乗ってポーズを決める。


センターの女性がこちらに近づいてきた。ブラウンのロングヘアに濃い眉毛のグラマー美人。


「ナイス・トゥ・ミーチュー、アドミラル!ワタシがアイオワNe!」


わたしの目を見て挑戦的な笑みを浮かべる。わたしの手を力強く握る。それでも彼女の手は暖かかった。


「ああ、こちらこそよろしくお願いする」


「それではワタシたちアイオワシスターズの自己紹介をするNe!」


突然、四隻のアイオワ級の甲板に楽団が現れて派手なバックミュージックを奏でる。


「太平洋で慣らしたワタシたち戦艦は金食い虫という濡れ衣を着せられて退役させられたワ。しかしモスボールでくすぶってるようなワタシたちじゃない。世界の自由と権利を守るためならいつでも蘇る!それがワタシたちアイオワシスターズ!」


突然テレビドラマのイントロのような口上を始めるアイオワ。


わたしだけではなくて隣にいるマレーヤ、霧島、ヴィクトリアスが呆気にとられているとバックミュージックが変わった。


「ワタシはリーダー、アイオワYo! 通称プレジデントの戦艦。艦砲射撃の名人ヨ。ワタシのような武勲艦でなければ、世界最強のアメリカ艦隊の旗艦は務まらないワ」


次に前に出てきたのはブロンド髪のショートヘアのグラマー美人。わたしに向かって蠱惑的なウィンクを送ると


「ワタシはニュージャージー。通称ビッグJ。パナマ運河を通過できるスマートなボディと16インチ砲マーク7に男はみんなイチコロよ。ハッタリかまして、ベトナムのアオザイからトマホークミサイルまで、なんでも揃えてみせるワ!」


次に出て来たのはブロンドのロングヘア。彼女はわたしを懐かしそうに見つめると


「はーい、お待たせ〜。ワタシこそミズーリ。通称マイティー・モー。パイオニアドローン使いとしての腕は天下一品!艦長が心臓発作?味方からの誤射?だから何??」


そして最後に出て来たのはブラウンのロングヘアをしたヴィスコンシン。彼女はバーンと西部劇のポーズを取った後で


「ウィスコンシン、通称ビッグ・ウィスキー 。電子戦の天才ヨ。ハルゼーでもブチ当ててみせるワ!でも、コブラ台風だけはノーサンキュー!」


「「「「ワタシたちは正義のために世界中の海を駆け巡る、頼りになる神出鬼没の高速戦艦(A)イオワチーム!助けを借りたいときは、いつでも言ってネ!」」」」」


以前にどこかで何かで聞いたことがあるのだが、最近は洋ドラのテレビ放映もあまりやらなくなったしテレビ自体見ないようになったのでさっぱり思い出せない。


わたしが記憶を辿っているうちに霧島が真っ先に反応した。


「ドローン使いの腕は天下一品……電子戦の天才……やっぱり!さっき、わたしたちを攻撃したドローン部隊はあなたたちだったのね!!」



挿絵(By みてみん)

左からアイオワ、ニュージャージー、ミズーリ、ウィスコンシン。




霧島に問い詰められたアイオワ。金剛だったらこういう時は東洋的に?腹芸で韜晦するところだが……(19話参照)


「OH!さすがは霧島。ザッツ・ライト・グレート!(大正解!)。同じ高速戦艦として鼻が高いワ」


……えらくあっさり白状したものだ。わたしは思わずアイオワに聞いた。


「そんなに簡単に認めてしまっていいのかい?」


アイオワは全然悪びれずに

「もちろんネ!アメリカ人はウソをつかないネ!ジョージだって桜の木を切ったことを認めたんだからネ!ワタシはオネスト・ジョンみたいにオネスト・アイオワと呼ばれてるネ!」


すかさず霧島がツッコミを入れた。

「ワシントンの桜の木もピノキオの正直ジョンもウソの話でしょ!」


アメリカ艦とイギリス・日本艦の間に一触即発の空気が流れる。


マレーヤと霧島が胸を持ち上げるように腕組みをする。すると戦艦マレーヤと戦艦霧島の主砲がグルリと回って戦艦アイオワたちに照準を合わせる。


ヴィクトリアスが腕を振ると空母ヴィクトリアスが搭載しているシー・ハリケーンが戦艦アイオワの上空を旋回しはじめた。


ドローンと激しく交戦した駆逐艦たちは主力艦以上に激しい目でアイオワたちを睨んでいる。それをシェフィールドが無言で押さえる。


しかし霞の「……舞風たちの仇!」と呟くには大きすぎる声が聞こえた。


そのオーラを受けつつもアイオワは余裕の表情で


「Oh! みんなやるつもりネ?カモン!」


そしてボクシングスタイルで構えながらリズミカルにステップを踏み始めた。


「アイオワ!キープ・ムービング!キープ・ムービング!」


そう言ってニュージャージーたちが声援を送る。


「人間体で決着をつけようというのだな?」

マレーヤの重々しい声が響く。


「面白いですわね。戦艦のお二方が出るまでもありませんわ」


そう言って前に出たのはヴィクトリアス。


「この航海の間に霧島から習ったバリツを試してみるのも一興」


彼女はジャケットを脱いでブラウスだけになり、動きやすいようにスカートをビリッと破る。


「ヴィクトリアス、摺り足を忘れないで!」


声をかける霧島。


……これはとんでもないことになった。


いや、人間体同士の決闘に持ち込んだということは、双方とも艦隊戦だけは避けるつもりなのか。


だとしたらこのままやらせるのも一手か……


わたしの思考は答えが出せないままぐるぐると回転する。


一方で、アイオワはらんらんと目を輝かせて


「アイ・ウォント・ユー! アイ・ウォント・ユー!(喰ってやるワ!)」


アイオワの虎のような目と吠え声を目の当たりにしてわたしは腹をくくった。


……いかん、これは止めないと……


しかし、前に一歩進んだ瞬間、アイオワが軽く放ったジャブの風圧を受けて足が止まる。声が封じられる。


ジャブの風圧を受けたヴィクトリアスは凶悪そうな笑みを浮かべると、両手を胸の前で軽く構えると等速度運動の歩みに変わった。


バリツは日本の柔道がもとと言っても……ヴィクトリアスのそれは戦後のスポーツ化した柔道ではなくて実戦的な柔術だ!


わたしがなけなしの勇気を出してもう一度前に進みかけたところ……


突然、空中に一機のワイルドキャット戦闘機が現れた。


空中を旋回するワイルドキャット戦闘機。アイオワ、ヴィクトリアス、他の皆も見上げる。


キャノピーがパカっと開くとそこから操縦士がパラシュートをつけて飛び降りる。


「二人ともやめなさい!」


声とともに甲板に降り立った操縦士は女性だった。パイロットスーツではなくて平服である。


しかし、それは白を基調とした柔らかなワンピース。アイオワたちの星条旗がプリントされたシルクハットにジャケットといった悪趣味なものとは違う。戦前のアメリカの一般女性が着ている簡素な服だ。


その女性はタタタタッと走って二人の間に入る。アイオワはサッと後ろに下がる。彼女はヴィクトリアスにとりすがると


「ごめんなさい!ヴィクトリアス.......ロビン!この娘たちがやりすぎて!」


ヴィクトリアスは叫んだ。


「サラトガ!シスター・サラ!」


アメリカ空母サラトガはわたしたちに向かって深々と頭を下げた。


サラトガが乗っていたワイルドキャットは勝手知ったる他人の家とばかりに空母ヴィクトリアスに着艦した。


挿絵(By みてみん)

アイオワ


挿絵(By みてみん)

サラトガ


「ロビン……!」「シスター・サラ!」


アメリカ空母サラトガとイギリス空母ヴィクトリアスは二人だけの愛称を呼びあってヒシと抱き合った。


空母の全長が888フィート対778 フィートとは逆に、人間体のサラトガは長身のヴィクトリアスより頭一個半低く、ちょうどヴィクトリアスの胸に顔を埋めている格好になる。


お互いに二人の世界に入ってしまったので周りは取り残された。もちろんわたしだって置いてきぼりだ。


わたしが声をかけようか、でも邪魔したら悪いと迷っていると、二人はそれに気付いたらしい。抱き合ったままこちらを振り向いた。



ヴィクトリアスはサラトガの頭を撫でながら


「シスター・サラとは先の大戦以来のコムラードですの。わたくしがアメリカに派遣されて第14任務部隊に編入され、ロビンのコードネームを与えられている間、シスター・サラはずっと僚艦でしたの。お互いの搭載機を取り替えっこもした仲ですわ」


サラトガは自分の髪をヴィクトリアスの指に髪を委ねたままで


「あの43年の春……蛙飛び作戦が始まる直前の南太平洋では、連合軍の空母はわたし一隻。そんな時にイギリスからヴィクトリアス……ロビンが来てくれてとても心強く感じたのですよ、アドミラル」


「でも、シスター・サラ。あなたは戦後にあのテリブルな作戦に参加させられてもう二度と会えないと思っていましたわ」


「わたしもよ、ロビン。こうしてまた会えるなんて……神さまのお導きだわ」


そう言って互いの目を見つめ会い、再びヒシと抱き合う二人。


ややシラケた空気が漂い始めた中で………ハッと我に帰るサラトガ。


わたしたちに「ごめんなさい!マイ・アポロジーズ!」と頭を下げる。


「さっきのドローン部隊の攻撃はわたしたちなんです!アイオワたちがあなたたちの力を試したいと勝手にアグレッサー部隊を動員して……本当にすみません!」


深々と下げた頭を上げると

「被害を受けた艦はわたしたちアメリカ艦のドックで修理させて頂きます」


そう言った後でアイオワたちをジロリと睨む。


「マザーが聖務で遅れるのを良いことにこんな悪戯を……!後でコンフェッションね!」


コンフェッション……告解/告白という言葉を聞いてシュンとなるアイオワたち。


「今時、教会でコンフェッションなんてね……」という囁き声がイギリスの駆逐艦の間で交わされた。


そう言えば20世紀だと同じ英語圏でもイギリスとアメリカでは脱宗教化の度合いが異なっていたのだったか。いや現在でもそうだ。ヨーロッパに比べたらアメリカ人の生活には教会が根付いている……地域にもよるが……閑話休題。


さて、ヴィクトリアスとサラトガの感動?の再会、修理代はこちらでもつというサラトガの言葉、シュンとなったアイオワたち……


みんなはシラケたり安心したりスッとなったりで敵意と緊張が解けたようだ。


しかし、その中で霞だけが納得できない表情をしている。


そうなのだ。駆逐艦の中でもイギリス艦はもともとアメリカ艦と同盟国、愛憎が複雑に絡んでいると言っても友軍だ。


そして日本艦でも雪風は戦後に中華民国海軍に編入されてからアメリカ軍との交流を経験している。


しかし、坊ノ岬沖海戦で撃沈された霞にとってはアメリカは敵国のままだ。異界に生まれ変わった現在は友軍だと頭ではわかっていても気持ちがついていかないのは当たり前だ。


わたしは霞に近づいて声をかける。


「霞……」


雪風がそっと彼女の袖を引っ張る。


それでも霞はそっぽを向いたままだ。


「霞……」


わたしは再び声をかける。


霞はボソッと呟いた。


「司令、あたしにとってはアメリカは今でも敵国のままなの……」


「戦後、多くの旧海軍軍人にとってアメリカ軍は友軍となった……と言ってもダメなのだろうな……」


霞はコクッとうなずく。



皆がシーンとなった時、水平線の向こうから一隻の艦艇が現れた。単装砲だから駆逐艦だろう。


星条旗をマストに掲揚しているからアメリカの所属だとわかる。


その艦から一人のセーラー服の少女がこちらに飛び移る。


彼女はわたしやマレーヤたちに敬礼して


「サラトガ、やっぱりマザーは聖務で遅れるから先に皆サンをベースに案内するようにト」


そう伝えた後で霞と雪風に近寄って来る。


「ワタシ、ニッポン艦ヨ。アナタたちのナカマ。ワタシ、ニッポン艦ヨ。アナタたちのナカマ」


ぎこちない日本語を腹話術の人形のように繰り返した。


もちろん霞や雪風は当惑している。霞は露骨に何だこいつという顔をする。


少女がニッコリと笑うと、彼女の操る駆逐艦のマストから星条旗が降ろされる。


その代わりに旭日旗がスルスルと掲揚された。


……それは同じ旭日旗でありながら、霞や雪風が掲げる旗とは微妙にデザインが異なっていた。


挿絵(By みてみん)

ヴィクトリアスとサラトガ。


「ワタシがニッポン艦ヨ。アナタたちにもナカマ。ドウカ仲良くシマショウ」


ブラウンの髪にブラウンの瞳。コロケーションが微妙におかしい助詞の使い方。どう見ても彼女は日本人ではないようだが……


気の短い霞が真っ先に反応した。


「あんたみたいな怪しいガイジンみたいな日本艦がいるかー!艦姓名を名乗れ!」


その少女は頭の中で作文をするかのように一瞬考えてから


「ワタシはデストロイヤー・ヘイウッ……アウチ! く……く……駆逐くぅわん、ありあけネ」


それでも……というより当然ながら霞は彼女の言うことを信じなかった。


「ふざけるな!有明はあんたみたいな怪しいガイジンじゃない! アッ……今、あんたヘイウッドって言いかけたでしょ?思い出した!ヘイウッド・L・エドワーズ!スリガオで満潮たちを沈めたアメリカ艦が何しに来た!」


ヘイウッドと呼ばれた少女は必死で首を横にふる。まるでお手伝いさんに問い詰められてごまかそうとするカトゥーンの青猫みたいだ。


すると何かに気づいた雪風が


「あ……ひょっとしたらこの娘って梨ちゃんから聞いた……霞ちゃん、この娘も日本艦だよ」


雪風の言葉に合わせて今度は必死で首を縦にふる。カトゥーンだったらブロックウッドの軽快な効果音が入るところだ。


やがてその娘は助けを求めるようにわたしをじっと見つめる。


……艦名ありあけ……梨の旧知……そうか!わたしもようやく記憶がつながった。


「霞、時代は君たちと異なるがこの娘も日本艦だ。護衛艦ありあけ。戦後に海上自衛隊が編成された時にアメリカから貸与された駆逐艦ヘイウッドが名前を変えた艦だ。同じくわかばと名前を変えた旧日本海軍駆逐艦・梨と共に初期の海自を支えた」



そこでありあけはフーッとため息をついて

「アナタたちとしゃべっていてようやく日本語が戻ってきたワ。そう、司令官のいう通りワタシはアメリカ艦ヘイウッドだけど昭和34年に来日して海自の護衛艦ありあけになったノ。よろしくネ、センパイ」


それでも霞は納得しない。


「じゃああたしが尋問するわ。戦後の海自について幾つか聞く。それに答えられたらあんたの言うことを信じてあげる」


ありあけはいつの間にか流暢になった日本語で

「ワタシにとって海上自衛隊はかけがえのない第二のキャリア。何でも答えてあげるワ」


「じゃあ一つ目。サ第一号作戦の司令官の息子さんが戦後に海自に入ったと梨から聞いたわ。あんた何か知ってる?」


するとありあけは即答した。


「マイリトルシスター・ワカバの航海長さんね。あの娘はまるで自分のお兄さんのように話していたわ。お父上が戦犯として裁かれたのは残念だったけど、香港に寄港した時、ご最後の場所にお参りできたのはせめてもの慰めだわ」


それを聞いて霞も雪風も目を閉じる。


そして、彼女が梨と親しかったことがわかったので、霞は幾分か警戒心を解いたようだ。


「それじゃあね。ミッドウェーの時の嵐の水雷長さんが海自に入ったって風の噂で聞いたけど?たしか下の名前が小説家みたいで……でも呼び方はセイチョウとは違う……」


ありあけは少し考えた後で

「おう!アドミラル・マウンテンストリームね。海兵66期だったから72期のワカバの航海長さんより海自でも出世が早かった。でも海幕入りしてからは背広組との予算折衝に苦労していてね。いつも懐に短刀を呑んでやり合ってたって噂だったワ」


すると雪風が

「雪風たちの時と変わらないよ、嵐の水雷長さん。納得できないことがあるとすぐに上官に食ってかかるって有名だったもの」


そして雪風も霞も二人揃って遠い目をした。往時は茫々として夢の如し。


その後で霞は表情を和らげて

「ふーん……どうやらあんたはあたしたちの仲間のようね。ぬるくなってるけどラムネでも飲む?」


「ありがとう!嬉しいワ!」


霞からラムネを受け取ったありあけは美味しそうに飲む。そして


「ワタシたち海自はアナタたち帝国海軍の伝統を受け継いでいるの。こんどの週末には恒例の金曜カレーをごちそうするわ」


その瞬間、霞の表情が一変した。


「ちょっとアンタ!あたしたちは金曜日にカレーを必ず食べるなんてやってないわよ!」


ありあけは戸惑いながら

「え……え……?週末の夕食にカレーを食べるのは帝国海軍から海自に受け継がれた伝統だと……」


「ミッドウェーの運命の五分間といい、勝手にもっともらしい話をでっち上げるんじゃなーい!!」


ありあけに襲いかかろうとする霞をわたしと雪風が背後から必死で止める


それでも霞の勢いに往生しているなか、アイオワとニュージャージーがこちらにきた。


「カスミ、ちょっといいカシラ?アドミラル、霧島から許可はとったワ」


彼女たちの人間体は身長180センチ以上、その二人が霞の前に立ち塞がった。


挿絵(By みてみん)

ヘイウッド・L・エドワーズまたの名をありあけ。




戦艦二人に取り囲まれた駆逐艦・霞。人間体の彼女も二人との身長差は頭一つから二つ分ほどあるのだが、それでも怯んではいない。


「ふうん……やろうっての。あなたたちがトラック泊地で舞風たちをなぶり殺しにしたようには行かないわよ」


霞は半身になって即応できる体勢を取る。雪風がまた彼女の袖を引く。


雪風が押さえたからなのか、それともわたしの前だからなのか手を構えることはしなかった。


アイオワは霞をじっと見つめて


「Oh! やっぱりヘイルストーン作戦のことを言っているのネ」


ニュージャージーはその蠱惑的な顔に沈痛な表情を浮かべて

「AH……さっきあなたが『舞風たちの仇』ってワタシたちを呼んだのが聞こえたのヨ」


霞は二人を睨んで

「そうよ。あのトラック泊地の空襲では那珂さん阿賀野さん太刀風ちゃんたちが空爆で沈んだわ。でも香取さんと舞風は空爆で動けなくなったところを、あなたたち二人の艦砲でなぶり殺しにあった。生き残った野風から聞いたわ」


そして目を炎のように輝かせると

「生まれ変わった今では友軍になったと言ってもそのことは忘れないわよ!」


霞の中では戦争の歴史が今でも続いている。わたしに何が言えるのだろう。何が止められるのだろう。ここは彼女たちに任せるしかない。


アイオワは陽気な彼女にふさわしくない真剣な表情をすると


「あなたを傷つけるかも知れないけど、本当のことを言うわ。わたしにとってヘイルストーン作戦はパールハーバーのリベンジだったの」


霞は少し当惑した表情になって

「パールハーバー……真珠湾の復讐……復讐ってどういうこと!?」


ニュージャージーがすかさず

「アイオワ、言い過ぎてはだめよ」


さらにありあけが

「霞、アイオワが言っているのはグラージじゃなくてリベンジだから……日本語に直すと雪辱よ。誤解しないでね」


それでも霞は怒りをおさめない。雪風がそっと手を添えた彼女の拳がぶるぶると震えている。


アイオワは霞の震える拳に気づいたのか気づいていないのか。視線を落とさずに真剣な表情のまま言葉を続ける。


「あのパールハーバーの騙し討ちでは多くのアメリカのバトルシップ……ビッグシスターたちが沈んでいったわ。ネバダは港外に脱出しようとしたけど、水道をブロックすることを防ぐために港内で着底することを選び、日本の航空機になぶり殺しにあった。そしてアリゾナは今も千人を越える将兵とともに海に沈んだまま……将兵だけじゃない、宣戦布告がないままに襲われたので港内に残っていた民間人も犠牲になったわ」


そうだ。わたしはアメリカ艦とランデブーする前にモリソンの著書を読んだが......アメリカにとって真珠湾、パールハーバーは数多くの兵士が死に至るまで勇敢に戦った物語から成る悲劇の歴史なのだ。


霞は吐くように言葉をつむぎ出した。


「それで……その仕返しにトラック泊地では舞風をなぶり殺しにしたというのね。舞風だけじゃない、赤城丸たち特設艦船に乗った民間人たちも……」


トラック泊地は海軍の基地だったので料亭小松の支店を初めとする多くの民間施設があった。米軍の侵攻があまりにも早かったので、空襲の中での引き揚げとなり、多くの民間人の犠牲者が出たのだ。


トラック泊地の戦いを思い出したかのように、アイオワは悲しげな表情で


「言い訳はしないわ。それが戦争よ」


ニュージャージーも傍らで沈痛な表情になる。


続けてアイオワは

「でも、舞風……あの日本の駆逐艦は撤退する仲間を庇って自分からわたしたちの的になった。絶望的な状況の中で自分たちの義務を果たしたパールハーバーの将兵を思い出す。わたしのあの後の長いキャリアで忘れたことはなかったわ」


ニュージャージーも

「そうね。あの駆逐艦……舞風は恐るべき敵だった。ラッキーがあちらに傾いていたら彼女が撃った魚雷でわたしは沈んだかも知れない。コリアやベトナムの戦いでもあそこまで死を身近に感じたことはなかったわ」



霞の拳が少し下がるのをわたしは見た。


アイオワは表情を改めると

「言いたかったことはこれだけよ。舞風が生まれ変わっていたらまた会いたいわ」


ニュージャージーも

「むかし激しく戦った相手と一緒に戦隊を組む日を楽しみにしているわ」


そしてアイオワは陽気なアメリカンに戻ると、いきなりジャブを霞の顔面に繰り出して


「舞風に伝えて。もしリベンジしたいのなら受けて立つワ。今度は日本海軍お得意のロングランス魚雷をニュージャージーだけでなくてワタシにもぶち当ててご覧ナサイ」


霞は自分の顔面に出されたアイオワの拳を睨んでいると、いきなり自分の両手を差し出して植芝流柔術の間接技をかけた。


アイオワは技が完全に決まる直前にかろうじて逃れると、腕をさすりながら


「アウチ……!さすがは日本のデストロイヤーね」


と笑いながら後ろを向いて去っていく。


ニュージャージーは

「バカなことするからヨ」

とアイオワをたしなめた後で霞に苦笑を送ると片手を振って去って行った。



ありあけが慌てて

「ごめんネ。あの人たちってああいう真似しかできないの。あれでもあなたたちを尊敬しているのよ。でも本当にごめんネ」


雪風が後ろから霞の両肩を抱いて背中にすがる。


「霞ちゃん……」


坊ノ岬沖海戦まで生死を共にした戦友は辛うじてその一言だけを口に出した。


霞はそっと雪風の手に自分の手を添える。


わたしは霞に聞いた。


「霞、キミはあれで良かったのかい?」


霞はフンと鼻を鳴らして


「あそこまで悪びれていないと怒る気も失せたわ。決して忘れることもないけどね。ま、一時休戦ということにしといてあげる」


わたしは霞の肩にそっと自分の手を当てた。


すると遠くからマレーヤが

「アドミラル、これからアメリカ艦の基地に向かう」


わたしはマレーヤに応じて号令をかけた。

「出航準備、しかるのちに全艦抜錨!」




挿絵(By みてみん)

ヘイウッド・L・エドワーズ


挿絵(By みてみん)

ニュージャージー


挿絵(By みてみん)

ミズーリ


挿絵(By みてみん)

ウィスコンシン


挿絵(By みてみん)

アイオワ「ワタシたちアメリ艦がベッドで着るのはシャネルの N°5だけネ」

後書き


アメリカ戦艦アイオワ

「ザッツ・グレイト!ワタシたちアメリ艦自慢のアグレッサー部隊ドローン○○大隊(部隊名秘匿)のアタックを退けるなんて、さすがは軍縮条約でワタシたちのライバルだったイギリスと日本ネ!」


イギリス戦艦マレーヤ

「まったく人騒がせなやつらだ」


日本戦艦霧島

「ま、誉められると悪い気はしないわね」


アイオワ

「バーット!でもドローン戦法も毎日のようにイノベーションが起きているからネ!油断するのはNo! なんだからネ!」


霧島

「じゃあ、最近はどんな戦術が産み出されたのかしら?」


アイオワ

「アストラル(幽体)・ドローンの強襲!光だけでなくて電子も物体も透すからネ!これからは何もない青空へ対空砲火を続けろという間抜けな命令をプーチンが出したそうYo!」


マレーヤ

「そんな荒唐無稽な技術....実用化どころか研究されている情報すら我がロイヤルネイビーのインテリジェンスには引っ掛かってこないのだが」


アイオワ

「チッチッ、ドローンのイノベーションは現場の兵士が起こしているからネ。研究所にスパイを送り込んでもダメダメ……(iPhoneを出して) ルック!この戦場動画が動かぬ証拠ネ!」


霧島

「もっとよく見せて……これはナノミカンに作らせたフェイク画像よ!幽体ドローンが目標の前で実体化する映像はAI生成、空襲だけは実際の映像を使っているわね」


アイオワ

「OHHH! てっきりホンモノだと思って無差別絨毯リポストしまくっちゃったネ!」


マレーヤ

「リポストがリポストを産んで大変なことになってるぞ」


霧島

「デマ動画を転載しているのは自称『電子戦の天才』ウィスコンシンかしら?複数のサーバーから複数のアカウントで……という古典的な方法だけど数とスピードで攻めると効果があるわね。コミュニティノートの訂正もプラットフォームのアカウント停止も焼け石に水だわ」



アイオワ

「OHHH……ワタシたちはタダ、独裁者の侵略と戦う小国にエールを送ろうと……」


マレーヤ

「あの国が小国という認識は改めたほうがいいぞ。わたしたちの時代と違って今や現役兵だけでも公称90万人……しかも最新の軍事ノウハウを習得した……ん?」


霧島

「どうしたの?」


マレーヤ

「学者アカウントまでデマ動画をリポストしたな。マスメディアで注目されるスター学者のようで、タイムラインが騒然としている」


霧島

「関連するポストがアルゴリズムで上がってきたわね。ええと.......


学者アカウントA『 やれやれ。こんなデマ動画をリポストするなんて。これこそ以前にわたしが言われた片棒担ぎ』


学者アカウントB『片棒担ぎが気に入らないならわたしのアカウントじゃなくてあの人に直接言ったらどうです?あんたもいい年なんだろ?』


学者アカウントA『いい年をしてというのは年齢差別ですね』


……何これ?」


アイオワ

「別の学者アカウントも何か書いてるネ。本人はこっそり呟いているつもりでもAIが関連ポストで拾うから丸わかりネ。


学者アカウントC『専任職のある方がそうでない方にああいう事を言うのはハラスメントですね』


学者アカウントD『Bさんはそういうつもりで書いたのではないと思いますよ』


学者アカウントC『本人が何と思っていても強者と弱者の力関係は変わりませんね』


学者アカウントD『 Aさんは地域研究者として国際的に知られた方です。当該地域にかけては英語圏が専門のわたしなど及ばぬ見識をお持ちです。わたしはAさんを弱者とは考えていません』


学者アカウントC『あなた、5年前に全く違う内容のポストをしていますね。考えを変えたのですか?』


学者アカウントD『わかりました。わたしは今までAさんの論文を自分の学生に薦めていましたが、これからはやめます』


……ベリー・ベリー・ハイコンテクストなやり取りでさっぱりわからないネ」


マレーヤ

「今、このポストをアドミラルに見せてきたが……この戦争に関しては学者間でグループが分かれているということだ。

歴史や文化の研究者:安全保障の研究者、イギリス・EUの専門家:ロシアの専門家:当該地域プロパーの専門家、マスメディアで積極的に発言する学者:そうでない学者……。

それに研究者間のネットワークや個人的な感情が入って一本や二本の軸では整理できないそうだ」


霧島

「複雑ね。ウチの陸軍の派閥争いにそっくりだわ。みんな自分は群れていないと思い込んでいるのが面倒くさいのよねえ」


マレーヤ

「特に地域プロパー専攻の研究者は開戦に至るまでの経緯や現地の政界事情に詳しいため、侵略者と戦えという世論には同調しない場合もあるらしい。むしろ戦争が起きたために詳しくない人間からも注目されるのを皮肉な目で眺めているのではないか……ということだ、アイオワ(ジロッ)」


アイオワ

「やっぱり学者の世界は陰湿NE! イギリス人みたいだWA!」


マレーヤ

「(無視) そして、このやり取りには出てこないがもう一人のキーパーソンが隠れているようだな」


霧島

「つまり偉すぎて名指しで批判できないのね。まるでウチの軍令部総長みたい……おっと鶴亀鶴亀」


マレーヤ

「しかし戦場とは別の意味で恐ろしい世界だな。我らがアドミラルが万年ポスドクとやらだったのもむべなるかな……だ」


アイオワ

「アドミラルも可哀想ネ。今度、ワタシたちアイオワシスターズのダイナマイトボディで慰めてあげないとネ!バット、ハグから先に進むのはお互いに相手を良く理解してカラ!」


霧島

「ちょっとアイオワ。提督を慰めるのは結構だけど、このデマ動画はどうするの?」


アイオワ

「OHHH......ウィスコンシンに連絡してデマ動画の転載はやめさせたけど、リポストのリポストがリポストされてもう止まらないネ」


マレーヤ

「さっき、この処置もアドミラルに聞いてきた。アドミラルの言葉を伝えるぞ。

『NHK21時のニュースでは取り上げていないから大丈夫だろう。どうせ明日から始まる人気原作アニメ『天幕のジャガイモ女』の話題であっという間に忘れ去られる。以後気をつけるように』

ということだ」


アイオワ

「OH~~デマ動画を転載したワタシたちが悪いケド……戦争と新作アニメの話題が同じだなんて複雑な気分ネ……」

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